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にん~行雲流水~  作者: 石原に太郎Ver.15y-o
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《海丹村 その二》

老法師の術が解け本来の姿をさらけ出した海丹村。


打ち壊され屋根のない集会所では蓮と叙里が今後の方針で揉めているようだ。


「ここからほど近い灸忍里に向かいましょう。」

「いや、ここが襲撃されているのに灸忍里は安全なのか。」


「はい、灸忍里は天然の要害に囲まれているので簡単には見つかりません。」

「だから、修忍里に間者が入っていたんだろ。」


「でも他にどうすればいいのですか。」

「とにかく船を探すんだ。」


「平泉まで行ける船が見つかるんですか。」

「平泉までは行けなくても尾張かせめて長島まで行ければいいんだ。」


「危険です。小舟であの荒海は越えられません。」

「でも、やるしかないんだよ。」

蓮は仮面忍者の事を思い出していた。


教忍頭幸軌に言われた事が本当なら忍術が全く効かず痛みも感じない仮面忍者を相手に、姫を守りながら戦うには非常に歩が悪い。


そして先の事を考えたら櫂達には言えなかったが、仮面忍者には神隠しに遭った見習い戦忍が混じっているようだ。


もしその仮面忍者が嵐山から愛宕山の逃亡中に襲ってきたら全滅も免れなかっただろう。

しかし夕顔という間諜がいるにも関わらず彼らは襲ってこなかった。


そうなると考えられる事は限られてくる。

他に仮面忍者が必要な作戦が有ったか、愛宕山の神域には踏み込めなかったかだ。


どちらにしろ今は見つかり次第に総攻撃を受ける可能性が高い。とにかく一刻も早くここを陸地を離れて平泉に向かいたかった。



****************



ザザザ~ザザザ~波音が聞こえる。


ここはどこだろう。


「櫂、気が付いた。」

目の前には桃が居た。


「かい~。」

この大声は団丸だ。

振り返ると叙里だろうと思ったら綺麗な夕焼けの海が広がっていた。


「うわ~金色の海だ~。」

暫く見とれていると。


「桜忍殿、ありがとうございます。」

姫と奏が側に来ていた。


「いえいえ、僕も途中で気を失ってしまったので。」

不思議な事に櫂と姫は大きなイルカの背に乗って浜辺まで運ばれてきたようだ。


そのイルカは蓮達が櫂と姫を引き上げるのを見届けると沖に消えて行ったらしい。


改めて海丹村を見回すと来た時とは全く違い、襲撃に遭ったようでアチコチが打ち壊されていた。


その打ち壊された集会所で、蓮が櫂の意識が戻ったことに気付いたようで、こっちに来いと手招きをしている。


浜辺に居た全員が集会所に集まると、蓮はお手上げだという表情で寝ころんだ。

姫もかなり疲れが溜まって居たのか直ぐに横になってしまった。

残された叙里は憮然と突っ立っている。

蓮は櫂を呼んだが無言で横になっているので、


「叙里、どうしたの。」

仕方なく櫂は叙里に聞いた。


「今後の方策で蓮と意見が合いません。」

「何で合わないの。」

団丸が聞く。


「蓮らしくないのです。」

叙里は寝そべる蓮を横目で見ながら答えた。


「どこが蓮らしくないの。」

櫂が聞くと。


「思考が滅茶苦茶です。」

「へぇ~蓮が滅茶苦茶なの~。」

桃は奏を横目で見ながら興味津々だ。


「なに、ウチの蓮に何か文句があるの。」

予想通り奏が突っ掛ってきた。

クスッと笑う桃。


「えっ蓮は奏の物だったの。」

団丸が余計な事を。


「誰が奏のだ!」

もう収拾が付かなくなってきた。


「ちょっと待って、話が逸れてきたよ。」

ペロッと舌を出す桃、何で止めるのという顔の団丸。


「叙里は蓮と何の話をしていて、どこが滅茶苦茶だと思ったの。」

櫂は話を本道に戻そうと頑張る。


「え~、とにかく小舟でもいいから見つけて早く平泉に向かおうというのです。」

「だからそれは、お前が灸忍里に行くって言うからだろ。また変な奴に襲われたらどうするんだ。」

櫂はちょっと待ってと蓮を手で押さえて。


「じゃあ叙里は何で灸忍里に行こうと思ったの。」

叙里はハッとして蓮を見た。そういえばお互いに熱くなって理由を言ってなかった。


