111,ドリル宣言
幼女と執事が異世界で
微妙な空気になったのをぶち壊したのはやはりアリアローゼさんだった。
さすが空気を読まない貴族様は頼りになる。
「ワタリ、わたくしこの祝福を使って頑張りますわ。
きっとあなたも認めてくれる実力をつけてみせますわ!」
微妙になっていた空気をぶち壊してくれたのはいいんだが、いきなり何を言ってるんだこのお貴族さまは。
オレに認められるってどういうこと?
ていうか認められる云々言い出した辺りからアルをチラチラ見ていたのは何?
初めてあったときはアルのことは完全スルーで使用人のようにいない人間として扱っていたくせにどうしたの?
「え、えぇと、はい」
「わたくしこんな気持ちになったのは初めてですの。
ですが、ワタリ。あなたの姿を見て自分にはその資格がまだ無いことは痛感いたしましたわ」
「は、はぁ」
まったく話が見えない。
でもやっぱりアルをチラチラみてる。何度目かのチラ見でアルと目があってしまったようで何やら頬が少し赤くなっている。
そりゃうちのアルは格好いいし、頼りになる自慢の子だからそういう反応しちゃうのは仕方ないけど……。
え、何、そういうことなの?
アリアローゼさんを守るように動かしはしたけど……。怪我をしたのはアルが来る前で確かにアルがこなければあそこでやられていただろう。かなりの深手ではあったし。
そんな状態でアルに守られる。
あぁ確かにやられるわ、そりゃあ……。罪作りなヤツだなぁアルも。
自らの身を省みず――実際は怪我なんてしたことないけど――盾になって目の前で魔物の攻撃を防いでくれるアルの背中は頼もしく大きい。
一切の害悪を排除して守ってくれるその姿はまるで物語に出てくる騎士のように格好いい。
深手を負い、生命の危機に瀕した状態でそんなアルが守ってくれる。
ただでさえ死を意識するような状況でドキドキしていて危ない状態だったのに追い討ちをかけてしまったのか。
吊橋効果か生命の神秘か。
まぁどちらでもいいけれどどうやら今アリアローゼさんは――。
「わたくし、アル様に相応しい女になってみせますわ!」
アル様……。
まぁ気持ちはわからないでもないけれど……さ……。
「でもいくら祝福を頂いたからといってすぐには無理ですわ。
ですから少し時間をいただけないかしら。その時になったらきっとあなたも満足する姿を見せることが出来るはずですわ!」
アルはオレの従者で、主はオレなのだが従者の恋愛まで主が束縛する事はできない。従者は奴隷ではないのだ。
だが正式な場合はこうしてきちんと主にお伺いを立てるものだそうだ。
恋愛なんて個人間の問題なんだし、別にお伺いなんて必要ないと思うのだが……まぁそういうことなんだろう。
特にアルの場合オレにいつもべったりだから付き合う場合は生活が大分変化してしまう。
……アルが誰かと付き合う?
なんか想像できないな。だってアルはずっとオレの傍にいてオレだけのアルなんだから。
うん、想像できなくて当たり前だ。
「実はわたくし、王都の冒険者ギルドから誘われておりますの。
だから王都で力をつけてきますわ。楽しみにしていてくださいな。
本当はトルマネトを離れるのには抵抗があったのですがこのままではアル様に相応しい女になることはできませんわ」
「アリアローゼさん、えっと」
「わかっていますわ。みなまで言わないでくださいまし。
あなたから見ればわたくしなんて取るに足らない存在でしょうけれど、これからは伝説とまで言われたシトポーの祝福があります。
今までのわたくしではないのです。ですから少しの間だけでも時間をいただきたいのです」
「いや、えっと」
「大丈夫ですわ。わたくしのことを信じてくださいまし。
わたくしは1度決めたことは何がなんでもやりぬく主義ですの。どんな相手だろうと引きはしませんもの!」
ソレはつまりオレが反対しても引かないということだろうか。
最初から言っても聞かないのはわかっていたんだ。ここは言わせるだけ言わせておいてまた来たらまだまだ甘いとかいって追い返してしまえばいいのではないだろうか。
オレに実力を認めてもらってからアルに求婚なり告白なりするつもりなのだろうし。
つまりオレに実力を認めてもらえなければそういうのはないということだ。
「わかりました。でも私は厳しいですよ?」
「望む所ですわ。アル様を射止めるためにも、ワタリ。あなたに決してまけない女になってみせます」
激しく視線をぶつけ合うがすぐにアリアローゼさんは2つのドリルを靡かせて背を向ける。
