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にん~行雲流水~  作者: 石原に太郎Ver.15y-o
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《逃走 戦忍頭実那》

松尾大社で教忍頭幸軌と合流した蓮たちは、嵐山から愛宕山へ向かう稜線上の深い森の中で小休止していた。


戦忍頭の実那は横たわる教忍頭幸軌の側に座ると竹筒を取出しゴクゴクと水を飲んだ。


「幸軌、どうする。」

幸軌に竹筒を手渡しながら問いかけた。


「実那はどう思う。」

幸軌はそう言うと手渡された水を飲みほした。


「このまま山を越えるのはちょっと厳しいかもね。」

と疲労困憊の姫と侍女の夕顔を見た。

険しい森の中をここまで付いて来ただけで、姫たちの体力は限界に近づいていた。


「よし、今日はここで休もう。」

「そうだね。」

戦忍頭実那はそう言うと立ち上がり、野宿の指示を出した。

桜忍者達は一斉に夜営陣の準備を始めた。

姫の居る場所を中心に周囲に木遁と土遁で警戒線を張っていく。、


「姫様、失礼します。」

実那は姫の前に進むと目前で印を結び何やら唱えだした。


すると桜忍者達が張り巡らせた木遁と土遁の内側がほんのりと暖かくなり、木々の擦れる音や鳥や虫の声が小さくなってきた。


先程までの荒々しく厳しい山が優しい空気に包まれる。


呪文が終わると忍者達に指先で見張りの位置を合図し、幸軌にこれでいいかしらと目線で確認する。

幸軌は右手を挙げそれで完璧だと返したようだ。

実那は大きく深呼吸すると、そのまま姫の横に腰かけた。


「姫この先も険しい山と森が続きますので、今日はここで野宿をします。」

「はい、分かりました。」

素直に頷く姫。


「ちょっと待ちなさい。」

夕顔が何やら言いたいようだ。


「畏れ多くも中納言の姫君様を、」

「夕顔。」

姫が夕顔を諌める。


「桜忍者殿よろしく頼みます。」

相当疲れているであろう中で、その顔は精一杯の笑みを実那に向けた。


「ん~もう姫ちゃま大好き」

実那はその太い腕で姫を優しく抱きしめる。


「なな何をなさるか。」

夕顔がそれを引きはがそうとすると、


「ゆっ夕顔、この、このままで」

姫は涙を流している。


「姫、貴方は本当に強い子ですね。」

みんなに気付かれないように実那の太く優しい腕の中で泣きじゃくる姫。

ひとしきり泣いたら眠くなったようで、実那の腕の中で姫は寝てしまったようだ。


*********************


ヒューヒュー、急に寒くなり姫は目が覚めた。

嵐山の夜は寒風が吹き荒れさっきまでの優しい空気がどこかへ行ってしまった。


「姫、大丈夫です。このままじっとしていて下さい。」

傍らで奏が話しかける。


「あの何が起きたのですか。」

「大丈夫ですよ。」


ジャキ~ン、ガチ~ン、忍刀がぶつかり合う音が四方から聞こえてくる。


「姫、移動します。」

顔から微かに血を流した実那がやってきた。


「蓮、奏、姫を護衛して。」

そう言って前線に戻ろうするが、


「何を言っているのじゃ、こんな夜中に姫を歩かせる気か。」

夕顔は物凄い剣幕で実那にせまる。


「ごめんね夕顔さん、ここは危険なの。」

バサバサッと木が揺れる音と共に椛忍者が実那の頭上から襲ってくる。

キ~ン、バサッ、その忍刀を片手で弾くと返し様に椛忍者を一刀で切り裂いた。


「姫、行きましょう。」

何事も無かったように実那は姫に微笑みながら移動を促した。


「はい。」

姫はその実那に圧倒的な安心感を感じ直ぐに立ち上がると、蓮と奏に護衛されて走り出した。


「夕顔さんも行きますよ。」

「あわわわわ。」

夕顔は目の前に飛び散る血しぶきに腰を抜かしてしまったようだ。


「夕顔さん立てますか。」

「あわわわわ」


「では失礼します。」

実那は忍刀を収めると腰を抜かした夕顔を抱きかかえ、忍者駆けを始めようとした時、


バサバサっと左右から椛忍者が襲い掛かってくる。

右の忍者は蹴り倒したが左の忍者はそのまま忍刀を振り降ろしてくる。

普通に避ける事も出来たが、両手に侍女の夕顔を抱えている。

両手を離して避ければその忍刀は腰を抜かした夕顔にそのまま向きそうだ。


「蓮!」

実那はそう叫ぶと背中で忍刀を受け止めた。

背中を切り付けられたまま振り返る実那。

椛忍者はがっしりと食い込んだ忍刀が抜けず、その刀は実那の背中に絡み取られて丸腰になっている。

そのまま右足で椛忍者を蹴り倒すと実那はその場に崩れ落ちた。

蓮はその声にすぐさま駆け戻った、


「夕顔さんを頼みます。ゴフッ」

そう言うと実那は口から血を噴出した。


「蓮、これを使え。グバァ~」

蓮が阿修羅刀を受け取ると一瞬笑顔を見せ、大量の血を口から吹き出し実那は絶命した。


「実那、大丈夫か。」

教忍頭幸軌も足を引きづりながらやってきて、すぐに実那の呼吸と脈を確認した。

なんだこれは、あの戦忍頭実那が目の前で倒れている。

どうして、何がどうなったんだ。蓮が呆然としていると、

バシッと幸軌に頬を張られた。

「行くぞ。」


「夕顔さん、起きられますね。」

幸軌は鬼のような形相で傍らにへたり込んでいる夕顔を睨む。

うんうん、うんうんと夕顔は頷くが、腰が抜けて立ち上がれないようだ。


「立て。」

幸軌の怒りを押し殺し、臍下丹田から絞り出した声に、

夕顔はその場でシャキンと立ち上がり、スタスタと駆け出した。



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