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空っぽ二人は箱庭で踊る  作者: ボチノ・ギウセッペ
Chapter 2 -Tantalus Side-

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Episode 7

 「イテテ・・・。やったか・・・?」

 爆風と閃光の叫びに六感を押しやられ、オレは未だに状況を理解できないでいた。

 目が光を取り戻す前に、インクレムの奇声が耳をつんざいた。

 「クソッ、まだ生きてるのかよ。」

 しかし、やれることはやった。レッジも許してくれるだろう。

 どこかからミルとザードの声が聞こえる。

 「すまねぇ、お前ら・・・。オレは無力だ。」

 どうやら、涙はさっきの爆発で吹き飛んでしまったらしい。

 「寝ぼけたこと言ってないで、早く起きなさい!」

 突然、ミルの声と共に、背中に衝撃が襲った。

 徐々に視界が明快になっていく。

 目の前に浮かび上がってきたのは、なす術なく、ただわずかに身もだえするインクレムがいた。

 真ん中から真っ二つ引きちぎられたかのように、前後で真っ二つになっていた。

 「ハハ、あんたすごいわよ!まさか、必殺技とやらがこんなにすごいなんて!」

 ミルの言葉に興奮が滲みでる。

 「ハァ、ハァ。ホントですよ。あと少しでも威力が高かったら、防ぎきれませんでした・・・。」

 息絶え絶えに言い切ると、ザードはその場に倒れ込んだ。

 「アレを防いだのかよ?知ってると思うけどよ、レッジのジィさんでも防げなかったんだぜ?」

 「褒めていただけるのは嬉しいですが、いくら先生といえどお年でしたでしょうから・・・。魔力粒子量はボクでも上回っていたはずです。」

 「それに、この頑丈そうな皮膚!これがクッションになってくれたんじゃないの?」

 そう言いながら、ミルはインクレムを足で突いた。

 すると、プキュゥ、という情けない鳴き声が漏れ出てきた。

 「ミルよ。そいつはまだ暴れるかもしれん。安易に近づくべきではないな。」

 声の方を振り返ると、サルトイ王が嬉しそうに近づいてくるところだった。

 「今回ばかりはお前達には無理だと思っていたのだが・・・。とんでもない子達だ!ワハハハハハ!」

 ひとしきり笑いに笑ってから、王は真面目な顔になった。

 「さて、お前達。まだ戦えるか?特にミルよ。お前は手がずいぶんと血まみれになっているようだが・・・?」

 ギョッとして王の視線を追うと、ミルの手は包帯がグシャグシャになるくらいに酷い有様だった。

 慌ててミルの元へ駆け寄る。

 「お、おい、ミル!お前まさか・・・。」

 「大丈夫よ。あの衝撃で少し傷が開いちゃっただけだから。ホラ、元が酷かったでしょう?本当にそれだけだから。」

 王が咳払いをして俺たちの視線を集めた。

 「今回のインクレムの襲撃は、誰も予想できないことだった。準備という準備もできなかっただろうに、よく頑張ってくれた。あとは任せて、街の広場へ避難するんだ。」

 「待ってくれよ。オレたちまだまだ戦えるぜ!見ろよ、向こうだってだいぶ苦戦してるじゃねぇか。」

 オレはさらに街へ迫っていた前線を指差した。

 「ノゾムよ。確かにお前はまださっきの一撃を放てるのかもしれん。」

 「あぁ、そうだよ。だから、ここで話してないで、早く加勢しにいかねぇと!」

 王の目は冷たかった。

 「しかしだ。あの威力にも関わらず、こうしてお前たちが生き残ることができていたのは、仲間たちが命懸けで踏ん張ってくれたおかげなのではないのかね。」

 そう言われて、仲間の方を見た。

 ミルは笑顔ではあるものの、よく見ると冷や汗のようなものが見られる。

 ザードはまだ息が整っていない。体内の魔法粒子はほとんど空っぽだ。

 「ノゾムよ。お前たちは本当によくやってくれた。レッジも誇らしかろう。だが、さっきのは奇跡だ。お前達にはインクレムの相手は早すぎた。」

 王は優しくオレの肩に手を置いて続ける。

 「お前なら理解できるだろう?さぁ、大人しく避難するんだ。」

 そう残すと、王はインクレムが動けないのを確認して、それが作り出した獣道を走り去っていった。

 「・・・オレ、リーダー向いてねぇな。」

 広場へ向かう道中、つい自嘲気味にそんなことを言ってしまった。

 「えぇ、そうね。クソガキだし、自分のことしか見えてないって感じだわ。」