「え~では分かりやすいように順を追って話しますが、どこからにしましょう。」

そう言われても話が全く見えないので何と答えればと櫂は思ったが。


「最初から。」

団丸の一言に


「バカ、端折れるとこは端折りなさい。」

奏がかみつく。桃がまたニヤニヤと何か言いたげだったので、


「みんなが分かりそうな所からにしようよ。」

櫂の提案に、蓮が無言で賛成と手を挙げた。

叙里はそれを見てフンフンと頷きながら。


「では、見習い戦忍小屋で津島忍者の昔話と龍神の神話が五行論に結びついている話をしたのを覚えていますか。」

と櫂、桃、団丸に問いかける。


「うん、覚えてるよ。」

「オイラも!」

「わたしも。」

「蓮と奏なら直ぐに理解できると思いますので、新たな情報を加えますね。」

奏が少し嫌な顔をする。


「お~!」

団丸と桃が気勢を上げる。


「鍼忍里で陰陽五行論を学んだのは覚えていますか。」

「うう~。」

団丸と桃が気勢を下げる。


「蓮と奏が治療を受けている間に僕たちは陰陽五行論の座学を受けていました。」

ほ~と言う顔で蓮が叙里を見る。


「鍼忍の長老に聞いたところ、以前は修忍里でも陰陽五行論を教えていたそうですが、何故か今は五行論だけになったようです。」


「陰陽五行論は少し複雑で分かり難い為にそうなったのか、意図的にそうしたのかは分かりませんが、」

「津島忍者の昔話には陰陽も含めた五行論が入っていたのです。」

「どこよ。」

話に付いてこられなくなったのか、奏が少し不機嫌そうだ。


「一番最後です-麒麟様中心に四方に散ってひっそりと暮らす-となっています。実はこれが陰陽が入った五行論の考え方とぴったり同じなのです。」

「なるほど、でそれがどうしたのよ。」

奏のむくれているだろう顔が声だけでも分かる。


「これってどこかと似ていませんか。」


「ほ~」蓮は納得。


「そうか」櫂は気付く。


「あっそうね。」桃は閃く。


「えっどこどこ。」団丸は問題外。


「だから、それがどこで、どうなるのよ。」

奏が切れだした。


「奏、他のみんなも暫く叙里の話を続けて聞こう。叙里も問いかけはいいから続けてくれ。」

蓮は急かすように叙里に続きを促す。


「はい、では新たに分かった事も含めて全てを繋げて話しますので聞いてください。」

深呼吸して集会所を見回すと、見習い戦忍小屋の時とは違い精悍になった桜戦忍者が叙里を見つめている。

その傍らで中納言の姫様は安心しきったように熟睡している。


「蓮と奏が京に向かった後に気になった事もあり色々と可能性を繋ぎ合わせました。」


「まず気になったのは超長老が事を急いてるように感じたところです。」


「そして日ノ本五大忍者と三年九人をあれから更に調べていたのですが、先日鍼忍長老から思いもよらない情報を頂きました。」


「実は三年九人になったのは今回で三回目らしいということです。」


「一回目は鍼忍長老のお爺さんも生まれる前で少なくとも百五十年以上は昔の事らしいですが、その時には桜忍者と椛忍者で大戦があり、両忍者共に壊滅的な被害に遭ったそうです。」


「そして鍼忍長老が正規の鍼忍に成ったばかりの二十年程前にも実は三年九人があったそうですが、その時には数人の戦忍と灸忍様が消えただけで桜忍者にも椛忍者にもはほとんど被害が無かったそうです。」


「しかしその時に消えた戦忍や灸忍様も含めて桜戦忍者が総出で何かを探し回っていたようです。」


「それが何かは分かりませんが、三年九人の年には必ず何かが起こり、それを防ぐ為の方策があるようなのです。超長老はそれを知っているからこそ早めに椛忍者との戦にけりをつけて、またその何かを探しに行こうとしていたのではないでしょうか。」


晩冬の凛とする底冷えと眩い星空が屋根のない集会所を包む。


「その何かって何だ。」

蓮が問いかける。


「おそらく津島忍者の生き残りだと思います。」

叙里は推測だがあえて断言した。


「その理由は。」

「答えは灸忍里にあります。」


叙里は鍼忍長老に二十年前の生き残りの一人が灸忍長老だと聞いていた。


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