裏話(8) ボク様の内心(あくまでボクの偏見だね)
「じゃあ話を戻して、ボクが何を隠しているかだね」
そんな話だっただろうか。異変のせいで有耶無耶にされた気がしたのだが。
「その前に座って、ヒマイはここ、ヨラメはここ」
指し示されたのはベッドの方だった。その指示に従えば私を挟んで左にボク様が右にヨラメが寄り添うことになる。可愛い二人がそばにいるのはとても嬉しいけど、せっかく用意した椅子とテーブルは?
「こっちに椅子とテーブルが......ない」
さっきまでそこにあったのに!跡形もない!
「消したよ!正確には屋敷の出入り口のそばに移動させました。あ、もしかしてふかふか絨毯に寝転がりたいの?しょうがないなー。血の汚れは《浄化》しておくね」
「えと、ボク様はどうされたのですか?」
「どうって何が?」
ヨラメが非常にやりにくそうにしている。ボク様の距離感があからさまに近づいたことに戸惑っている。
ボク様は私達と仲良くなりたい、それは明らかだ。ただいきなり距離感が変化した理由はヨラメと私にあると告げられても、やはり意味不明だ。
「まーまー、そんな細かいことは気にしないでさ。ボクが今から先兵について隠していることを話すね」
「はい」
「わかりました」
「じゃあさっき言った順番でベッドに腰掛けてね」
有無をいわさぬ力でヨラメと私はベッドに腰掛けさせられた。こうなったら空気を読まないボク様の話を聞くしかない。
「ヨラメにしようとした魔術師と少年を始末しなければならない説明は全部本当だよ。だから次元侵略を防ぐという建前は本物だ」
そこに嘘がないことは理解している。問題は隠された内容だ。
私の左から寄りかかるボクは、あえて露悪的な表情を見せながら語る。
「だけど、ここにボク達の私情が入ります。ボク達は、いやボクは先兵が嫌いだ。我々にとって有害で負の価値しかない邪魔な存在。わざわざ生かすメリットは皆無だ。ゴミの生命維持如きに僅かな手間をかけるなど冗談ではない。ただ魂を燃やされて灰燼に帰せばいい。などなど他にも沢山ね」
我々は大なり小なり同じ思いを抱くと思うよ。ボク達はそれが少し大きいだけさ。
途中で変化した高らかな笑顔でボク様は言い切った。それはが示すのは喜びではない、隠されていた攻撃性だ。
私は納得した。経緯は不明だがそのような感情があるのなら始末したいのだろう。そしてこの異空間では道義的な問題は存在しない。あるとしてもそれはボク様の意思に優越するものではない。
「さらに付け加えると少年の方は必ず、如何なる手段を用いても絶対に始末する。ボクは、ボク達はお前を決して許すことはない。他の適切な手段がなければ今すぐに、何を差し置いても.......くらいの私情があるよ」
「そこまでですか」
ボク様の内側には激しい思いがあるらしい。
ヨラメはこれをどう受け止めるのだろうか。反発したりしないだろうか。私はそれが心配だ。
「わかりました、魔術師の方はお任せください。私が始末します」
「ありがとう。これで少し肩の荷が降りたよ」
「お姉様もどうか見守っていてください」
あれ、ヨラメの反応が私の想像と違う。意外なほどにさっぱりとしている。
「わかりました、お姉ちゃんが見守ります。頑張りなさい」
「はい、お姉様」
浮かんだ疑問をよそに、私は姉としてヨラメの行動を応援すると伝えていた。これはこれで本心だし、まあいいか。
それから二人は立ち上がって部屋の中央に移動した。そしてヨラメとボク様は魔術師を始末する手順を入念に確認し始めた。
「始末する時はこのやり方で大丈夫だよ。不測の事態には全てボクが対応するから安心してね」
私はベッドに腰掛けたまま置いてきぼりだ。あ、このベッドすごい柔らかい。沈み込む感覚が慣れなくて少し気持ち悪いけど。ぐえ。
突然、私の上に人型の何かが乗っかってきた。その重さからして少女のようだ。
ベットに腰掛けた私と、膝に跨った少女は互いに見つめ合う。
「ヒマイ、あの二人はまだかかりそうかの。少し妾と話をせんか」
「えっと......妾?」
「勘が悪いのう。ボクと同じ者よ」
それはなんだか古臭い喋り方をす少女だった。ひらひらとした衣を纏い、どこか神聖な雰囲気を漂わせる存在だった。小さくて可愛い。
そこにボク様がとことこと近づいてくる。こっちも可愛い。
「交渉は終わったんだ」
「うむ、とっくの昔にな」
「結果は?」
「特異現象の観測を引き換えに妾達の配慮を。そして相互協力で合意した。展開次第だが今後は我々の新たな故郷で庇護するやもしれん」
「おー上々だね」
「依頼の方も、暇であれば受けてくれるそうだの。とりあえずここのものは全て了承した」
「完璧じゃん。で、なんでわざわざここに来たの」
「うむそれはな——」
少女は私の上にまたがってひょこひょこ動く。ボク様も嬉しそうにぴょこぴょこしている。二人ともなんて可愛いんだろうか。これは決して浮気ではない。
あれ、二人とも私を見ている。そして部屋の中央で立つヨラメのジト目が突き刺さる。
「お姉様、そちらの方は」
その声に反応して妾様が私の太ももの上でくるりと回り、ヨラメの方を向く。
「お姉様、ということはその方がヨラメか。これからボク共々よろしく頼む。妾は妾だ」
「はあ」
ほら、ため息までついた。今の私はそんなに情けなかったの?
