《仁和寺その二》
煌々と篝火が焚かれる境内に仮面忍者が信頼の妻を連れてきた、
「よし」
疑心は本殿を降りて奥方の方へゆっくりと歩み寄る。
仮面忍者に挟まれて恐怖に震える奥方の顎を右手でクイッと上げると、
「待ってたよ。」
そういってヒョイと両足を掴み上げ逆さに吊るし、本殿奥で黒い霧に包まれ宙に浮いている信頼の元へ進んでいく。
恐怖に震えながらも捲れる着物を押さえつけ必死に感情を堪えている。
「うがァ~」
信頼は朧な意識の中でも自分の妻が捉えられている姿を確認したのだろう。
息遣いが急に荒くなり、必死に体を動かそうとしているようだ。
「この女、ただ殺してもダメだろうな」
疑心は左手一本で信頼の妻を吊るしたまま右手で裾を引き裂き、更に高々と掲げゆっくりと信頼に近付いていく。
薄気味悪い笑みを浮かべながらユラユラと揺らすと、左手が中から沸騰しているようにポコポコと蠢いて徐々に黒く変色していく。
やがてポンッポンッと左手の皮膚がはじけて中から緑色のナメクジのような物が次々に顔をだし、次第に左手全体が無数の溶けたナメクジだったかのようにドロドロになっていった。
そのまま更に信頼に近づき目の前に左手で掴んだ奥方を掲げると、そのドロドロの物体は意思を持っているかのようにニュルニュルと足首から股間に向かいじっくりと進み始めた。
その生暖かい液状の物体が焦らすように下腿を浸蝕するする度に、恐怖の為なのかビックンビックンと奥方の体は自然に反応してしまう。
やがて足全体がナメクジの様な物体に覆われると、全体が一つの生き物のように見事な連携で小刻みにブルブルと振動しながら奥へ奥へと侵入する。
「あっ、いやぁ~。」
思わず声が出てしまった。
「やっ、やめてください。」
何かを必死に抑えるように苦悶の表情を浮かべる妻。
「ダッダメ~」
そう叫ぶと、一気に力が抜けて裾を抑えていた両手はだらりと垂れ下がり、体は硬直し歯はガチガチと小刻みにぶつかり合っている。
そのまま何かに囚われたような様な虚ろな目を見開き、何とも言えない悲しげな表情で信頼に許しと助けを求めているようだが、乱れた呼吸は不規則のまま痙攣して声も出せずにいる。
「ウグググ~」
眼前で繰り広げられた光景に信頼の怒りは頂点に達し今にも心が爆発しそうだが、不思議な力に押さえつけられ指先さえ動かせない。
「ウググググゥ~」
目の前に怯えて必死に助けを求める最愛の妻がいるのに何もできない。
激しい怒りが何もできない悔しさとなり体中を駆け抜ける。
「ウガガガガァ~!」
微かに動くまぶたをカッと見開き、殺意の眼光で男と上皇を見据えたその瞬間、
プハァ~!
白と黒が混じった霧状の物体が信頼の口から吹き出す。
ドサッ!
意識を失い地面に崩れ落ちた。
「ハハハハハ~、良い魂だ。慈愛に満ちた信頼の絆から、疑いと怒りに満ちた感情まで含んだ最高の魂だ。」
疑心は信頼の口から噴き出た霧状の魂をスゥ~ッと吸い込むと、目を閉じて最高の食事を味わっているような至高の面持ちでブルブルッと体を震わせた。
すると体が徐々に大きくなっていき、血管は黒緑色に変色してポコポコと浮き上がり、まるでこの世の者とは思えない姿になっていく。
「ギャハハハハハ~! これで俺が最強だ~!」
上皇はそのあまりにも醜い姿を見つめながらブルブルと恐怖に震えている。
ここに世に言う平治の乱は終結し、桜忍者の守護者であった信頼は小雪が舞う京の街を引き回された後に、六条河原で斬首された。
しかしその魂は既に仁和寺で疑心に抜かれた後だった。