 ミルの言葉に、少しうなだれてしまう。

 「ちょっと、なによ!いつもみたいに嫌味ったらしく返してきなさいよ。」

 ミルは少し泣きそうになりながら、肩をぶつけてきた。

 「まったく。アタイたちはチームなのよ?あんた一人で責任を感じることはないわ。」

 「そうですよ。今回ばかりは本当に運が悪かっただけです。次こそは全員揃って、インクレムたちを軽々と倒してやりましょう。」

 「・・・あぁ、そうだな。」

 オレはこの大切な仲間たちを、しっかりと守り抜けるように強くなりたい。


 「いやだぁぁあ!オイラには無理だぁ。勘弁してけろぉ。」

 「アニマ、お前はいい加減にせんか!ノゾム君たちだって、必死に戦ってるやろうに・・・。それでもチームの仲間かいな?!」

 広場に到着して一番に目に入ったのは、泣きじゃくるアニマと青筋を浮かべる医者の先生だった。

 あまりの泣きっぷりに、つい先程までのシリアスさが吹き飛んでしまった。

 「仲間て、オトンが勝手に申し込んで、王が勝手に決めたことだぁ!オイラにゃ義理も何もないべ!」

 先生がアニマにゲンコツをお見舞いする。

 「はぁ、情けねぇなぁ・・・。いいから行って、そのだらけきった性根を叩き直してきんしゃい!」

 先生がアニマの耳を引っ張る。

 「お、おう。先生。」

 あまりにもかわいそうだったので、声をかけた。

 「ん?やぁ、ノゾム君。申し訳ないね、うちのタワケがいつまでも君たちに会いに行きもしないで。ぜひ、こき使ってやってくれ。」

 耳を引っ張られたまま、アニマがオレたちに差し出される。

 「あ、あぁ。まあ、ありがたく使わせてもらうぜ。・・・ってそれよりも、先生!ちょっとミルの手を診てもらえねぇか。」

 先生はミルの手に目を向けると、たちまち顔がけわしくなった。

 ミルの手をそっと掴み、まじまじと観察すると、眉間の皺はさらに深くなった。

 「ふぅむ、これはヒドそうだ。治療の道具は向こうにある。ミル君、ついてきてくれ。」

 そう言って、先生はミルと共に人混みの中へと消えていった。

 「あぐぅ、オイラにはむりだぁ・・・。オイラに一体、何ができるっていうんだべ・・・。」

 先生がいなくなってなお、アニマは泣き続けていた。

 「お、おい。とりあえず落ち着いてくれよ。」

 「うるさい、うるさい!オイラの魔法がどんなに使い物にならないか、誰が見ても明らかだぁ。どうせアンタもバカにしとるべ!」

 アニマは縮こまってしまった。

 「バカにするも何も、そもそもボクたちはまだ、あなたの魔法を知りませんよ。一体どんな魔法なのですか?」

 ザードがオレの後ろから顔を覗かせて聞いた。

 「はて、てっきり王様から聞いてると思っただが・・・。それでも言わないべ!気味悪がられて終わりだぁ。」

 アニマはワンワン泣き喚く。そして堰を切ったように言葉が嗚咽と交互に溢れる。

 「王様から聞いてるんで、もうオイラにはわかってるんだぁ。ノゾムは超破壊力の必殺技。ミルは回復。ザードは水。『これだけ頼れる仲間がいれば、お前も安心して力をふるえるだろう』だって?これじゃあオイラはただの足手纏いだべ!」

 「王のヤツ、オレには仲間の魔法なんて教えてくれなかったぞ?」

 「とにかく!知らないなら、オイラの魔法は絶対に言わないべ。そうすれば、オイラを戦いに連れていく計画すら立てられないはずだぁ。」

 それっきり、アニマは黙り込んでしまう。

 あの手この手で話を振ってみるも、何の応答もない。

 こうしている内に、先生とミルが戻ってきた。

 「こりゃ、アニマ!さっきっから聞こえとったぞ!」

 先生がアニマの頭にグーを叩きつけた。

 「いやぁ、みんな。本当にうちのバカがご迷惑をかけて申し訳ない。この子の魔法は、生き物の器官を作り出す魔法だよ。ホレ、アニマ!あとは自分で説明しんしゃい!」

 そう言って、先生は去ってしまった。

 「うぁぁ、言われちまっただぁ・・・。だども、これでよくわかったべ。こないな力、戦いどころかなーんの役にも立たん。」

 ザードが少し考え込んでから話しだす。相変わらず、オレの陰に隠れたまま。

 「そうでしょうか。例えば、毒虫の器官を作れば、その毒で戦えるのでは?」

 「それができるなら、どんなにいいことか・・・。オイラが作った器官は生きとらん。だから、その器官が作り出せる物質なんぞ作れん。オイラの魔法は、言い換えれば、死んだ細胞の塊を作ってるにすぎんねぇんだ。」

