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LIU:2016発目の弾丸は君がために  作者: ウサギ様@書籍化&コミカライズ
第二章:不良と魔女と時々ゴリラ
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いつも抱える心 2-4

 友達と遊ぶ。 慣れないことではあるが、少し楽しみでもある。 鈴の用意を待つ時間も悪くないと思える。


「先輩」

「どうかしたか?」

「いえ、先輩がこういうことに応じてくれるのは珍しいな、と思いまして」

「……そうか?」

「はい。 ……少し、変わったなって」


 利優は黒髪を風に揺らされながら微笑んだ。 黒い髪先は揺られながら太陽の光を反射し、満天の夜空に似ているように思う。

 色付いて見えていたはずの世界がボヤけて、彼女の姿ばかりが目に入る。


 見惚れていたのを誤魔化すように頰を掻き、横を向く。


「……なんとなく、優しいというか。 いや、元々優しいんですけど、トゲトゲしていないというか……」

「気のせいだろ」

「えへへ、そうかもです」


 利優はそう言ってから、俺に笑いかける。


「でも、そうだったらいいなって」


 隠す気もない好意に、思わず顔を伏せる。 こんなにも幸せでいいのだろうか。

 そう思っていると、隣から大きなため息が聞こえる。


「……俺もいるのにイチャつくなよ」

「ぼ、ボクはイチャついてなんてないですっ!」

「なんかムカつくな……。 水元を殴っていいか?」


 理不尽だ。 しばらく待っていると少しオシャレをしている鈴が出て来て、俺と利優を見た笑みを浮かべた。


「おまたせ」


 それから神林を見上げて軽く頭を下げる。


「お久しぶり。神林くん」

「突然邪魔して悪いな。 こいつらが携帯にいくらメールや電話をかけても通じないから」

「あー、ちょっと電波の通じない病院に入院してたからだと思うよ。 ごめんね、私も電話番号交換してたらよかったんだけど」

「……入院?」


 神林が俺の怪我を見て首をかしげる。


「骨折してると言っただろ。 他にも全身が傷だらけだから、組織の息のかかった病院に入院してたんだよ」

「そんなに酷かったのか? というか、何の怪我だよ」

「色々な能力者と戦ったんだよ」

「ふーん、案外お前もボロボロになるんだな、もっと強いのかと思ってた」


 利優が俯いているのを見て、軽く肩を引き寄せて頭を下げ撫でる。 不思議そうにしている神林を誤魔化すように口を開く。


「そういえば、今日って平日だろ。 学校はどうしたんだ?」

「夏休みだろ……」

「部活は?」

「サボる。 ……どうせプロにはなれないからな」

「別に、この組織に属しながらでも大丈夫だが」

「いや、単に実力不足だ。 能力による目がなければ、全国にギリギリ出れる程度のレベルしかないように思える。 何にせよ、才能がなかった」

「……まぁ、俺が何か言うことでもないけどな」


 案外、アッサリとしている。 すこしだけ一緒にいただけの友人を、学校をサボってまで追いかけてくる割には諦めが早い。


「気にすんな。 これはこれでいいんだよ」

「ボクも子供の頃夢だったケーキ屋さん諦めてますし、そんなものなんですかね」

「そりゃ、叶う奴もいるだろうけどな。 塀無はなろうと思えばなれるんじゃないか?」

「先輩がいないと色々危ない身の上なんで……」


 迂闊な利優の発言に神林は不思議そうに見る。 鈴が誤魔化すように歩き出したのを機に、利優が鈴の手を取って引っ付きながら歩き、俺と神林はその後ろを歩く。


「あの二人仲良いな」

「ああ、幼馴染らしい」


 それだけではなく、鈴の目が弱視なことを気を使っているのもあるだろうが、神林にわざわざ言う必要もないか。

 少し自分の目を抑えて、ため息を吐き出す。


「どうかしたのか?」

「いや、大したことじゃない」


 利優と映画だと思い浮かれていたが、隣にいるのは巨漢の男で何となく落ち込む。

 そう思っていると、利優が振り返った。


「先輩って子供の頃の夢とかあるんですか? そもそも、先輩の子供時代って考えにくいですけど」


 利優の問いに少し迷う。 あまり覚えていないのもあるが、そういうことを考えたこともない子供だった。 思い出せば、本や漫画の中の主人公に憧れたぐらいだ。


「……特にないな。 物語の主人公に憧れたことはあるが、現実的なのはないな」

「へー、先輩でもそういうのあるんですね。 じゃあ、今は夢とかないんですか?」


 何をしたいかを聞かれれば利優と結婚するとかだが、聞きたいのは職業のことだろう。 少し考えるけれど、やりたいことは思い浮かばない。


「……特にないな」

「先輩って主体性に欠けてますよね」

「いいだろ別に」

「ん、じゃあボクが先輩の夢を決めてあげますね」


 利優はそんなことを口走ってから、これだ、と手を打つ。


「お花屋さんはどうですか?」

「こいつに似合わなさすぎるだろ」


