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46.メンバー確定


しばらく作戦の打ち合わせや雑談が続く。

やがて扉を開けて、リリー・エフが戻ってきた。


彼女の後ろから、小柄なドワーフの男と大柄なオークの女が部屋に入ってきた。



「おまたせー」


「おう、見つけたか。ラド、こっちに来るんだ」


「隊長、何の用だ。冒険者ギルドなんて、久しぶりに来ちまったな」



樽のような体を揺すりながら、ドワーフのラドスラフはテオドールに近づいてくる。

真っ黒で筋肉の塊のようなオークのソフィーヤも、一緒に付いてきた。


見慣れないでこぼこコンビが入ってきた事により、その場の注目が集まる。

近づいてくる二人の方を向いて、テオドールが話し出す。



「ラド、いいか、よく聞くんだ。今、ドラゴンが問題になってるのは知ってるだろ?」


「ああ。うちらも、それで足止めくらってるな」


「そのドラゴンの討伐の、助勢を頼まれたんだ」


「助勢?討伐の手助けをするってことか?」


「うむ。わしはデバフを掛ける。リリはわしに魔力を補充する」


「うーん、なんで今更、隊長が・・・・・」



まだよく理解できない様子で、ラドスラフは額に皺を寄せて訝しげ。

ソフィーヤはびっくりしているのか、目を見開いたまま動かない。



「まともなデバッファーが、今、この街にいないらしい」


「ほう」


「そんでな、硬い前衛も足りなくて、探してるんだよ」


「ドラゴンと対峙する前衛か?」


「ああ。ラド、おめーやってみねえか?」


「俺がかっ!ここには冒険者が、いっぱい居るだろう」


「まぁ、いるんだが、怪我したり、ブルったりで、一人足らん」



テオドールは苦笑いしながら、話を進める。

ラドスラフは周りを見回している。


ソフィーヤも釣られるように、周りに気を配り始めた。



「攻撃はいらん。盾は騎士団のいいやつが準備されてる」


「ほう」


「鉄壁さんの隣で、大盾を使ってドラゴンの攻撃とブレスを防いでくれるだけでいい」


「鉄壁さんが指揮するのか・・・・・」


「ちょっと、隊長っ!なんでラドに、そんな危険な事をやらせるんよ!」



隣で聞いていたソフィーヤが、口を挟む。

慣れない視線にさらされて、やや興奮してきている様子。



「ドラゴンが皆の迷惑になってるのは分かるだろっ。それを討伐するのに力を貸して欲しいんだ」


「倒さなきゃならないのは分かるけど・・・・・なんでうちらがっ」


「ソフィ、おめえは黙ってろ。今は俺が話してるんだ」


「何を!あんたがヤバそうだから、私もマジで考えてるってのにっ」


「いいから、ちょっと黙ってろ」


「ふん、ドラゴンなんて相手にしたら、簡単に逝っちまうっての!」



ソフィーヤはラドスラフを心配しているのだが、いつものように言い合いになる。

テオドールはソフィーヤを睨んで目配せをするが、彼女は気付かない。



「あんた、力は強そう。防御は一級品なんだって?」


ギルバートがラドスラフに向かって話しかけた。



「ああ、鉄壁さん、こんにちは。俺はラドスラフって言うドワーフだ。長い事、冒険者やってたんで防御には自信がある」


「こんちは、ラドさん。できれば一緒にファイヤードラゴンと戦って貰いたいんだけど」


「うーん。今までドラゴンとは戦った事無いんだが、耐えられるんだろうか」


「大物だと、どういうのと戦った事があるんだ?」


「ワイバーンとかホワイトベアとかだな。あとはジャイアントトロールぐらいか」


「トロールの攻撃は防げるのか?棍棒のヤツ」


「ああ、あれくらいはなんともない」


「それならいけるだろう」



ギルバートはふむと頷きながら、テオドールに目をやる。

テオドールはにやりと笑い、頷き返す。


彼はラドスラフに向き直り、話しかける。



「ラド、どうだ。やってみるか?」


「うーん、急だな。どうすっかな」


「ラド、やめときな、危ないって」


