第12話:知恵と技術
「ここのミノ肉コロッケ美味しいよ」
エリシオに連れられて、ルシエはプルミエ王都を散策していた。
王都の肉屋は惣菜も取り扱っており、賢者シロウが伝えたという日本の肉屋でお馴染みのコロッケや唐揚げもある。
ちなみに王都内には日本人が経営する定食屋もあり、カレーライスやカツ丼なども食べられる。
醤油や味噌など、日本で使われる調味料も全て国内で買う事が出来た。
「あれは肉を細かくする道具か? あんな便利な物は古代文明には無かったな」
透明な壁の向こうで作業する肉屋スタッフを眺めて、ルシエが興味深い様子で言う。
ブロック肉をミンチにする自動挽肉機はSETA社の魔道具。
使用後の器具の洗浄と消毒まで済ませてくれる便利品で、国外からも注文が入るという。
『ロミュラよ、我を通して視ておるか?』
ルシエは異空間牢に居る側近ロミュラにメッセージを送る。
自分が見たものを映像として相手に送る、SETA社の脳波通信機能。
ルシエが拓郎から貰った変身用魔道具には、通信機能も搭載されていた。
ロミュラが居る独房にモニターを付けてもらい、見せたい映像を送るようにしている。
ルシエは街のあちこちで使われている生活用魔道具の数々をロミュラに見せていた。
『人の知恵と技術は、こうした道具に使う方が良いと我は思う。大量虐殺の兵器や魔法を開発するのではなく、生活に使う物を開発する方が人は幸せになれると気付いたのだ』
念話に穏やかな気持ちを込めて送る。
ロミュラからの返事は無いが、今はただ聞いてくれればいいと思った。
ミノ肉コロッケは黒毛和牛のような肉質のミノタウロス肉と、ホクホクした食感の粉質系の男爵芋に似た芋で作る。
王都の肉屋はコロッケの製造工程を公開しており、アクリル板のような透明な板で仕切られた向こう側で、魔道具を使って調理する様子が見えた。
芋の皮を剥き、4等分にカットし、少量の塩を入れて茹でる。
茹でている間に玉葱に似た根菜をみじん切りにして、少し色付くまで炒める。
色付いたらミノ挽肉を加えて炒め合わせ、砂糖・みりん・しょうゆで味付ける。
芋が茹で上がったら湯切りして潰し、炒めていた具と混ぜ合わせる。
等分に分けて丸め、小判型に形を整える。
小麦粉→とき卵→パン粉をまぶして衣を付ける。
熱した油で揚げ、衣がキツネ色に揚がったらミノ肉コロッケの出来上がり!
ルシエはエリシオに頼み、幽閉中のロミュラに差し入れるコロッケを買ってもらった。
コロッケの持ち帰り容器は状態保存機能付きで、出来たてアツアツのまま届けてあげられる。
「パンも買っていこう」
エリシオの提案で、2人はパン屋にも寄った。
「いらっしゃい! エリシオ様がお好きなモチモチパン、焼き立てですよ~」
パン屋に行くと、店員に笑顔で声をかけられた。
プルミエ王国は人口100万に満たない小国で、昔から王族が街の店屋を訪れる事が多かった。
エリシオも気軽に街へ出て買い物をしており、パン屋は馴染みの店だ。
「これにコロッケと葉野菜を挟んでソースをかけたら美味しいよ。ロミュラに食べさせてあげよう」
モチモチパンを買い、途中の店でソースも買って、2人は異空間牢へ向かった。
「魔王様、そのお姿は…」
シルバーグレーの仔猫を見て、ロミュラはすぐにその正体に気付く。
「このサイズなら魔力消費が少なくて動きやすいのだ」
エリシオの肩に乗りながら、ドヤ顔で言う猫魔王。
「これ、ルシエからのプレゼントだよ」
そう言ってエリシオが転送魔法でロミュラの前に置いたのは、コロッケサンドが入った保存容器。
「食べてみよ。美味いぞ」
ルシエはエリシオの腕の中に移動して人型に戻り、自分用のコロッケサンドを容器から出して先に食べてみせる。
それを見て食べ方が分かり、未知の食べ物への警戒も解けたらしく、ロミュラもコロッケサンドを容器から出して食べ始めた。
エリシオはルシエを抱いて通路にある長椅子に座り、2人で寄り添いつつコロッケサンドを頬張る。
「勇者の子孫、お前は魔王様を斃そうとは思わないの?」
仲が良さそうな子供たちを見て、ロミュラが問う。
「思わないよ」
エリシオ、即答。
「だってルシエは今何も悪い事してないし。せっかく友達になれたのに戦うのは嫌だ」
6歳児らしい単純な理由だが、隣で聞いているルシエは満足そうにしていた。




