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にん~行雲流水~  作者: 石原に太郎Ver.15y-o
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《逃走 松尾大社》

蓮たちは姫を守りながら、教忍頭達とは別道で嵐山に向かっている。


「姫、苦しいかもしれませんが、今しばらく、せめて松尾大社に着くまでは、気を抜かずに走り続けてください。」

奏の言葉に姫は息を切らしながらも黙って頷き、ただ懸命に付いて来る。


幸いにもまだ追手の気配はないが、少しでも早く清盛の支配地域から逃れるべく休みを取らずに走り続けた。

そんな状況であったので姫も泣き言は言わずに黙って蓮達に従ってくれる。

松尾大社が遠くに見えてきた時に、偵察のために先行していた黄組の慶亮と秖尼が戻ってきた。


「境内に異常はありません。ただ・・・」

口ごもる慶亮


「ただ、なんだ。」

戦忍頭の実那は続きを促す。


「教忍頭達がまだ着いていないようです。」

一瞬静まり返る。


別働の教忍頭たちがまだ着いていないとは。。。

自分達のほうが遠回りをしてきたので、きっと教忍頭達には何か問題が起きたに違いない。


「蓮、付いて来い。残りは左右の林から警戒前進。」

実那と蓮は街道を忍者駆けで松尾大社へ再確認に向かう。

残りの桜忍者は4人と3人に分かれ左右の林から松尾大社へ向かう

奏と姫達も街道から左の林に入り4人の桜忍者に付いて警戒態勢でゆっくりと進む。


蓮は里を出るまで、まさか実那が戦忍頭だとは夢にも思っていなかった。

実戦では戦忍頭が真っ先に狙われるので、修忍の里でも戦忍頭が誰なのか知っているのは戦忍と長老達だけだった。

でも今は京での活躍ぶりに教忍頭の幸軌以上に実那を尊敬し憧れるようになっていた。


***********


大内裏の防衛戦では北南西にある十門を桜忍者二十五人と信頼の手勢百人で守備していた。

各門に桜忍者が二人、信頼の手勢十人が張り付き何かあれば戦忍頭実那と教忍頭幸軌が率いる甲種戦忍の精鋭五人が駆け付ける手はずだった。

蓮は上西門の守備を命ぜられ初の大戦に緊張で武者震いが止まらなかった。

隣の奏も同じようで二人とも無言でただただ待機していると、


ドドドドド~!!!

と前方から騎馬武者が近づいてきた。

門をがっしりと閉め弓矢を持った信頼の手勢達は門上の簡易櫓で狙いを定める。

徐々に近づいてくる平家武者、その数は三十騎ほどだろうか、後ろからは鎧武者も続いて来る。


「あっ奏。」

蓮が奏に何かを促す。

奏はそうだったと言うように懐から桜笛を取りだして

「ピーピー」と合図を吹く。

桜笛は桜忍者独特の笛で喧騒にも邪魔されずに遠くまで届くが、耳が鍛えられた忍者にしか聞こえない。


すると南の方でも

「ピーピピー」

「ピーピピピー」

と桜笛の音がする。

寡勢の桜忍者達が一番恐れていた同時攻撃が始まったようだ。


ヒュ~ンヒュ~ンと飛び交う弓矢、圧倒的な兵数差に手勢達はバタバタと倒れていく。

櫂と奏も棒手裏剣を打ち続けるが、重装備の鎧武者になかなか致命傷を与えられない。


ド~ン!!

大木で門が壊されそうだ。


上西門は一番小さな門で周囲は湿地なので大群が入るのは難しく、信頼の手勢はここの守備で良かったと喜んでいたのがほんの数刻前だ。

それが目の前には三十騎程の騎馬武者と百人以上の鎧武者がいる。

何で平家武者がこの門に攻めてきているのだろう、ぬかるみの中で普通に走ってきたようにも見えた。

櫂たちは低い塀をよじ登ってくる武者を蹴落とし続けるが、ここの門はもう持たないかもしれない。


-さっきの桜笛が本当に同時攻撃なら一番小さなこの門への後詰はおそらく後回しだろうな-


蓮は覚悟を決めて上西門の内側に降りた。

目の前にある門が破られれば、きっと百人以上の平家武者が襲い掛かってくるだろう。

目を閉じて丹田で深々呼吸していると、耳元で


「蓮、開けろ。」


-えっ-


「その閂を外せ。」

後ろには戦忍頭実那が微かに笑いながら立っていた。


蓮は命令通り閂を外すと、


ド~ン!

門は打ち開けられ、

一斉に鎧武者が押し入ってきた。


グシャシャシャーッ!

