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《老法師の館》
崖下からゴゴ~ッと吹き上げる風の音と、ザパ~ン、ザパ~ンという波音だけがこだまする寂れた館の荒れた裏庭にドシーンと黒龍が降り立った。
「法師お待たせしました。遂に準備が整いました。」
龍の背中から無機質な男の声が法師を誘っている。
法師はその年老いた様相からは想像ができない身軽さで、大きな箱を背負いながらヒョイと龍の頭に飛び乗ると。
「疑心待っておったじょ~。お前達も元気だったか~。」
龍の頭頂には不気味な大きな仮面が張り付けられており、法師が擦るとその額部分から蛇のような物体が表れてクネクネと喜ぶように蠢き、疑心と呼ばれた男の左手もブクブクと反応しているようだ。
「出発じゃ~ほほほほほ~。」
黒龍は大きな翼を広げバサバサと羽ばたきだした。
するとその風圧に荒れた庭の枯れた草木は四方に吹き飛ばされ、古い館も音を立てて軋みはじめた。
グォ~ン!!
悲しげな咆哮と共に疑心と老法師を背中に乗せた龍は空高く舞い上がっていく。
その振動で蓋が外れた大きな箱の中には薄気味悪い仮面がぎっしりと詰まっていた。




