《逃走 叙里》
ズキーン右足の鈍い痛みに気付きゆっくりと目を開けた。
叙里は煤けた鉄の匂いが充満する見知らぬ小屋の中にいた。
部屋を見回すと手裏剣と忍刀が壁中に並んでいる。
見慣れた棒手裏剣に交じって見たこともない形の平手裏剣もある。
手裏剣には棒型と平型の2種類があり、主に棒型は攻撃戦に平型は防御戦に使うことが多い。
叙里は初めて見る形の平手裏剣を手に取り、まじまじと眺めた。
刃先の滑らかさ中央から先端にかけての微妙な曲線から、打った時の得も言われぬ回転力が想像できる。
これを作ったのは誰だろう。
見知らぬ小屋にいる不安感よりも、手裏剣の見事さに感嘆し作者が誰なのか、どのように作ったのかに興味がわいた。
「気が付いたか」
しわがれた声に振り返ると、そこには顔中に痣がある小さい男が立っていた。
「それは白樺忍者からの依頼品だ」
「白樺忍者。」
叙里は初めて聞く忍者名に思わず聞き返した。
「なんだ、おめぇは忍者のくせに白樺忍者も知らねえのか。」
叙里はきょとんとした顔で小男を見つめた。
「東の果てに住んでる忍者達だ。あいつらは変わった武器が大好きなんだ。」
と言って折り畳み式の棒手裏剣を叙里に投げた。
叙里はその棒手裏剣を受け取ると、
「これは凄い。」
舐めまわすように細部まで確認して、
「これかな。」
そう言うと左手で中央部の四角い突起を押して、右手で一方の先端を持ち力を込めると、ガチッと音がしてくの字になった。
「ほぉ~、よく分かったな。」
小男は叙里の所作を見てニヤリとした。叙里も目を輝かせながらニヤリとし返した。