 神林が間髪入れずに突っ込み、利優が驚き、鈴に抱きつく。


「……なぁ、お前らって基本コミュ障だよな」

「どうしても同年代との関わり薄いからな。 俺も利優も小学校中退……あ、高校中退か。 何にせよ、最終学歴は保育所だ」

「あ、ボクは能力の問題で幼稚園も保育所も行ってなかったんで、卒業出来てる学歴ないです」

「すげえ世界だ……」

「私はちゃんと中学校卒業してるよ? 最後の方は不登校だったけど。 高卒認定も取るつもりだしね。 どっちかと言うと、二人が珍しいだけだよ」


 話をしているうちに映画館の前まできていたので、中に入る。 香ばしい嗅ぎなれない匂いと、不快にならない程度の騒音、平日だからかあまり人はいないが映画館のエントランスは広く、妙な場所だ。


 映画の宣伝らしいモニターがいくつもあり、怪訝そうにこちらを見る店員と目が合う。


「じゃあ、映画のチケット買うか」

「あ、ボク達は引き換え券があるので、交換してもらいに行ってきますね」


 見る映画は確か31日の就業日だったか。 見る映画と席を大まかに神林に伝えてからチケットを買う。


 四つのチケットが揃い、ひとつは神林が端っこで決まりだが、あとは決まっていない。

 可能ならば、神林俺利優鈴か神林鈴俺利優、神林鈴利優俺のパターンが望ましい。 最悪なのは神林利優鈴俺のパターンだ。 妬ましさで神林を憎しみかねない。


 人数分のポップコーンと飲み物を買い、鈴からチケットを受け取ってから中に入る。 席の順は神林、俺、利優、鈴と俺にとっては理想的に近い席だ。


 とりあえず神林の巨体が圧迫的なので利優側に寄って座ると利優は鈴をベタベタと触っていて近いが遠いように感じる。

 広告が流れ始め、利優は膝掛けのようなものを鈴に掛けてからスクリーンを見始めた。 鈴は既に寝始めている。


「映画か、久しぶりだな」

「……俺は始めてだな」

「ボクは時々鈴ちゃんと見にきますね」

「鈴は見てるのか?」

「だいたい後でボクがあらすじを話しますね」


 このメンバーで映画は難しい気がしてきた。 パクパクとポップコーンを食べている利優が可愛いので、もうなんでもいいか。 これだけ見れてたら。


 そう思っていると映画が始まった。


『希望を抱きながら四月に入社した新入社員、ジャクソン』

『彼は上司の言葉を聞き、愕然とする』

「ジャクソンくん。 一度だけ、一月だけでいいんだ! 31日間働いてくれ!」


 スクリーンの中ではジャクソンが働くシーンが流れていく。 慣れない環境で働く彼は日に日にやつれていき、大丈夫なのかと、思わず手に汗を握りしめる。

 横を見たらハラハラと映画を見ている利優が可愛い。 神林はデカイ。


「サタデーナイト……ノンアルコールビール。 はは」


 映画の中のジャクソンが可哀想だ。 見ていられないのでひたすら利優の方をみておく。

 ポップコーンを食べようと手を突っ込み、底に当たって顔を顰める。


「はは、土曜日が終われば日曜日がくる。 俺以外になぁ!!」



 ーーポップコーンが、ない。


 神林の仕業を疑うが、神林のポップコーンは大量に残っているので俺のを取る必要はないだろう。 利優を見ているが、そのような仕草はなく……。 ポップコーンがフワフワと浮かび、利優の口に吸い込まれている。


 無駄な能力の使い方。 というかつまみ食いに使うなよ。


『4月28日、ジャクソンはランチの時間を睡眠時間に変え、点滴によって栄養を摂取した』


 悲惨も過ぎるだろ。 そう思っているが、何か違和感を覚える。

 この映画……何かがおかしい。 背筋が凍るような、そんな感覚が這ってくる。


 利優が鈴のポップコーンにまで手をつけ始める。 まぁ残すのも勿体無いしな。


「……あれ?」


 利優も気が付いたのだろう。 この映画、何かがおかしい。

 その何かに気が付いたのは、4月30日になってからだった。 四月に、31日は……ない。

 確か上司は言った。「一月だけでいいんだ。 31日間働いてくれ。」ジャクソンは気が付いていない。 気が付いたのは、残業の途中に見た、5月1日の電子時計を見てから。


「あ、ああ!? うわぁだぁぁあああ!?」


 ジャクソンが発狂したところで、映画は終わりスタッフロールが流れた。


「……すげえ怖かったな」


 神林が言い、利優が鈴を起こしながらうなずく。


「先輩は大喜びでしょうけどね」

「……いや、訓練に当てられる時間がないのは普通に嫌だぞ」

「あ、はい。 ……どこか行きます?」

「どこか行くか。 なんかこのまま帰ったら夢に見そう」


 そこまで怖かっただろうか。 神林と利優はブルブルと震えていて、鈴と俺で二人を見る。


「暗いから」


 そそくさと映画館から出ようとしている二人を横目に鈴の手を取り、段差に気をつけながらついて歩く。


「えへへ。 ありがとう」


 少し、礼が心苦しい。

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