《櫂と叙里の合流》
修忍里が襲われた三日後に櫂と叙里が戻ってきた。
里人達は既に西に避難を始めており、龍神の祠前には残った超長老に常忍留萌と黒組四人だけだった。
「櫂、叙里、よく戻ってきたのう。」
超長老は櫂と叙里を抱きしめた。
「京の状況は桃と団丸に聞いたが、まさか群暮がのう。」
と申し訳なさそうに櫂達を見回す。
「戻ってきたばかりなのにすまないが、今残っている戦忍はお前達だけじゃ。」
下から覗き込むように櫂達を見る。
「姫はまだ捕まっておらず生死は不明じゃ、その姫を探し出して奥州平泉の藤原秀衡の元へ送り届けてほしいのじゃ。」
修忍里を襲撃されて相当に落ち込んでいるのだろうが、上からの命令という感じではなく、下からお願いされているようで、櫂は何かむず痒い感じがした。
桃、団丸、叙里もあの戦の後でまた京に戻れとは、
さすがに「はい」と即答できないようだ。
こんな時は命令口調で上から言いつけてくれた方がいいのにと思っていると。
「もしかすると姫は生き残った戦忍と一緒に逃げているかもしれん。」
櫂はドキッとした。
「情報が錯綜していて確証は無いのじゃが、生き残った諜報からの知らせでは、未だに捜索隊に椛忍者が駆り出されているそうじゃ。源氏の落人だけなら忍者はいらんじゃろ。」
その言葉に櫂は京の屋敷での不思議な夢を思い出した。森が深い山を山頂に向かって進む蓮。
あれは現実だったのかもしれない。
-蓮を助けなきゃ-
「はい、行きます。」
櫂の力強い返事に、
「そうか、櫂は行ってくれるか。」
と櫂の手を握りしめながら頭を下げる超長老は横目で桃たちを見る。
三人は顔を見合わせたが、櫂だけは強い意志が宿った眼で遠くを見つめている。
「分かったわよ。」
「よし行くぞ!」
「そうするしかないようですね。」
それぞれに行く決意をした黒組達。
「櫂、額を見せてくれんか。」
急になんだろうと思っていると、
「櫂はちゃんと合格しなかったじゃろ、でも微かに紋様が有ったから仮合格じゃ。」
と櫂の目を見ながら
「京では椛忍者と戦ったじゃろ。」
「うん、逃げる時に何人かと。」
「で、何人殺したのじゃ。」
なんだか殺したっていう言葉は敵でも嫌な感じだ。
「何人殺したかは分からないけど、五人は倒したよ。」
と超長老の顔色が変わり、
「ほ~う、椛戦忍五人ものう~。やはり戦忍として正解じゃったのう。」
と執拗に額を覗き込もうとするので、少し恥ずかしいけど仕方なく鉢金を外した。
まじまじと額を見つめられると何やら情けなくて超長老の臭い息が余計に鼻についた。
「ん~五人殺してもこれか。」
さっきから殺して殺してと今日の超長老は何か嫌だ。
「北と東は椛忍者の村が多いので姫を見つけたら一旦西へ向かうのじゃ。」
さっきまでとは違い、いつもの力強い口調に戻っている。
「叙里は海丹村は知ってるじゃろ。」
「はい僕が生まれた金出地村と同じ瀬際地五村の水系村です。」
「その海丹村には大きな船がある、それで奥州へ向かうのじゃ。」
そう言って超長老らしい威厳のある目で四人を見つめて、
「よいか、必ず姫を見つけ出すのじゃぞ。」
「はい。」
「よし、では儂も九州に避難するかのう。」
「留萌行くぞ。」
超長老と留萌は林の中を西へ向かって走り出した。
四人はそれを見送ると、ほっと地面に座り込んだ。
ひんやりとした風の中で照葉樹林の優しさが四人を包み込む。
「櫂は安請け合いし過ぎです。」
「えっ何が安いの。」
団丸を無視して叙里が続ける。
「姫を見つけろって、当てはあるのですか。」
めずらしく櫂に突っ掛ってくる。
「そうよ、櫂が引き受けちゃったから、一人で行かせられないから私も行く事にしたのよ。きっと叙里も団丸もそうよ。」
「えっオイラもそうだったの。」
その言葉に桃は驚いたように団丸を見る。
「櫂はどうするつもりですか。」
叙里は櫂を見る。
「いや、当てはある。」
櫂はあの不思議な夢は現実だったと確信している。
蓮は嵐山から愛宕山の山頂に向けて逃げているはずだ。
そして京の外れで出会った不思議な女性の言葉を噛みしめた。
~この先で迷うことがあっても自分を信じて進みなさい。~
悠子さんに会ってから櫂の感覚は増々研ぎ澄まされ、生き物以外の色や形もはっきりと感じ取れるようになっていた。




