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《逃走 櫂その二》
櫂は修忍里に帰る前に、故郷の夙川村に寄った。
本来であれば急いで修忍里に戻り状況を報告しなければならないのだが、櫂はどうしても霧に会いたかった。
まずは無事なのを確認したかった。
そしてそれ以上に霧と話したい事、聞きたい事が沢山あった。
夙名川を渡り村に入るといつもと変わらない風景がそこにあった。
百合と石拾いをした河原はあの時のままだが、目の前にある大岩がやけに小さく見える。
ヒョイと岩に飛び乗り仰向けで眼を閉じて深呼吸をした。
川のせせらぎと鳥や虫の声、時々聞こえる農作業の音が村を包んでいる。
「あ~夙川村だ。」
その優しく長閑な雰囲気に緊張の糸が緩んだのか、
急に体が重くなり岩に体が吸い込まれているような感覚になった。
どれくらい経ったのだろうか。
「おかえり櫂。」
ハッと起き上がり声のほうを見ると、長老が懐かしい笑顔で横に立っていた。
「長老~」
櫂はおもいっきり長老に抱き付いた。
いつの間にか目からは涙が溢れていた。
村での懐かしい思い出、修忍里での辛いけど楽しかった修行の日々、京での裏切りが走馬灯のように頭を駆け巡り、嗚咽と涙と鼻水が際限なく溢れ出していた。
村を出てから二年半、修忍里での修行の日々、京での実戦。
櫂はいつまでもこの村で霧と一緒に暮らしたかった。
しかしその霧は数日前から行方不明になっていた。