「ソフィは黙ってろっつったろ」


「いやいや、あんたが危ない事すんなら、あたしは黙って無いよ」


「おい、ソフィ。ラドが考える間、ちょっと黙ってろ」



テオドールに諭されて、ソフィーヤはしぶしぶ黙り込む。

ラドスラフは腕組みをして考え込む。


ソフィーヤは落ち着かないのか、周りをキョロキョロしだした。

自分たちが周りの注目を一身に集めているのが分かり、イラつきだす。



「隊長が参加するのは、もう確定か?」


ラドスラフがやや上目遣いに、テオドールに話しかける。

テオドールはそうだとばかりに、頷きながら答える。



「ああ、わしとリリは、もう参加する事に決めた」


「そか、んじゃ、俺も出なきゃならんな」


「ラド。隊長は自分で好きなように決めろって、聞いてるんでしょっ」


「ソフィ、いいか、ソワイエ商隊の防衛は俺の仕事だ。隊長が危険に晒されるのを、指をくわえて見ているわけにはいかん。俺自身がそんなこと納得できねえ」


「そんなこと言ったって・・・・・相手はドラゴンだよ・・・・・」



ソフィーヤはラドスラフの意思が固そうに感じ、言葉の力が弱まる。






◇ ◇ ◇ ◇





ラドスラフはしっかりと、ギルバートに向き直る。


「鉄壁さん」


「ん」


「ドラゴンと戦って、勝算はあるのか?だいじょぶなのか?」


「まあ、勝負に絶対はねえ。が、俺はいけると踏んでいる」


「そうか」


「テオさんのデバフがあれば、その確率はかなり上がる」



ラドスラフはいったんソフィーヤに目をやり、視線でやらせと欲しいと訴える。

ソフィーヤは困惑気味だが、ダメとは言えない雰囲気を感じだしたようだ。


ラドスラフはすぐにギルバートの方に向き直り、視線を合わせて話す。



「分かった、俺も参加させてくれ。指示に従うから、隊長を守らせてくれ」


「助かる。とにかく硬いヤツが欲しいんだ。この盾を見てくれ」



ギルバートは机の上に置かれていた盾を持ち上げ、ラドスラフに渡した。



「でかいな。ん?でも、それほど重くねえ」


「ん、重量軽減が付いている。両手でしっかりと支えて、ファイヤードラゴンの攻撃を抑える」


「ふむ、こりゃあ、いい盾だな。素材は何だ、クオーツ鋼か・・・・・いや、クオーツ鋼は表面だけだな。こいつを装飾に付けてるから、キラキラして高級感がでてる」


「まあ、そいつは渡すから、明後日までの慣れてくれ。分解しても改造しても構わない」


「おお、そいつはいいな。貴族でもなけりゃ手が出ない素材だから、気になる。前からイジってみたかったんだ。勉強になる」


「ラド。捏ね繰り回して、使えなくするのだけは勘弁な」



テオドールが口を挟み、ラドスラフに念を押す。

ラドスラフは分かってる、とでもいいたげにテオドールを見て苦笑いをした。


ジッと考え込んでいたソフィーヤが、顔を上げてギルバートを見る。



「ラドが戦うってんなら、しょうがないや。あたしが回復するわ。回復士もいるんでしょ?」


「あんた、回復士なのか?」


「あたしはソフィーヤ。ソワイエ商隊の護衛兼回復士よ。ソフィって呼んで」


「危険だから参加しないんじゃないのか?」


「もちろん、ホントは反対よ。でも、ラドの回復は私がずっとやってるんだもの。ラドが参加するんなら、しょうがないじゃない」


「冒険者ギルドにも回復士はいるぞ」



ギルバートが挑発するように、ソフィーナを見て話しかける。


ラドスラフは困惑したように口を挟む。



「ソフィ、俺は別に他のヤツでも・・・・・」


「何言ってんのよ!あんたの回復、私がやらないで、誰がやるのよ!そこらの素人になんて任せられないわっ」



ソフィーヤは胸を張り、右腕を挙げて親指で自分の胸を示す。

ラドスラフはびっくりしたように、ソフィーヤを見ている。


ギルバートはテオドールに向き直り、話しかける。



「テオさん、盾士と回復士のセットで参加してもらっていいのか?」