実那が忍刀を一閃すると、大木を持って押し入ってきた鎧武者が次々に倒れていく。


「閉めろ!」


今度は命令通りに門を閉め閂を掛けると、外側では門を壊す大木を失った平家武者達は何が起こったのかと右往左往している。

戦忍頭実那はヒョイと壁に飛び乗ると平家武者が埋め尽くす門外の様子を確認する。

蓮も加勢しようと壁によじ登ろうとするが足がすくんで動けない。

実那は微笑みながら振り返り、そこに居ろと蓮に目で合図する。

そして大きく息を吸い込むと、


ノウマク・サマンダ・ボダナン・ラタンラタト・バラン・タン

ノウマク・サマンダ・ボダナン・ラタンラタト・バラン・タン

忍刀を両手で持ち頭上にかざし真言を唱えている。


何だろうと平家武者たちの動きは一瞬止まったが、それが桜忍者だと確認すると一斉に弓を射る準備を始めた。


その時頭上の忍刀がピカーッと発光し二本に分かれていく。

まばゆい光に包まれた実那は門外にいる騎馬武者達の真ん中に飛び降りた。


ドーン!

実那が着地したと同時に、その光は頭上から扇型の残光と伴に広げた両手にすっぽりと収まる。

次の瞬間、ヒュルヒュルヒュルー!

実那は鋭く回転し両手の先で光る二本の剣は、閃光を糸のように残しながら騎馬武者達を馬ごと真っ二つに切り裂いていく。


その光景に残った鎧武者たちは金縛りにあったように、ただ茫然と立ち尽くしている。

騎馬武者を倒した実那は振り返ると、鬼のような形相でゆっくりと鎧武者に向かい歩きだす。


「うっうっうわぁ~!]

「ばっ化け物だ~」

「助けて~!」

鎧武者達は怯え慄き一斉に退却していった。

門の前で仁王立ちの実那の両手には桜戦忍頭の証である阿修羅刀が光り輝いていた。


***********


桜忍者と姫達は松尾大社の境内に入っても林に身を潜めて、戦忍頭実那の合図を待っている。


そこに境内の見回りが終わり実那と蓮が現れ、右手で出てくるように合図を送る。

緊張感に包まれたまま、ゆっくりと林を出る桜忍者と姫たち。


「大丈夫だ、しばらく休憩。」

その言葉と圧倒的に安心感のある笑顔に緊張がゆるみ、全員がその場で地面に座り込んだ。



「姫、どうぞ。」

奏が水を差しだすと、真っ赤な顔で肩で息をしながら、侍女の方を指さした。

奏は言われたとおりに竹筒を侍女に差し出すと、


「めっ滅相も御座いません。姫がお召し上がりください。」

今度は竹筒を姫に差し出す。


「ゆ、夕顔に」

とこちらも譲らない。奏は当惑しながらも、また竹筒を侍女に差し出す。


「いえいえ姫様に」

と実那がそれを取り上げ一気に飲みしてしまった。


姫、夕顔、奏はあっけにとられていると、実那は姫の隣に座り。

「姫、私達はあなたを逃がすために命を懸けているのです。この先いつ水が飲めるとも限りません。まずは貴方がお飲みください。」

そう言って自分の竹筒を姫に差し出した。


姫は実那を見つめると、黙って頷きその竹筒を取り、相当にのどが渇いていたのだろう。

ゴクゴク一気に飲みだした。

その姿に実那はこの状況では考えられない笑顔で、

「あなたは強い子ですね。これからも絶対に諦めてはいけませんよ。」

と頭をナデナデした。


隣では侍女の夕顔が、アワアワとした顔で何かを言おうとしている。

それに気付いた実那は

「姫、無礼をお許しください。夕顔さんごめんね。」

と全く動じていないようだ。


蓮は境内に座り込むと息を整えながら状況を整理した。

別働の教忍頭たちはまだ着いていない。自分達のほうが遠回りをしてきたので、きっと教忍頭達には何か問題が起きたに違いない。

調息で鎮めてはいるがなかなか鼓動が収まりきらない。

初めての撤退戦は想像以上に精神力を消耗する。頭も疲れているのか状況がうまく整理出来ない、


ガサッガサッ

木々の揺れる音に全員身構える。


林の中から教忍頭幸軌が現れた。

右足に深手を負い引きづりながらみんなの前に来ると


「俺達の一行は全滅した。」

その言葉に姫の顔は凍りついた。

教忍頭はその表情を見取って目を閉じた。

しかし直ぐに目を開けて、


「笛の音が変わったら、目を閉じて耳をふさげ、決して仮面忍者とは戦わずに、隙を作って姫を連れて逃げるんだ」

そう言うと、その場に倒れるように崩れ落ちた。


姫は教忍頭に駆け寄り、

「桜忍殿、桜忍殿。後生じゃ、我の母上はどうなったのじゃ。桜忍どの」

教忍頭幸軌は体力を消耗しきっており血も流しすぎたようだ。

そのまま気を失ってしまった。


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