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寄せては返す波のように〜妻は目の前から消えては何度もまた現れる〜  作者: ことり おと


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15 俺はずるい


 「あー、あちぃー」


 茉尋は縁側のある部屋で、畳の上で大の字になって寝転がっていた。


「だったらエアコンつけようよ。俺もあちーよ」


 俺は茉尋の隣に、同じように寝転がっていた。


「いやいや千明殿。こうやって暑さを耐え忍んだあとにする水遊びと、キンキンに冷えたスイカと、甘いカルピスを縁側で堪能するのが至福のひとときなのですぞ?」

「そんな予定聞いてねーよ。それにそれ、いつの時代だよ。エアコンつけてゲームしようぜ」

「まったくもう。風流がねーなぁ。こんなにいいお庭と縁側がせっかくあるのに」

「それにさっき冷蔵庫見たけど、スイカなんて入ってなかったぞ?」

「冷凍庫にスイカのアイスが入ってるでしょ?」

「風流がねーなぁ…」


 俺は隣を見た。

 汗だくの茉尋がちゃんといた。汗で前髪が額に張りついている茉尋がちゃんといた。

 白いタンクトップに、スエット生地の短パンを履いている茉尋がちゃんといた。


「じゃあ生のスイカ買ってきて」


 茉尋もこちらを向いてそう言った。


「生って…あちーから嫌だ」

「じゃあ野生のスイカ、ゲットだぜしてきて」

「それもう泥棒だから」


 すると琥太郎が庭に来た。


「準備できたよーっ。水遊びしよっ」


 琥太郎は気合いの入った水鉄砲を2個持ってきた。


「これちー兄のね」


 そう言いながら琥太郎は立派な水鉄砲を縁側に置いた。

 どうやら茉尋と琥太郎は水遊びの約束をしていたようだった。

 俺はそれに巻き込まれたのか。でも水鉄砲は2個しかない。俺は茉尋に聞いた。


「茉尋のは?」

「私のはもうあるから大丈夫」


 いつの間に用意したんだ?

 

 俺はゆっくりと起き上がり茉尋に言った。


「その上からTシャツ着ろよ」

「え?…あー…わかった」


 そんな格好で濡れたら下着が透けてしまう。

 茉尋はニヤニヤしながら俺を見て言った。


「まだ琥太郎くんは子どもだよ?」

「それでも男なんだよ。茉尋は知らないんだろうけど」


 2人で庭に出ると、俺と琥太郎は水鉄砲に水を入れ始めた。茉尋はそれを確認すると、ホースを蛇口にセットし、水を出し始めた。


「まさかそれが茉尋の武器か?」

「ふふふんっ」


 茉尋は勝ち誇ったような顔をすると、ホースの先を押し潰し、俺たちに攻撃してきた。


「ずるいよまーちゃんっ」

「そーだそーだ。ずりーぞ茉尋」


 俺と琥太郎はそう言いながら、2人でタッグを組み茉尋を狙った。でも茉尋の無限水攻撃には勝てなかった。

 最初は面倒だなと思っていた水遊びも、だんだんと楽しくなり、茉尋がいつか言っていたように、俺も童心に帰り夢中で遊んだ。

 


 俺はスマホにちゃんと記録していた。茉尋が消えた日、戻ってきた日。何度見返してみても特に規則性があるものではなかった。

 茉尋が消える原因はわかってる。でも戻ってくるキッカケがわからない。すぐの時もあれば1ヶ月くらいしてから戻ってくる時もある。潮の満ち引きや天気なんかも関係なさそうだ。

 

 やっぱりわからないことだらけだな。


 俺は調べることをやめた。


 交換日記はずっと続けていた。

 茉尋がたくさん絵を描いてくれるから2冊目もすぐに埋まった。俺はそれを見返すのが好きだった。その中でもチャッピー絵がとても好きだった。色鉛筆でキレイに色づけられたチャッピーは、幻想的で美しくて…。

いいよな。こんなにキレイなものが見えてるだなんて。


ー「あの時私は確かに恐怖を覚えたの。だって首を絞められたからね。しかも愛した人に」ー


 急に田宮さんの言葉を思い出した。いい妖ばかりじゃないんだよな。

茉尋は今までに危険な目に遭ったことはあるのだろうか。そんな話は聞いたことないけど。


 今日は日曜日だけど茉尋は仕事だった。時間を確認してから家を出て、茉尋を迎えに行った。茉尋がひとりで海に行かないように…。


「あ、千明くん。迎えに来てくれてたんだ」

「よっ、お疲れさん」

「見て見てっ?小さいひまわり。もうすぐ咲き終わりだからって小百合さんがくれたんだ」


 たまにこうやって茉尋は花を貰ってくる。

もうすぐ咲き終わりだというのに、茉尋の世話がいいのか、いつもなんだかんだと長持ちしていた。


「また長持ちするかな?」

「うん。させるよ」

「やっぱり茉尋の世話がいいのか?」

「ふふーん」


 茉尋は得意げな顔をした。

やっぱりそうなんだな。花屋で働いてるんだから、それなりに色々と知識もついたんだろう。


「知りたい?」

「ん?」

「お花が長持ちするからくり」

「からくり?コツとかじゃないの?」


 俺がそう聞くと「実はねー」と言いながら茉尋は教えてくれた。

 どうやら庭に遊びに来た草花の妖に頼んで、少し妖力というものをその花に分けてもらっているらしかった。茉尋はその妖にお礼としてお菓子やジュースを振る舞っているのだと教えてくれた。

