表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
月落とし  作者: 矮鶏ぽろ
未来編
37/51

オーマイガッポ


 一夜が明け、俺とガッポは早朝から研究所の地下会議室で紙コップのコーヒーを飲みながら論議していた。

 この研究所は見つかり難い地下施設になっている。ジェット機用の滑走路も土色に塗装されており、衛星写真でも見つからないよう、建物一階の屋根にも土色の迷彩色が施されている。

 地下の研究室では昼夜の区別がまったくつかない。周りの音は無音に近い静けさで、朝の八時半を過ぎたというのに他の研究員は誰も起きてこない。

 ……三日三晩続いた研究の疲れが出ているのだろう。大目に見てやるとするか……。


「実際に地球から月までの距離は約38万キロメートル。昨日のデーターからすると、今回の実験後に月は約5千キロメートル接近し、それ以降の接近は確認されていない。……毎晩じっくり月ばっかり観測していなければ、肉眼では分からない程度の変化だ」

「ふう~。それはよかった」

「よくなーい!」

 深刻に考えていない黒人のガッポ・ダガーマに対し、俺は天井を指さして叱責する。月の引力が地球に及ぼす影響や、今や星の数ほど打ち上げられている人工衛星に及ぼす影響は想像するだけでも怖い。

 月面を調査する衛星は……ほとんどその軌道を外れてしまい、高額な宇宙の燃えない「不燃ゴミ」になってしまったわけだ……。


「それにしても、「呪い」って怖いな。科学では解明できない現象が起こるんだから」

「科学では解明できない現象か……。確かに怖いのだが、月を引き落とす力については、もう少しこの研究を続けられれば解明できるかもしれない」

「なんだって?」

 頭の悪いガッポにも解るように、ホワイトボードに磁力ペンで図を書き説明する。


 このホワイトボードはNASUで開発されたもので、中に黒い砂鉄が入っていて、磁石でなぞったところだけが黒くなる……子供のおもちゃを研究用に大きくしたものだ。ペンのインクもいらない究極のエコ商品なのだが、細かい文字などは読みづらいのが難点で、在庫が大量にNASUの倉庫で日の目を見ずに眠っている。


 ホワイトボードに大きな地球と小さな月をかき、地球の赤道あたりに三周、線をグリグリ書き足す。本当は赤色で書きたいのだが、黒色のみだ……砂鉄だから。

「三日三晩歌って踊り続けると、ちょうど地球が三回転したことになる。地球上には月を引き寄せるほどの馬鹿力がないとしても、もし、地球の赤道上に電解を帯びる銅線コイルを巻いたらどうなる? ようー」

 ラッパーが歌いながらする指を両手で真似て差し出す。ようーって。

「ようーってなんだ、その手は……。――ハッ! まさか、「フラミンゴの左手と右手」か?」

 ――ガッポが目を輝かしやがる。

「ピンポーン! その通りだ! 片足で立っているピンクの鳥、可愛いよな。じゃない! フラミンゴじゃなくて、――フレミングだ! フラミンゴは……手じゃなくて羽だ!」


 せっかくノリ突っ込みしてやったのに……ガッポの目はホワイトボードに釘付けになっていやがる……。

「ヘイ、ラリー。ユーは、地球の自転する力と南北の磁界を利用し、想像を超える莫大な力を得たって言いたいのか?」

「ああそうだ」

 ホワイトボードに力の向きを矢印で書き足して説明する。

「何を地球に巻き付けたのかは現時点で分からない。「呪いの歌」とは、地球を取り巻く未知なる物質をファンデルワールス力で集める音声信号なのかもしれない」

「音声信号で大気中の未確認浮遊物質を集める……?」

「ああ。大気圏には宇宙からの飛来物が微量に浮遊している。その中には、地球上の観測機器で確認できない物質も含まれているんだ」

 原子より小さい物質なんて、地球上の原子でできている俺達には到底見つけられない。

「それらを集約して地球を取り巻く帯を作れば、地球の持つ膨大な質量と回転する力や推進力を使い、月を引き寄せる力が発生したとしても不思議ではない」

 不思議ではないが……解明するためには、あと数年は必要だろう。


 ホワイトボードの月から地球に大きく矢印を書き足す。もう、ホワイトボードは真っ黒になるぐらいグチャグチャに書き足されている。子供の落書きのようだ。

「実際に、大昔にも月が地球に接近したことは数回あったらしい」

 そこまで説明すると、椅子に座り直してコーヒーを口へと運んだ。粉をお湯で溶かしたインスタント特有の舌触りが……なんともいえない。……ザラザラしていて美味しい。

「だがラリーよ、そんな力を使えば……地球の力が減ってしまい、自転と公転する速度が変わってしまうんじゃないのか?」

「ああ。その通りだ」

 その質問を待っていた。ガッポが聞きたそうなことは、俺の想像の域を超えてこない。

「実際には大昔の接近で地球の速度が僅かに遅くなっている。もし昨夜、実験をもう少し続けていれば、四年に一回の「うるう年」が不要になっていただろうな」

「オーマイガ―」

 ガッポがおでこを手の平でピシャリと叩き、驚きの表情を見せる。――驚け驚け!

「じゃあ……二月二十九日生まれは、誕生日が来なくなる――! ただでさえ四年に一度しかハッピバースデーがこないのに!」

「……ああ、暴動が起こるな」

 問題点はそこかよ……。


 ……研究員が少ないとはいえ、ガッポなんかに教えるんじゃなかった……。なんか、俺の世紀の大発見がガッポの野郎に横取りや漏洩されそうで怖い。

 ……いるんだよな、情報スパイみたいな奴とか、会社をすぐに裏切る社員。または、退職するギリギリまで相談しに来ない社員や、急に会社に来なくなる若手社員……。電話にも出ない無断欠勤……。クラブ活動目当てで入社し、引退と同時に退社……。失恋して退社……。お風呂が汚いから退社……エトセトラ……。


 今までこの研究所に来た若手は殆ど辞めてしまった。辺りには砂漠と荒野しかない田舎だから……仕方ないといえば仕方ない……。


 そんな訳で、ガッポに対しても俺は、まだ信頼関係を築いてはいなかった。


 ……なにより、もう一つだけ俺には看過できない問題点があった――。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