第28話:属性変換魔法
「えーと、先にこっちを起動して…、こっちを被せる…っと」
研究室で、また新しい魔法実験をするエリシオ。
その肩の上に乗った仔猫ルシエが、興味深そうに眺めている。
エリシオの左手が金色の燐光を放ち始める。
最上級回復魔法、解放待ち
それはまだ「溜め」の状態にしておいて、空いている右手に別の魔法を起動して被せる。
属性変換魔法、付与
左手の燐光の色が変化した。
太陽光に似た金色から、蛍の光のような緑色へ。
「ほお、闇属性に変わりつつも回復性能を維持しておるな」
ルシエが感心したように言う。
「ザグレブ、いい?」
「はい」
自身の準備が整ったエリシオが声をかけると、5番目の従魔となった者が現れる。
カツサンドに始まり、好物のボア肉を使ったグルメの数々に陥落したザグレブだ。
彼は自らの腕にナイフで切り傷をつけて、その腕をエリシオに向ける。
エリシオはその傷口に緑の燐光を放つ片手をかざした。
闇属性回復魔法:夜空の癒し星
ザグレブの腕の傷を緑の燐光が覆った直後、傷は痕跡も残さず癒えた。
「驚いた。闇属性魔法で治療なんて初めて見たわ」
猫ロミュラが紫の瞳をまん丸にして言う。
「凄い、これなら大怪我しても安心ですね」
同じく目をまん丸にしたチビ黒竜クーロも言う。
「だからって安心して怪我したらダメだからね?」
白雪がクーロにツッコミを入れた。
「これは、ペンタイア家にとって福音となりそうだね」
エリシオから新複合魔法を見せられたクロスケは、嬉しそうな様子で微笑む。
彼は無属性のポーションの他に、属性のある魔法薬も作っている。
つまり、エリシオの魔法を込めた魔法薬を作る事も可能なのだ。
「魔法薬を作って届けに行こう」
クロスケの提案で魔法薬を作り、2人はカートル神殿へ向かった。
「ペンタイア家の人に使える魔法薬?」
「はい。昨日のポーションよりも回復効果は高い筈です」
「まだ間に合うか…? すぐ届けに行ってくれ」
話を聞いたペリアルは、一緒に話を聞いていた神官に命じた。
「新薬なので、俺とエリも付き添います」
ペンタイア家に向かう神官に、クロスケとエリシオも同行する。
ペンタイア家の屋敷は大きいが、古びていて使用人もそれほど多くはなかった。
壁にはツタが絡まり、広い庭はあちこち雑草が生えている。
(…真夜中に見たらお化け屋敷と間違えそう…)
エリシオはコッソリ思ったりした。
屋敷では、使用人たちが慌ただしく動き回っている。
神官が薬を持って来た事を伝えると、3人はすぐ屋敷の中に通された。
「ミランさん!」
神官が呼びかける。
大怪我を負っているその人物は、成人して間もない歳と思われる青年。
昨日のポーションでどうにか生き延びている状態だった。
最上級回復薬に近い効果を持つポーションは、生命力を大幅に回復させるが、損傷した細胞を再生させる効果は低かった。
青年は苦しそうな呻き声を漏らしている。
「ペンタイア家の現当主だよ」
クロスケが小声でエリシオに教えてくれた。
「こちらが昨日のポーションを作った研究者の方々です」
神官が使用人たちに同行者を紹介する。
「新薬を持って来ました。すぐ飲ませてあげて下さい」
クロスケが瓶に入った魔法薬を差し出す。
「ありがとうございます!」
薬を手渡されたのは、青年の傍らにいた侍女と思われる女性。
彼女は青年に声をかけつつ慎重に抱き起して、その口に魔法薬を流し込んだ。
体内に入った魔法薬はすぐに効果を発動し、緑の燐光が体表に湧き出てくる。
直後、瀕死に近い怪我が急速に治癒してゆく。
体表面で目視出来る傷も、体内の内臓損傷も、全てが正常な状態に再生した。
「これは?!」
「闇属性の最上級回復魔法を込めた魔法薬です」
「闇属性の…?」
「はい。光属性ではなく、ペンタイア家の方にも使える新薬です」
驚く女性や周囲の人々に、クロスケが落ち着いた口調で説明した。
「エバ…ここは…?」
青年が目を開けて、しばし視線を彷徨わせた後、侍女に気付いて問いかけた。
「お屋敷ですよ。ミラン様は領地の視察中に事故に遭われたのです」
エバと呼ばれた女性が答える。
「あちらの方が薬を下さって、命を助けて頂きました」
状況を教えられ、青年ミランはクロスケを見た。
「ありがとうございます。助けて頂いたお礼をさせて下さい」
ミランに言われ、クロスケは隣にいるエリシオに視線を向ける。
「今回の薬は新薬で、こちらの仲間が研究に協力してくれました」
クロスケは手柄を独り占めする気は無く、包み隠さず伝える。
「彼が開発した闇属性回復魔法を薬に使っています」
「闇属性回復魔法?!」
ミランは自身を救った薬について聞き、驚きの声を上げた。