 「で、でも、爪や牙を作れば攻撃に使えるし、翼があれば飛べるんじゃないの?」

 ミルがジェスチャー混じりで問いかける。

 「お前さん、タワケじゃろ。えぇか?鋭い牙や爪を持つ生き物が恐れられるのは、ソイツらの身体能力がオイラたちよりも圧倒的に高いというのが大きいだぁ。その強大なパワーがあるからこそ、その鋭利が活躍する。大昔の祖先ならまだしも、魔法ばっかで身体の衰えた一般人のオイラたちがそれを手にしたところで、できることはたかが知れてるべ。」

 「そうですね。翼に関しても、鳥は徹底的な身体の軽量化と、身体に対する非常に大きな筋肉があってようやく飛翔できるのですから。例え巨大な翼が作れたところで、せいぜい飾りにしかならないでしょうね。」

 「ちょっと、ザード!アンタどっちの味方なのよ!」

 「いえ、別に誰の味方というわけではなくてですね・・・。」

 ミルとザードがオレを挟んで言い争うのは、すっかり定番となってしまった。

 「な、なぁ、アニマ。お前って生き物の器官なら何でも作れるのか?」

 目の前のミルを押し除けて、どうにかアニマに尋ねた。

 「まぁ、ある程度理解できているモノなら作れるけんど・・・。詳しい基準はオイラ自身にもわからね。」

 「今来てるインクレムの皮ならどうだ?足が8つのブヨブヨしてるヤツだ。」

 「あぁ、たぶん一昨年くらいに、オトンの研究の手伝いで見たことあるだ。できると思うべ。」

 そう言うと、アニマの手のひらに、先ほど対峙したインクレムの皮と思われるものが現れた。

 喧嘩はいつの間に終わっていたのか、ミルがそれを恐る恐るつつきだした。ザードも夢中になって皮をつねっていた。

 「へぇ、すげえじゃんか。ちなみに、もっと大きくできたりするのか?」

 すると、たちまち手のひらに収まるサイズの皮が、一人を丸ごと包み込めるくらいまで肥大した。

 「まあ、こんな感じで、オイラに魔法粒子が残ってるかぎり、いくらでも大きくできるだ。これでオイラができることは全部だ。わかってくれたべ、オイラは使い物にならん。」

 「いやいや。これを加工すれば、いい道具が作れるんじゃないの?こんなにいい状態でインクレムの素材が手に入るなんて、夢のような魔法じゃない!」

 「残念だけんど、そうはいかん。オイラの魔法で作ったものは、数時間で消えてしまう。加工してる間におしまいだぁ。」

 ミルは悔しそうだった。

 「なぁ、アニマ。お前の力が戦いの役に立つって言ったら、一緒に戦ってくれるか?」

 「ヘッ、オイラは嘘抜かす奴が嫌いだ。」

 「嘘じゃねぇよ。アニマの魔法は今のオレたちに必要だ。なぁ?」

 オレはミルとザードを交互に見た。

 「え、えぇと・・・。そうね!アタイもそう思ってたところよ!うん!」

 ・・・ミルはアテにならなさそうだ。

 「そうですね。これだけ大きいものがあれば、イケるかも知れません。複数枚あるともっと安心ですね。」

 「やっぱりそうだよな!これでインクレムどもを、追加で一匹くらいは余裕で葬れそうだぜ!」

 「お、お前さんたち、いったい何を考えてるか知らんけんど、お、オイラは絶対行かないど!」

 オレは、震えるアニマを引っ張って、戦地へと駆け出していた。

 足を止めることなく、ふと、後ろに目をやる。

 涙と恨み言を撒き散らすアニマの向こうから、仲間たちがちゃんとついてきてくれている。

 ちょっと呆れた顔のミル。

 目を輝かせるザード。

 心の奥底で、何かが満たされていくのを感じる。

 オレの一撃はインクレムどもを一瞬で殺すことができたんだ。

 今のオレたちならやれる。インクレムだろうが何だろうが、負ける気がしなかった。

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