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41 救出大作戦

 確か男がもう一人いたと思うけど……周りを見渡すと簡易な机に本棚、奥への扉が一つある。

 ……扉の向こうか。

 足音を立てず、慎重に歩く。

 扉はこちら側へと開くようになっているため、影に身を潜め中の状況を伺う。


「ふー、スッキリっスー」


 水の流れる音と共に男が出てくる。トイレだったのか。


「騒がないで」


 男に背後から近づき、首元にナイフを突きつける。

 身長の関係上、下から突きつける格好となったのは仕方がない。


「ななな、なんスか」

「動いたら刺すよ」


 騒ぎ出しそうとしていた身体がピタリと止まる。

 正直者だね。


「あの女の子をさらってどうするつもりなの?」

「じ、自分は来たばっかりで、よ、よくわからないっス」


 ……少しナイフに力を入れる。

 刃が首の薄皮を破り、血の球を作り出す。


「ほ、ほんとっス! 最近来たばっかで、よくわかってないんスよ!」

「……良くわかっていないのに、悪事に手を染めているの?」

「そこは、その、食っていくためには仕方がないと言うか、なんと言うか……」


 はぁ……。


「質問を変える。関わっている人間は何人いるの?」

「い、今は自分を含め三人っス。依頼してきた人は別にいるっスけど、そっちはよくわからないっス」


 あまり有意な情報じゃない、か。

 まぁ、軽そうな人間だし、あまり大事なことは教えてもらえないか。


「そう、ここは誰の持ち物?」

「依頼してきた人の別荘みたいなとこらしいっス。自由に使っていいとは言われたっス」


 なるほど。


「大体わかった。放して上げる。でも、騒がれると面倒だから少し眠ってもらうよ」

「へ……? ぴぎゃっ!!」


 背中に雷撃を打って黙らす。

 とりあえずフェリサちゃんの無事を確認できたけどどうしようか。

 上の連中もそのまま放置ってわけにはいかないし。

 だけど、親玉が誰かすらわからない。

 部屋の中を見渡す。

 簡易な机に椅子、棚があるぐらい。

 あとはさっき男が出てきたトイレか。

 目ぼしいものはないなぁ。

 そう部屋の中を見回していると――、


「おい! 誰だてめぇ」


 勢いよく開いた扉には男たち二人が立っていた。


「なにやら騒がしいと思って来てみたら、どういう状況だ?」

「わかんねぇけど、バカがしくったらしいな」


 スキンヘッドの男と、オールバックの男二人が銃口をこちらに向けながら問いかけてくる。


「ちょうどいい。誰の指示で動いているの?」

「あん? 女ぁ?」


 今の私はフードを目深くかぶり、顔がわからないようにしている。


「喋るとでも?」


 ま、そうだよね。

 リンちゃんならわかるかな?

 この家の見取り図も入手できたのだから、誰の持ち物かもわかっているだろう。

 そうとなればこの二人にも用はない。

 フェリサちゃんを連れてさっさと脱出しよう。

 とはいっても素直に通らせてくれないだろうなぁ。

 仕方がない。正当防衛だし、とりあえず無力化するか。

 右手を前に出し魔力を練る。


「「??」」


 この世界では本当、魔術に対しての対策がなってないよね。

 自分たちが()()を向けられていることに気がついていないんだから。

 魔法の無い世界だから、仕方がないといえば仕方がないんだろうけど。


風槌(ふうづち)