「ああ、こいつらは言い出したら聞かん、邪魔じゃなかったら参加させて貰えねえですかね」


「ん、こっちはありがたいが、テオさんところからの参加が多くなって悪いな」


「こいつら、こう見えて、戦闘の場数は踏んでるし、人の言う事はしっかり聞くから、いいように使ってください」





◇ ◇ ◇ ◇





ギルバートはリシャールを向き直る。


成り行きを見守っていたりシャールは、ギルバートと視線を合わせた。



「リシャさん、前衛と回復が決まったけど、いいか?」


「ああ、かまわん。ただ、ラドとソフィか?それとテオさんとリリ。うちの所属に成ってもらえると助かるんだが」


「ああ、そうですな。わしとリリは冒険者登録はしていないですね。ラドとソフィはどっか他所に登録したまま、移してないはず」


「んじゃその辺の手続きを、これから、しちまいましょう」



リシャールとローペが、ぼそぼそと相談し始める。

他の職員に指示を出し、いくつか手続きをするようだ。



ギルバートが周りを見回しながら話す。



「どうやら、おおよその計画は立ったようだ。出発は明後日の朝、場所はこの前と同じ」


「分かったわ」


とフィリーナが応える。



「相方と息を合わせておいて欲しいのと、新しい装備に慣れておいてくれ」


「まあ、いつもの通りやればいいんだろ」


今度はマルコが応えた。



「俺はこのあと、ルカとアンジェと一緒に、狩りに行って練習する。んー、ノアも来い」


「えー、めんどくせえよ」


「タゲ固定してから撃つタイミングを教える」


「そんなの分かってるよっ」


「いいから来い、グダグダ言うと参加させねーぞ」


「わ、分かったよ・・・・・汚ったねーの!」



ノアハルトは不満気だが、ギルバートの指示にしぶしぶ従う様子。

ルカ・ルーはつい可笑しくなり、声を出さずに笑う。



「テオさんたちは4人で、狩りに行ってみてくれ」


「ああ、そうするつもりです。手続きが終わったら、行ってみます」


「夜にでも、食事しながら、作戦を話したいんだが、いいかな?」


「ええ、そうしてもらえれば助かります」


「ああ、それなら、食事の場所はこちらで手配しよう」



リシャールが口を挟む。



「ドラゴン討伐に参加して貰ううえに、ギルド登録までして貰うんだ、感謝に一席設けるよ、テオさん」


「いいんですかい?こっちが勝手に参加するって決めたんですがね」


「商隊の他のメンバーもいるなら、遠慮せず連れてきてくれ。あとで職員を迎えに行かせる」


「わざわざ、すまんです」


「テオさん、リシャさんは細かいところは気にしない人。遠慮せず、奢ってもらおう」


「ギル、たまには遠慮してもいいんだぜ?」


「心得ておこう」



ギルバートはめずらしく、口をゆがめて微笑んだ。

リシャールも笑いながら、周りを見回すのだった。



ギルバートが顔を引き締めて、冒険者たちに告げる。



「あとは、それぞれ、細々したことを指示するから、聞きに来てくれ」


「ああ、んじゃ、俺様から御指導をお願いするとするか」



盾士のマルコがギルバートに近寄り、にやりと顔をゆがめる。

ギルバートは呆れながらも、真面目にマルコに説明を始めた。


その後も順番に、冒険者一人一人に実際の戦闘での動き方を指導していった。



どの役割にも精通するギルバートの知識と経験。

力と技が秀でているのは間違いないが、それ以上の何かを感じさせる優秀さ。


多くの者の上に立って、様々な事を行ってきたのが分かる行動力だ。


ほとんどの者が、ギルバートが支配する空気を心地よく感じていた。


目に力を蓄えたまま、思いにふける者。

肩を叩き合い、お互いに気合を入れだす者たち。


参加者たちの胸に闘志を抱かせ、リベンジに燃える心をかきたてるに十分だった。


指導を受けた冒険者は帰途につき、部屋からだんだん人数が減っていった。

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