40 アジトへ突入
スマホを収納ではなく、言われたとおりポケットへと仕舞い、一歩踏み出す。
自由落下する身体を風魔法で支えながら緩やかに着地。
周囲に人がいないことを確認し、車が入っていった入口に近づく。
大型車も通れるような幅広のシャッターと、すこし離れた位置に入り口と見られる門があった。
「まずはフェリサちゃんを探さないと……転移」
シャッターを通り抜け中に入る。
「ガレージ?」
薄暗い室内、採光用窓からの光でわずかに見える。
車が三台ほど並んでおり、そのうちの一台はさっきまで追いかけてきた黒塗りの車だった。
ガレージの奥には扉が見える。
「フェリサちゃんは……いないか」
車の中はもぬけの殻だった。
どこかに連れていかれたのかな。
「あそこから中に入れるか」
息を潜めながら車の間を通り抜け、ガレージの奥にある扉へと向かう。
一般的な家であれば土足禁止なのだろうけど、そんなの関係ないよね。
忍び込んでいるのにバカ正直に靴を脱ぐ人はいないでしょう。
扉を開くと左右に廊下が分かれている。
右手は行き止まり、左手は廊下が続いており、廊下の突き当たりは右に曲がっているようだった。
当然、左方向に進む。
足音を立てないよう慎重に歩を進める。
「玄関か」
普通に一般宅のように思えるけど、誘拐とか人質とかって、普通は人里知れずの場所に連れていかれるものじゃなかったっけ。
どうしてこんな都心の一角、しかも普通の住居に連れてきたのか。
考えても答えが出ないので、とりあえず中の人に聞こう。
優しく聞いてもダメなら、ちょっと強目にお願いすることも致し方なく、ってね。
玄関のもう一つの扉からさらに中へ。
ここは……リビングかな?
誰もいないことを確認して中に入る。
不思議と人の気配がしない。
この建物の中から人が消えてしまったような……。
他の部屋に移動し、同じように誰かいないか探す。
キッチンやバスルーム、トイレも探す。
同じく二階のベッドルームや書斎らしきところも。
「誰もいないねぇ」
一人つぶやきながら思考を巡らす。
見当たらなかったけど隠されている?
「むぅ……」
どうしたものかと考えていた時にポケットのスマホが震えた。
メール……?
部屋の隅に身を潜め、スマホを取り出す。
リンちゃんからのメールにはこの家の見取り図が添付されていた。
おぉ……、って一体どうやって手に入れたんだろう。
疑問には思ったが、正直助かる。
見取り図と一緒に一言だけ添えられている文面は――、
『無事に帰ってきてね』
リンちゃん……。もちろんだとも。
口元が緩みかけたけど、気を引き締め直し周囲を警戒する。
その見取り図によると、地下一階、地上二階建ての建物ということが分かった。
地下……?
入り口や階段なんてなかったけど。
見取り図をスクロールしながら、地下への入り口を探していく。
そういえば、建物の入り口近辺にあった突き当たり――あそこから地下へ下りられるようになっているらしい。
隠し扉か何かかな?
スマホをポケットに仕舞い、来た道を戻る。
ガレージの入り口近くにある行き止まり。
壁をペタペタと触るが他の壁と感触が同じで正直わからない。
「むぅ……」
フェリサちゃんの状況がわからない以上、あまり強行突破はできない。
仕方がないか。
見取り図を頼りに隠し通路の方角にあたりをつける。
魔力を練り――転移。
「っと……」
成功したかな?
階段の少し上に転移してしまっため、バランスを崩しかけたが何とか踏みとどまる。
扉である以上、そんなに厚みがないと読んでいたが、どうやら成功したようだった。
目の前には地下へと続く階段があるが、周囲はかなり薄暗い。
暗闇に目が慣れるまで周囲を警戒しながら数秒待つ。
「……行くか」
目が慣れたところでそのまま地下へと続く階段を下りていく。
足元の照明が心許ないけどしょうがない。
十数段下ったところで階段は終わった。
意外とそんなに深くはないみたい。
まぁ、一般家庭? にそんな迷宮みたいな地下室いらないからね。
階段の下は通路となっており、先へと続いているようだ。
ひんやりする地下を慎重に歩く。
左手には複数の棚が並んでいる。
「ワイン?」
確かに、ワイン保管庫のための地下室って言えば、作るときにも怪しまれないか。
それでも入り口を隠すってことは、何かやましいことがあるんだと思う。
通路の先には扉があり、光が隙間から漏れている。
物音を立てないよう注意しながら扉に耳を澄ませる。
「――ところで、このガキはいつまで生かせておけばいいんだ?」
――っ!?
「しばらくは丁寧にもてなせだとさ」
「茶でも出しゃいいんスかね?」
「バカやろう。殺すな、傷付けるな、だろうが。本当にもてなしてどうすんだ」
中の様子は見えないけど話し声的に三人……かな。
「旦那には既に連絡したからすぐ動くだろうさ」
「しかし、ガキ一人の命でそんなにうまくいくんスかね」
「それは相手の出方次第さ、それよりよく見張っておけよ」
「アニキたちはどうすんスか?」
「男三人こんな狭苦しいところにいても仕方がないだろ。オレたちは上を見張っている」
「えー、そんなこと言って、楽しようとしてるんじゃないっスか」
「バカヤロウ、よく見張っておけ」
気配がこちらに近づいてくる。
とっさに近くの樽の陰に隠れる。
「まったく、あいつは真面目に働けないのかね」
「入ったばかりだから仕方がないだろう」
誘拐することが働くとはおかしな話である。
無駄話をしながら男二人は階段を上っていき――扉の閉まる音が地下に響く。
物陰からそっと立ち上がり、男たちが出て来た部屋の扉に近づく。
「…………」
中から物音は聞こえない。
収納からナイフを取り出し――転移。
部屋の中に入ると床に人影が――フェリサちゃん!?
足音を立てずに近づく。
目立つ外傷はなし、かな。
呼吸も安定しているし、大丈夫だとは思うけど一応治癒魔法をかけておく。
「んぅ……」
窮屈そうな手足の拘束を外し、目隠しと猿ぐつわも取る。
拘束の跡が痛々しいことになっているから追加で治癒魔法を施す。
「……フェリサちゃん」
この子のことはまだあまり知らないけど、それでも私のことをお姉様と慕ってくれている。
そんな子に手を出すなんて、許さないよ。
静かな怒りを覚えながらゆっくり立ち上がる。