「ヒマイは説明を聞いてないからもう一度。妾ちゃんが召喚後の君達を引き取りたいそうだよ。面倒を見てくれるってさ」
「おい」
「ちゃん付けはいいでしょ」
「よくない」
拗ねて頬を膨らませる妾様可愛い。それよりも。
「召喚後の話ですね。どのようなものになるのでしょうか」
「基本的には妾の下で働いてもらう。報酬は二人を鍛えてやろう。ついでに不老化でどうだ」
「は?」
え?不老になれる?
鍛えるのはなるほど、強くしてくれるらしい。しかしなぜか不老化して永遠の時間を与えると言われた。
不老って伝説のお伽話にしかない非現実の概念よね。それをついでに......ついでにって。
私の情緒がおかしくなる。
「いったいどういうことよ!」
「大声はやめてくださいお姉様」
「ふむ、不足か」
「ちっがうわよ!なんで空想でしかない不老の話をついでにできるのよ!」
「ん?どういうことだボクよ」
なんでわからないのよ!大声を出したのはごめん、ヨラメ。
「はー、相変わらず妾は勉強してないね。まあ、無知を自覚してるだけマシだけどさ」
「相変わらず、話を脱線させるのが上手いなボクよ」
「はあ?妾の欠点を教えてあげているのに感謝の一言もなしですか。そうですか、ふーん」
「喧嘩はよそでしろ、説明しないなら帰れ」
「「はい」」
あれ、最後に聞いたことのないドス黒い声がした気がする。ヨラメの声に似ていたけど、そんなはずはない......よね。
「じゃあボクから、ヨラメさんとヒマイにとって不老という概念は妄想の産物であり現実のものではありません。次にボク達にとって不老とは、全ての人類が最初に目指すべき到達点だと思うし、普通は皆そうするものです。そして妾にとっての不老とは常識であり、不老にあらずんば人にあらずといった感じだね」
普通は不老を目指すことはあっても、実現できることはないと思う。
「さすがの妾でもそこまで貶したことはないぞ」
「それに近いことはよく考えてるよね」
「否定はせん」
「否定しないんですね」
ヨラメと全く同じ思いだ。
そしてそろそろ私の上からどいてくれませんか妾様。
視線を向けても一向に察してくれないので、脇の下に手を入れて持ち上げ、隣に座らせる。
「むう、まあ良かろう。この札を渡すから持っておけ」
その札の形は親指と人差し指を直角にして左右を合わせて作る薄い長方形のようだ。縦の長さは親指より少し長く横の長さは人差し指より少し短い。
光沢はほとんどなく、単純な明色で縁が彩られ、その内側に簡易なあみだくじのような模様がまた別の明色で描かれている。余った空白には青系統の暗色で濃い色が施されていた。
裏返せば、表より細い縁の中に赤と茶色が混ざった暗いプレートが埋め込まれた思える色合いであった。軽く表面を撫でても凹凸は感じられず、ただ冷たい感覚を返してくる。
軽く叩けばコンコンと芯の入った鈍い音がする。しかしそれが紙よりも薄い札であることを考えればとても信じられない響きである。
「あ、それか、じゃあ二人ともその札に魔力流して」
言われた通りに魔力を流した。少しの間だけ裏面に緑色の文字が表示される。それは私の名前だった。
「よし、登録は完了した。召喚後はこれでやり取りする。すぐに迎えをよこすから待っておれ」
「あ、すぐには無理なんじゃないかな」
「それもそうだな、まあ適当タイミングでこちらから連絡しよう。ではな」
そうして妾様はこの部屋から消えた。もう少しいて欲しかったのに。
「これを落としたりしたらどうしましょう」
「まず無くさないように気をつけるべきですお姉様」
ヨラメの言うことはその通りだけど、私こういう小物をよく無くすのよね。
またいつのまにかそばにいるボク様が心配はいらないと告げてきた。
「そんなことはありえないから」
「そ、そうですか」
ですがついているが、これは私の言だ。いやしかし、エフリーとマコムにもらった耳飾りを無くしたり、ヨラメにもらった髪飾りを無くしたりと、今までの実績を考えると......。
「ここで唐突だけど、魔術師を始末しに行こうか」
「わかりました。ほらお姉様、どうでもいいことを考えないで。行きますよ」
「え、襲撃するの?」
なんかいきなりすぎて頭が追いついていない。
「ヒマイは本当に話を聞いてないね。階下にいる魔術師がこの階の個室に戻れば、そのタイミングで襲撃するって説明したじゃないか」
「いつ?そもそもどうやって」
「ボクさんが《転移》で跳ぶそうです」
「そんな無茶苦茶な」
「どうしたのさヒマイ。ああ、普通は《転移》もせずにこの部屋から始末するところをなぜわざわざということか」
全然違う。この異空間では空間跳躍などできな......ボク様は普通にできるのか。なんという無法。
私の抱いた愚問はすでに解決された。なのに見当違いの説明を始めるボク様。その目は慈悲に溢れていたが、その方向性が違うと言いたい。
「それはね、ヨラメが意思疎通をしてみたいってさ。もちろん、先兵による洗脳とかはボクがバッチリ防ぐよ」
「え、ああ、わかりました」
もう襲撃するのは決定事項らしいし、なんとなく合わせておこう。あとは流れに身を任せよう。
「ボクさん、これはわかっていない時のお姉様です」
「まあヨラメ、ここは都合よく騙されてあげようじゃないか」
一瞬でヨラメにバレた。しかし今の私は大河の流れに逆らえない流木のような存在。ボク様が作りだす雰囲気に酔うのだ。
私わかんない、けど何も考えない。
そして私達は魔術師の部屋へ《転移》した。
なんと続きは明日21:00に投稿します。