「それでは時間が勿体無いですし、わたくしはさっそくトルマネトに戻りますわ! ユーちゃん!」
「はいはい、わかったよ~」
我関せずとふよふよのほほんとしていたユーウイトさんがアリアローゼさんの言葉を聞いてすぐに対応する。
アリアローゼさんは転移する一瞬前にチラッとこちらを見て微笑んでいたような気がした。
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
【あ、あの……もしかしてさっきのはその……やっぱり、そういうお話だったんでしょうか……?】
アリアローゼさんだけ転移してまだ精霊の住処に残っているオレ達。
レーネさんの体もやっと動くようにはなったが天翔竜翼で消費したスタミナがまだ回復していないのでもう少し休んでいく事にした。
……ていうか1人だけ戻す事もできたのか……。
ユーウイトさんは荒らされた住処を修復する為に何やら魔法っぽいのを使っている。
まるで逆再生されているかのように壊れた建物や木が修復されていっている様はファンタジーなこの世界でも最高にファンタジーな光景で非常に見ごたえがある。
【あーうーん……。たぶんそうだと思います。
でも最終的に決めるのはアルだし、その前に私に認めてもらうといった感じの話ですかね?】
【私はワタリ様の従者。ワタリ様だけのモノにございます】
【うん。アルは誰にも渡さないよ。
例えどんなに強くなって会いにきても追い返してみせるよ!】
【さすがは我が主。このアル、感激の極みにございます】
【ふわぁ~……。ワタリさんとアルさんはすごく仲がいいとは思っていましたがやっぱりそういう関係だったんですねぇ……羨ましいです……】
最後の一言は小さすぎる念話だったのでよく聞こえなかったけど、別にそういう関係ではない。
あくまでもアルはオレの大事な家族っていうだけだ……と思う。
【えっと、アルは大事な家族ですから】
「やっほ~おまたせ~」
レーネさんの勘違いを訂正しようと思ったらユーウイトさんが修復を終えて戻ってきた。
相変わらずふよふよふわふわのほほんとしていて悩みなんてなさそう。
「すっかり綺麗になりましたね」
「うんうん、やぁぁっと元に戻ったよぅ~」
「そんなに前からあの特殊進化個体が居たんですか?」
「うん? ん~どのくらい前からだったかなぁ。でも結構前からは居たかなー」
精霊っていうのはやっぱり人と感性が大分違うようだ。
それとも見た目通りふわふわしているユーウイトさんだけがこんなぽわぽわした感じで大らかというかなんというか……そんな感じなのだろうか。
「まぁ、何はともあれ平和になってよかったですね」
「本当だよ~。ありがとうねぇ~」
「いえいえ、私達も報酬は受け取りましたし」
「また何かあったらお願いしてもいい~?」
「そうそうないと思いますけど、私達で出来ることだったらいいですよ」
「わぁ~ありがとうねぇ~。頼りにしてるよ~」
ユーウイトさんが与えられる祝福はどうやらシトポーの祝福だけではないようで、これからも別の祝福を与えてもらえるチャンスがあるなら是非とも引き受けたい。
特殊進化個体なんてそうそういないから次も特殊進化個体戦なんてことはないだろう。
まぁ倒せそうなら経験値大量ゲットと素材のために倒しておきたいけれど。
「そうだ! 経験値! シトポーの祝福でLvアップがまともになったんだから戦闘しなきゃ!」
【あ、あの……言いたくなかったらいいのですが……ワタリさんは今Lvおいくつなのでしょう?】
【あ、えっとさっきの特殊進化個体で1上がってBaseLv6になりました!】
【え……ろ、6ですか……? 60とかじゃなくて……?】
【はい! これからこの祝福の力でがんがんレベル上げが出来そうですよ! ぐふふ】
レーネさんが呆然としているけれどまともなレベル上げが出来ることに気持ちが傾いていたのであまり気にすることなく、Lvアップで手に入るポイントでどんなスキルを取得しようかと妄想し始めるのだった。
相変わらずマイペースなドリルさんですが、恋する乙女となりさらに磨きがかかってしまいました。
まったくもって罪作りなヤツです、アルは。
次回予告
お詫びでもらえるスキルを眺めるワタリちゃん。
お詫びのスキルだけあり、そのスキル群は凄まじいの一言。
ワタリちゃんは一体どんなスキルを取得するのか……。
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