 手加減した風槌をオールバックの男に向かって叩き込む。


「ぐはぁっっ!」

「なっ……!」


 轟音と共に入ってきた扉ごと後方へと吹き飛ばされていく。

 ……ちょっと、強すぎたかな。

 残った魔力をそのままに、戸惑っているスキンヘッドの男に狙いを定め――さっきよりは威力を抑え風槌を放つ。


「ぐっ!!」


 吹っ飛んでいったオールバックの男と違い、予め予見していたためか、風槌を受けても踏み止まる。

 狼狽(ろうばい)しながらも防御態勢をとるあたり、出来る人間だ。

 とはいえ、ちょっと手加減しすぎたか。

 中途半端に残った魔力を拡散させ全快する。

 もう一度続けて、今度はもう少し魔力を込めて風槌を放つ。


「ちっ……!」


 咄嗟に避けられる。

 同じ手は二度喰らわないか。

 壁が陥没する鈍い音が部屋に響く。


「なんだっ! この化け物は!」

「化け物言うな」


 続けて魔力を練り、フェリサちゃんに当たらないよう気をつけながら雷撃を放つ。


「ぎゃっ!」


 飛びかかろうとしてきた男がその場で痙攣し倒れる。

 動かなくなったことを確認し、扉であった場所に視線を移す。

 オールバックの男はどうなったかな。

 薄暗いワイン庫へ飛ばされた男を確認しに行く。


「ぐ……一体、何が……」


 アルコール臭が充満する中に男が横たわっていた。

 吹き飛んだ衝撃でワイン樽が何個かダメになったらしい。

 あー……勿体無い。

 余計な考えを頭のすみに追いやり、警戒しながら男に近づく。


「てめぇ……オレたちに手を出して、タダで済むと思ってんのか?」

「どこの誰だか知らないんだけど」


 まぁ、相手が誰であっても関係ないし。

 私の妹分――認めたくはないけど――に手を出したんだから容赦はしないよ。


「ふざけ……んなっ!!」


 地下の倉庫に銃声が響く。

 銃口を向けられると同時に、反射的に魔力の防御壁である障壁を張った。

 銃弾は私の目の前、数十センチの所で弾ける。


「本物の……化け物かよ」

「化け物違うし」


 どいつもこいつも失礼だね。

 こんなうら若き乙女を捕まえて化け物だなんて。

 って、フードで顔を隠しているからわからないか。

 しかし、この男をどうしようか。

 扱いに決めかねているとポケットのスマホが震えていることに気づく。

 ……リンちゃんだ。

 目の前に男がいるけど。

 うーん、仕方がないか。


「はい」


 男に注意を向けながら電話に出る。


『あ、コトミ? お疲れ様。無事終わったようだね。あと五分ほどで公安が突入するだろうから、コトミはその場から早く離れて』

「……はい?」


 どゆこと?

 意味がわからない……というより、終わったって、見られてる?

 どうやって……。

 疑問は尽きないが、時間が無いため言われた通りにしよう。


「わかった。あとで説明してね。フェリサちゃんはどうすればいい?」

『公安に保護してもらうから、男達を無力化してくれればいいや。コトミはいろいろと聞かれたく無いこともあるだろうから、見つからないようにね』

「…………」


 確かに、私のやっていることは説明するのが難しい。

 魔法使いって説明するわけにもいかないし。

 だけど、いまの状況について理解が追いつかない。


『あと四分だよ』

「……わかった。あとで本当に説明してもらうからね」


 いまはリンちゃんを信じるしかないか。

 電話を切ると同時に、這いつくばり逃げ出そうとしている男に雷撃を放つ。


「ぎゃっ!?」


 男たちの無力化はこれで完了。

 フェリサちゃんは……ここに放置するのも可哀想だから、せめて上に連れて行ってあげよう。


「よっ……と」


 フェリサちゃんを背中におぶる。

 軽い身体から花のような香りが鼻につく。


「……可愛い子たちってどうしてこうもいい匂いがするんだろう」


 って、余計なことを考えている場合じゃない。

 三人の男達を横目に地上へと上がる。

 地上への隠し扉も内側からであれば簡単に開けられた。


「ふぅ……」


 一階のソファーにフェリサちゃんを横たえ、乱れた前髪を整えてあげる。

 穏やかな寝顔に笑みをこぼしながらも時間を確認する。


「あと二分か」


 時間はまだある。


「そういえば、こういう悪党って意外とため込んでいるんだよね。確か」


 前世での盗賊狩りのことを思い出しながら二階に上がる。

 大体は主が常にいるところに隠してあるから……。


「みっけ」


 案外すんなりと見つかった。

 書斎のクローゼットの、さらに棚の中に黒い金庫があった。

 時間も惜しいからとりあえず持って帰ってから開けよう。

 ってことで、収納。


「お、おもっ……」


 魔力が一気に持っていかれてしまった。

 練ってみると魔力がほとんど残っておらず、魔法が使えない。

 走ったりするぐらいならできるけど、あまりこの状態ではいたくない。

 あまりの重さにゲンナリしていると一階が騒がしくなってきた。

 おっと、もう時間か。

 そのうち二階にも来るだろうから早くトンズラしなきゃ。

 書斎の窓を開け、屋根の上に出る。

 ちょうど隣の民家が近いから、そこ伝いに逃げよう。


「よっと」


 隣の民家に飛び移ったところで――、


「待て!! お前、何者だ!!」


 後ろを振り向くと公安が二、三人書斎に入ってきたところだった。

 危ない危ない。

 さっさと離れよう。

 追いかけてくる公安たちを振り切るように走り出す。

 魔力が心もたないけど走るだけであれば問題ない。

 足に魔力を回したとたん魔力が切れるけど、切れた魔力は瞬間的に回復するから、続けて足に魔力を注ぎ込む。

 いつもより細かな魔力操作が必要となっているけど、これぐらいなら大丈夫。

 伊達(だて)に魔術師と名乗っていないよ。

 逃げるだけだからマンションなどの高い建物を避け、民家の屋根を駆け抜ける。

 しばらく走ったところで人目のつかない所を見つけ地面に降りた。


「ふぅ……」


 路地裏で羽織っていたコートを収納に入れ、通学用のカバンを取り出す。

 そのまま何食わぬ顔で表通りに出て帰路に着く。

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