 やっぱり茉尋から聞く妖の話は平和なものだった。


 ちょっと…あのことを聞いてみるか…


「茉尋はさ、今までに妖に恋をしたことはある?」

「ん?ないよ?」

「好かれたことは?」

「え?それもないと思うけど。なんで?」


 俺は田宮さんの本のことを話してみた。


「ちょっと待って。いつ図書館に行ったの?私そんなの知らないよ?」


 そうだった。あの時茉尋は海に消えていなかった。何か手掛かりが欲しくてあの時図書館に行ったんだ。俺は適当にそれらしい嘘をついて、なんとか茉尋を納得させた。


「私も読みたかったな。実話なんでしょ?」

「そう。今度借りてくるよ」

「いい。タイトル教えて?私明日休みだから自分で借りてくるよ」


 茉尋はそう言っていた。


 次の日。

 家に帰ると茉尋は少し興奮していた。


「千明くんが昨日言ってた本借りて途中まで読んでみたよっ。面白かったぁ。私が知らないような妖ばかりで、頭の中で色々想像しちゃったよ」


 茉尋は楽しそうにしていた。でも恋物語の話まではまだ読んでいないようだった。

 

 ご飯を食べ終わると、茉尋は交換日記と借りてきた本を広げ絵を描き始めた。


 「ねえねえ、この妖はこんな感じかな?」とか「これはこんな感じかな?」などと言い、本を読みながら茉尋が想像した妖を色々と描き始めた。

 俺にはぼやっとしか想像できなかったその妖たちは、茉尋の手によって命が吹き込まれたかのように、はっきりとした形になった。本当はこんな感じではないのかもしれないけど、茉尋が今まで描いてきた妖と同様に、とても可愛らしかった。


 茉尋はあの恋物語を読んでどんな感想を抱くだろうか。怖いと思うかな?茉尋が田宮さんの立場だったらどうしてたかな?早く感想を聞いてみたい。

 俺は少しもどかしさを感じながら眠りについた。

 

 

 田宮さんからDMが届いた。

『あれから何か進展はありましたか?』

 そういうメッセージだった。

 俺は本当のことを言えなった。今の生活を守りたくて、調べることも茉尋の体を探すこともやめてしまっただなんてとても言えなかった。


 ずるいな…俺…


 情けない男だと思われるのが嫌で俺は嘘をついた。卑怯者だ。

 この前のお礼を言いつつ“未だ手掛かりなし”という内容を返信した。すると田宮さんからは俺を気遣う内容の返事がきた。俺はそれを見て胸が締め付けられた。罪悪感でいっぱいになった。


 だって…しょうがないだろ?

受け入れたくないんだ、茉尋の死を。

一緒にいたいんだ、茉尋と。


 茉尋ごめん…お前は見つけて欲しいよな。


 でも…


 でも……


 DMがきたのは昼休憩の時だった。

気持ちが乱れてしまい、午後はなかなか仕事に集中できなかった。


 いいんだ。今はとにかくこれでいいんだ。

茉尋がいなくなるたびに苦しくなるけど…また戻ってくるのか不安になるけど…それでも今のところ茉尋はちゃんと戻って来る。

 今茉尋の体を発見してしまえば、もう茉尋は現れなくなるだろう。そんなのは嫌だ。


 …でも本当はわかってる。自分勝手な考えだってわかってる。わかってる。ちゃんとわかってるんだ。


 結局俺はまた、現実逃避の道を選んだ。


 家に帰ると、俺はすぐに茉尋の姿を確認した。よかった。今日もちゃんといる。

 毎日毎日、朝起きれば隣に茉尋がいるか確認しては安心し、仕事が終わり、家に帰ればまた茉尋の姿を確認して安心する。

 正直、茉尋にいて欲しいと思う反面、そんな毎日に少しずつ神経がすり減っていくような感覚はあった。でもそんなのは気にならないほどに茉尋との日々は、俺にとってはかけがえのないものだった。どうしても手放したくない日々だった。


「本読んだ?」

「今日は読めなかったんだ。少しずつ読み進めるよ」


 まあ、茉尋があれを読んだところでなんの手掛かりにもならない。ちょっと感想を聞いてみたくなっただけだ。


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