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にん~行雲流水~  作者: 石原に太郎Ver.15y-o
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《二頭山》

島が見える浜辺で姫と桜忍者六人は小休止している。

目指す島は少し遠いが、見える距離なので櫂たちだけなら泳いで渡ることもできるだろう。


「確かに位置的にはあの島だけど、山頂は一つしかありませんね。」

そういうと叙里は再度辺りを見回すが、他に島らしきものは見えない。


「ほら、やっぱりあの島に行くしかないんじゃないの。」

奏は急かす。


「そうですね、現実的に考えると、まずは行って確かめるしかありませんね。」

叙里は仕方ないという表情だ。


「姫の護衛に奏と桃は置いていくか。」

蓮の言葉に、


「え~アタシ~。」

奏は嫌そうだ。


「私だって奏と二人は嫌よ。」

桃も嫌がる。


「じゃあオイラも残ろうか。」

団丸が何故か嬉しそうだ。


「あれは何だ。」

蓮が島の方を指さす。


確かに小舟のようなものがこちらに向かってくる。

浜辺で七人はその船を見つめている。


小舟が浜につくと奇妙な集団が逃げるように船から飛び出し、浜辺に横たわった。


「犬吉、猿雄、雉子、無事か。」

桃の鉢巻をした男が荒い息遣いのまま仲間に声をかけた。


「はぁはぁ、大丈夫でやんす。」

相当疲れたのか顔を猿のように皺くちゃにはしながら細身の男が答えた。


「へぇへぇ、おいらも大丈夫。」

次の男は犬のようにベロを出して息整えながら答える。


「ひゃい、ひゃい、らいじょうぷ、ひゃあひゃあ。。。。」

鉢巻きに雉の羽をあしらっている女は声にならないようだ。


櫂達のことは目に入らないのか、浜辺で大の字になり目も虚ろだ。


桃は何かを閃いたという顔をして奇妙な一団の方へ近づいて行った。

「あの~船を貸して下さい。」


一同ビクッと大の字のまま硬直し桃を見つめた。


桃は一同を見回すとリーダーらしき桃鉢巻の男に顔を近づけ、

「船を貸して下さい。」

「えっどこに行くのですか」

「あの島まで。」

桃の指差す方角は奇妙な一団が命からがら逃げてきた島だ。


「あっあの島ですか。あそこには鬼のように強い盗賊たちがいますよ。」

「そうですか、ではお借りしてもいいですか。」


「貸すのは構いませんが、鬼のような盗賊ですよ。」

「はい、ではお借りしますね。」

桃は櫂達に合図を送る。


「えっえっ、盗賊がいるんですよ。」

桃鉢巻の男の言葉を聞き流し早々に船に飛び乗る櫂と蓮。

叙里は船に問題がないかマジマジと確認する。

団丸はヒョイと姫を持ち上げ船に座らせる。


「そうですか、では借りますね。」

「怖くないんですか。」

何だか面倒くさい連中だが、船を借りたいので無下にもできない。


「何人ですか。」

「えっ私たちは、見ての通りで。」

桃鉢巻がきょとんとした顔で返答すると。


「盗賊は何人なのよ。」

奏がシビレを切らしたように割り込んできた。


「じゅっ十人以上は。」

「ではお借りします。」

奏と桃がひょいと船に飛び乗ろうとすると。


「ちょっと待った!」

しわくちゃ顔の男がポンと体を飛び起こし、二人の鉢金を交互に確認する。


「急いでいるので。」

奏はキリッと答え船に行こうとする。


「あなた達は桜忍者ではないですか。」

その言葉に姫と桃以外の全員が船から飛び降り、一団を取り囲み忍刀に手をかけた。


「待ってください、私達も一緒に連れて行ってください。」

「はっそうか猿雄。」

犬吉は飛び起き猿雄の手を握った。


「ひゃ~ひゃ~。」

声にならないが満面に希望の笑みを湛え雉子がそれに加わった。


「よし、よし、お前たちの気持ちは分かった。」

最後に桃鉢巻が体の砂を払いながら立ち上がり。


「桜忍者殿、我々に力を貸して下さらぬか。」

先ほどの小心者の素振りは消え、船を貸す条件として島の盗賊退治を提案してきた。


「了解だ。行くぞ。」

蓮の言葉に一団は拍子抜けしたようだ。


結局桜忍六人、姫一人、奇妙な四人のぎゅうぎゅう詰めで島に向かった。




島に着くと、浜辺に姫と桃を残して、奇妙な一団を先頭にし櫂達は奥に進んでいった。

少し行くと簡素だが大きな砦が現れた。


「おい、盗賊。盗んだ物を返せ!」

島に渡る船中で盗賊達が周囲の村々から略奪を行っているのを聞いていた団丸の怒りも乗った大声が島中に響き渡った。


ギ~っと大きな門が開き、見るからに悪そうな大男たちがノシノシと歩いてきた。

一番背の高い蓮より二尺以上も大きい男たちに取り囲まれ、奇妙な一団は櫂達の真ん中で小さくなりブルブルと震えていた。


それを見た奏は

「大丈夫だよ」

と珍しく優しい笑顔で奇妙な一団を落ち着かせている。


二十人以上の大男たちに取り囲まれてはいるが、仮面忍者や椛忍者との死闘を繰り広げてきた蓮達にとって、この盗賊たちの戦氣は蚤のように感じられた。


バサッドサッグシャッ!


案の定、戦闘は一瞬で片が付いた。誰も忍刀は使わず、格闘術だけで全員を気絶させ一日結びで縛り上げた。


「よし、中を見てみよう。」

団丸は意気揚々と砦の門をくぐる、皆それに続き門をくぐると、目の前には灸忍里で聞いた、二頭の山がそびえていた。


「二頭山だ。」

「鬼の角だ。」

浜辺側からは分からなかったが、裏に回ると鬼の二本の角のように二頭の山頂が悠然と現れた。

やっと見つけた手掛かりに感慨にふける一同。


「では、姫を連れてきますか。」

叙里はそそくさと姫を迎えに浜辺に戻った。

櫂は弱い視力でぼんやりとしか見えないこの景色に不思議な感覚を覚えた。



******************



「姫、本当に二頭の山がありました。」

叙里が姫と桃を迎えに戻ると、奇妙な一団は砦にあった財宝をせっせと船に運んでいた。


桃鉢巻の男と叙里の目が合う。


「あの~これは。」

叙里と桃は何も言わずにじーっと見つめている。


「あの~半分だけ頂いても。」

卑屈な笑顔で媚びるように話しかけてくる。


「全部あげますよ。」

叙里は気にしていないようだ。


「その代り、盗賊に襲われた村人にちゃんと返してね。」

桃は船中で盗賊たちが村々を襲って財宝を略奪していると聞いていた。


「はい畏まりました。」

直立不動で桃の命令に答える桃太郎。

叙里はこっそり大粒の金塊を数個懐に忍ばせた。



*************



「よし、行こう。」

叙里、桃、姫が戻ってくると、蓮が号令を掛けた。


「あっ、ちょっと待ってて。」

団丸は砦の入り口に向かった。


少しすると戻ってきて

「さぁいくぞ!」


砦の門前で縛られている盗賊の頭にはやや黄ばんだふんどしが巻かれており、

「今度村人を虐めたら殺す(笑顔マーク)」と書かれていた。


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