おやつを作る元魔王
息子にゲーム機を没収された情けない元魔王とは私のことである。
やることがないので、パウンドケーキなどを焼いている。くく……これは少し寝かせた方が美味い菓子だからな。甘くて良い匂いがするのに、食べるのを我慢しなければならないという食いしん坊には辛い菓子なのだ。私も少し食べたくなる。
「そこで無理やり探し出すとか、新しく買うとならないのが不思議」
「もったいないだろうが!」
小娘は本当に不思議そうな顔をしているが、新しく買えばいいという問題ではないのだ。いやまぁ、最近出た新機種だし、新しく購入したばかりのゲームであるというのもあるが。
「我が主は基本的に自分が悪いと思ったときは素直に罰則を受け入れる方ですので」
「シャー!」
「ドラクルさん、なんでアルテちゃんは怒っているの?」
「うむ。ダンテに知った口を利かれるのが鬱陶しいからだな」
威嚇するアルテも世界で一番可愛いが、こうなった原因を許しているのは私だからな……。やはり、ダンテは追い出すしかないだろうか。こいつはそれでも強かに生きるだろうしな。同族等に追いかけまわされても余裕で撃退しそうだ。
「そろそろ出て行くか?」
「我が主、フェリクス様。貴方はどうしてそんなにもその猫に甘いのです」
「? 知らないのか。自分の家族の猫は世界で一番可愛い生き物なのだぞ」
インターネットでもみんなそう言っている。他所の猫も可愛いが、猫と暮らす者の多くはきっとこう言うだろう。
それでも我が家の猫が一番可愛い。世界で一番可愛い。と。
「見ろ。私のアルテに可愛くないところがあるか?」
「ない」
「威嚇している時の顔を見ればそんなに可愛いと思えないのでは」
「ううん。アルテちゃんは本当に可愛い」
小娘はよくわかっている。
「よく理解している小娘には焼きたてのパウンドケーキの切れ端をやろう」
「やった!」
「ちなみに、意地悪ではなく、単純に一晩寝かせた方がしっとりして美味くなる。だから摘まみ食いはせんように」
「はい!」
良い返事である。
小娘はな、こういう……美味い物を食べるための注意はよく聞くのだ。
「明日のおやつになる時はもっと美味しいのか……。楽しみ」
小娘が犬ならば、尻尾をぶんぶん振って喜んでいただろうな。
ダンテが小娘を見る目はなんだか可哀想な生き物を見る目だった。
「千明は、どんなひもじい暮らしをしていたのですか」
「親の好みが反映されていただけで普通の食生活であったと聞いているぞ」
ただ、友人と同じようなものを食べられなかったというのが小娘にとってはなんというか……こう、食いしん坊の執着心みたいなものとなってしまっただけで。まぁ、食い尽くし等ではないので、そこは安心しているが。そういったものが発生した場合、せっかくできた友人を失くす心配が出てくる。
「そういえば、春休みに遊びに誘われています!」
「そうか。事故やケガにだけ気を付けるように」
「わかった!」
そういえば、小娘はこうやって友人の影を見せてくれるのでよいのだが、ラウルは……ああいや、学園で友人を過ごしているのを見かけるから平気か。
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ラウルは「まぁ、一緒に出かけるだけがダチじゃねぇでしょ」と言っている。
そして、全く遊びに行っていないわけでもない。




