いつも抱える心 3-1
喫茶店でゆっくりと映画の話をすることになったが、利優と神林は「やばい」「怖かった」程度の語彙力で、恐怖のあまりにそれしか言わない。
俺には恐ろしさがよく分からなかった(仕事のしすぎで彼女に振られる部分は怖かったが)ので同意して盛り上がることは出来なかった。
鈴に至っては主人公の名前すら言えないレベルだ。
当然話が盛り上がるはずもなく、帰って少し早めの夕飯を食べることにした。 神林が帰らなければならないのに手料理を食べたがったためだ。
行きよりも幾分か騒がしくなった街の中、利優が不安そうに俺を見た。
「先輩、お腹いっぱいです」
「ポップコーンの食べ過ぎだろ、クリームソーダまで食べて」
「んぅ、ボクが作るのに、ボクは食べれない苦しみ」
「じゃあ、時間ずらすか、神林が帰ってからにして」
神林がやいやいと言っているのを聞き流していると、なんとなく不自然な騒がしさか聞こえてくる。 神林の見た目の厳つさのせいで目立つのかと思って周りを見渡していると、どうやら神林以外に何か目立っているものがあるらしく、人の目線を追うと、金髪の若い男が白い服に裸足で座り込んでいた。
外国の人間だろう。 何をしているのか不思議に思ってるいると、隣を歩いていたはずの鈴が立ち止まっていることに気がつく。
「え、なんで……」
その言葉から知り合いかと尋ねようとするが、利優もそれを見ていることに気がつく。
「イケメンか、イケメンなのか」
神林が何かを言い、確かに見れば端正な顔立ちをしているが、鈴の目ではここからでは判別つかないだろうし、利優はそう言うことは気にしないので違うだろう。
「知り合いか?」
「知り合いって、えっと……まぁそうなんだけど、どっちかというと敵というか……」
鈴が目を逸らしながら、しどろもどろになりながら言い、利優が男を指差す。
「あの人、先輩を撃った人です!」
「……あのときのか」
とりあえず、捕まっているはずなのに出ているのはおかしい。 格好から見ても脱走したことが分かる。
捕まえておくかとそいつに向かおうとしたところで、鈴が俺の前に立って止める。
「どうした?」
「こ、殺したらダメだよ!?」
「殺さねえよ。 何だと思ってるんだ」
「利優ちゃんが撃たれそうになったって聞いてるから……」
ああ、そういうことか。 納得がいき、首を横に振った。
「それは別にいい」
不思議そうな目を向ける鈴に説明をする。
「背中の傷なんだが、銃創だが少し妙な形になってるだろ。
利優の方向に飛んできたが、能力で手前に曲がるようになっていたらしい。 完全に俺狙いだったから、気にしてない」
「いや、それはそれで気にしてよ……。 とりあえず、私も行くね。 話したこともあるから」
日本語が通じるのか。 とりあえず、神林と利優はその場に残して、鈴と二人で近寄る。
鈴が俺に目配せをし、俺が男に近寄り、手から能力を発生させるフリをし、男の翠眼が俺を見て立ち上がったところで、鈴が男の死角から手を伸ばす。
「……唯一の霊薬……自血縛」
男の手に鈴の手が当たり、 まるで粘土に手を突っ込むように男の手の中に鈴の手が入りこみ、根のような赤い管を引っ張りだし、それを男の反対の手に入れる。
引っ張り出された血管に男は目を見開き、その間にも鈴の手は男の身体のなかに入り込み、全身の血管を引っ張り出しては別のところへと繋げる。
「■■■■■!?」
全身の血管を弄り回され、明らかに混乱した男を前に立つ。
「動くな。 その技は、下手に動けば血管か千切れて失血死する」
言葉は通じ、男は鈴を見て納得したように口を開いた。
「追っ手か。 ……まぁいいか」
「逃げ出したってことでいい?」
「ああ、逃げれそうだったから逃げてみた」
「……なんだこいつ。 まぁいい。 戻ってきてもらう」
自分の血管でぐるぐる巻きになった男を連れて歩く。 念のために三人は後ろに歩かせ、俺は男を誘導しながら一番近い組織の入り口に向かい、途中で神林に見られては不味いと思い目を向ける。
「あー、帰った方がいいか」
「悪いな」
「よく分からんけど仕方ないんだろ。 またな」
神林が離れたことを確認し、異様に目立つが諦めて歩く。 遠目に見れば血管も服の模様のように見えるだろう。
手早く地下への入り口の中に入り、ハシゴを見てため息を吐く。
「とりあえず俺はこいつを持って下ろすが、二人はどうする?」
「ボク、途中で踏み外したりしそうで怖いです……。 いつも先輩に上り下り運んでもらっていますし」
「私は大丈夫だよ」
鈴を先に下ろしたら、途中でこいつが暴れた時に対処が難しいか。 俺がこいつと降り、鈴が続く。 鈴が神経を抜くなりして動けなくしてから、俺が上がって利優を降ろすのが一番いいか。
男の重い体を抱えながら降りる。 治りきっていない全身が軋みをあげて、非常に痛く辛い。 きついと思っていると、頭が少しだけマシになる。 鈴の能力かと思い上を向くと、白く細い足が見える。
「えっ、あ、蒼! 上向かないで!」
焦った鈴の声。 白い脚とその奥の水色の下着が目に入り、すぐに逸らす。
「……悪い。 あと、能力助かる」
「うん……」
今のやりとりも聞かれているだろう。 あとで利優に怒られるだろうか。 降りたところで男を地面に下ろし、鈴が粘土に手を突っ込むように脚に手を入れる。 その様子を見届けてからハシゴを登り、利優の元に戻る。
利優に怒られることを見越して、目を逸らしているが、怒られない。
不思議に思って利優を見たら、利優も不思議そうに俺を見返す。
「どうかしましたか?」
「いや、なんでもない」
気がつかれていないなら、それに越したことはない。
利優の身体を抱き上げてしっかりと抱える。 利優にも俺をちゃんと持つように伝えてから、ハシゴを降りる。
「先輩」
「どうかしたか?」
「んぅ、その……ボク、先輩のこと好きみたい、なんです」
「……おう」
「でも、鈴ちゃんのことも好きです」
利優がギュッと俺の身体を抱き締める。 弱々しい力で、身体も柔らかく痛みはない。
「ああ、知ってる」
「ボクは、三人で一緒にいたいです」
「先輩は、ボクと結婚したいんですよね」
「鈴ちゃんは先輩と結婚したいんです」
利優が俺を見て、弱々しく喉を震わせる。
「……三人で、結婚しませんか? そうしたら、みんな幸せですよ?」
縋るように言っている利優の身体を抑えるようにして抱えながら、否定を言葉にする。
「俺も鈴も、独り占めしたがっている。
利優や鈴の父母も嫌がるだろう。組織の中でも、より浮くことになる。 世間的にも認められない。出来た子供にも良くないだろう」
「……ごめんなさい。 変なことを言いました」
「……いや、悪い」
気まずさからか、利優は顔を伏せ、俺を見ないようにする。 口を開く気にもなれず、ハシゴを無言で降りた。
「あれ、どうしたの?」
「いや、大したことじゃない」
適当に鈴を誤魔化し、男の処遇を決めた場所に向かう。 白兼と会うと面倒だが、仕方ないだろう。




