《崖際の浜辺》
姫と桜忍者六人は切り立った崖下の僅かな浜辺を進んでいる。
灸忍里へは少し遠回りにはなるが、おそらく干潮時にだけ現れるであろうこの浜辺は人目を避けるには最適だった。
しばらく進むと少し広めの浜辺で青年が何やらブツブツと呟きながら、大きな箱を撫でている。
-それにしても切り立った崖に囲まれたこの浜辺に、青年はどこから降りてきたのだろう-
櫂たちは少し離れた岩陰から様子を伺うことにした。
「あまり時間は取られたくないな。」
蓮がつぶやく。
「そうよ!だから遠回りはじゃなくて直線的に灸忍里に向かおうっていったのよ。」
奏は基本的に水系の修業が苦手だったので、浜辺を通るのは否定的だった。
「でもそれでは宿場町の近くを通らなければなりません。ここは遠回りしても町から離れて、人気が少なくなった街道を横切るのが一番です。」
叙里は持論を展開する。
「腹減った~!」
団丸は相変わらずだ。
「あれは何だ。」
蓮の言葉に全員が岩から身を乗り出して、青年を見ていると
ポワ~ンっと靄のような物が立ち上り、青年の周囲は白い煙に覆われてしまった。
いったい何が起こっているのだろう。
徐々に煙が薄れていき青年の姿があらわになってきた。
俯いているので顔は見えないが、髪の毛がだんだん白く変色しているようだ。
心なしか体も少し縮んだようにも見える。
「あれっ。また妖術師かな~」
団丸の何気ない一言に、全員が海丹村の件を思い出して身構えた。
「姫は後ろに隠れて。」
桃は姫を庇うように周囲を警戒する。
「うわぁ~!」
青年は抜け落ちていく白髪を細くなった手でつかみ、慌てているようだ。
「うややぁ~!」
白髪を掴んだ両手の年老いた姿にまた驚いているようだ。
「ひゃこを開けたりゃ~、ひゃこを開けたりゃ~」
青年は皺くちゃになったその両手で顔を覆い天を仰いで涙を流している。
フワフワと空を優雅に舞いながら羽衣が降りてくる。
何処からともなく表れたその羽衣は、さっきまで青年だった老人を優しく包み込む。
なんとも不思議なその光景に目を奪われていると。
グ~!
団丸のお腹が鳴ったようだ。
「シーッ。」
一斉に指を口に当てて団丸を諫める。
「だって勝手に鳴るんだよ~」
団丸は情けない顔で半べそだ。
クエ~!
その声に振り返ると、羽衣に包まれた老人から鳥の羽根のような物が左右に突き出しているのが見える。
クエェ~!
バサ~ッ バサ~ッ
老人を包んでいた羽衣が空に舞い上がっていくと。
そこには真っ白な鶴が大きな羽を広げて飛び立つ準備をしているようだ。
ユラユラ フワフワ 優しく揺れながら舞い上がる羽衣
バサバサバサ~ッ それを追いかけるように飛び立つ白い鶴
羽衣に導かれるように空高く舞い上がっていくその光景はただ美しく、何故か鶴と羽衣が再会した恋人同士のように仲睦まじくとても愛おしく感じられた。




