実験成功――
緑無くなりし頃、月より降り立つものの末裔。軽い重力故、怪し気な力を使う……。
月に戻れぬと知り、月を呼び寄せることを企てる……。
山一つない広い荒野に浮かぶ満月が、少しだけ地球に近付いた事実は、「呪いの歌」と「呪いの血筋」の存在を証明するものだった。
「ガッテーム!」
「やっぱり、「月落とし」の呪いは本当だったのか!」
実験中だった研究チームのメンバー達は、こぞって机を叩いた。
「やったぞ!」
「いやいや、喜んでる場合じゃない! 今すぐ止めさせろ! ――手段は問わない」
無線機でそう連絡した茶髪の白人男性は、机を蹴り上げた。
「これは……大変な事をしでかしてしまったぞ。研究の成果というよりも、恐怖の始まりだ」
カリフォルニア州から見上げるその日の満月が……、普段はクルミぐらいの大きさなのに、実験により……ライチぐらいの大きさに膨らんでしまったのだ。
「この怪奇現象が我々の研究のせいだとバレれば……世間は大変なパニックに陥ること間違いなしだ!」
「そうなれば、株は大暴落――。俺の子供達はどこの学校へ行っても虐められてしまう」
「世界中が我が国を――脅威の敵とみなし、攻撃してくるだろう……」
「だったら、もっと中部寄りに引っ越さないと、大変だあ」
アメリカ航空宇宙局の下請けの下請け会社「NASU」。その研究所の一つで起こった事件は、すべて人工知能搭載ロボットにより、すぐに大統領の知るところとなった。
大統領は激怒した――。
トゥルルルル、
トゥルルルル、
数分後に研究所内の唯一の固定電話が不気味な音を立てて鳴り響いた――。
ホットライン越しの大統領は、興奮状態なのが分かるほど声が震えていた。しかし、血相を変えるほど激怒していたのにもかかわらず、誰の罪も問わなかった。
『この場にとどまり研究を続けろ』との寛大な言葉に、研究所の所長をはじめ、研究室の全員が胸を撫で下ろした。
幸いにもこの研究所での実験内容は、民間には一切公表されない。情報システムには何重ものセキュリティーが卍固めのように施され、個人による連絡も厳しく規制されている。
警察はおろか消防車や救急車、宅急便やデイサービスにも連絡が取れなくなっているのだ。
「俺達のせいだと公にならなければ、騒ぐ必要もないと考えて下さったのだろうか……」
椅子に座りなおしてズボンのポケットからハンカチーフを出して額の汗を拭いた。
「俺達に危害を加えたら、逆に月を落とされるとビビっただけじゃねーのか?」
クチャクチャガムを噛みながら悠長に喋るこの黒人の名は、ガッポ・ダガーマ。半年前からこの研究所に来た新人のくせに、もうベテランのような振る舞いが少し癇に障る。
両足を会議室の机の上に投げ出し、頭の後ろで手を組み、大した仕事もしていないくせに、大きな声で笑ったり眠ったり、思い出し笑いをしやがる。
態度がデカ過ぎると……怒鳴ってやりたい。
俺の名はラリー・セッツァー。宇宙飛行士を夢見てNASAに入社するつもりが、どこで何をどう間違えてしまったのか、この研究所で昼夜研究調査に明け暮れている。
しかもだ。UFOやUMAの調査かと思いきや、「妖」や「呪い」などという現実離れした東洋ものの調査ばかり仕事として舞い込んできやがる。
意味すら分からない事ばかりを調べさせられ、真相を報告書にまとめて上層機関であるNASAに提出するという……「縁の下の力無し」のような仕事ばかりさせられ、当然だが出世なんかしない。
来る日も来る日も無駄な研究に国費と労力を使い、「研究の結果、再現しませんでした」とか、「信憑性0%。ガセネタでした」の報告書を提出する毎日を送っていた。
そんな雑用ばかりの研究所に紛れ込んできたのが、日本の考古学者が書いた一つの報告書だった。『大昔からの血を代々引き継ぐ種族には、呪いの歌で月を落とす力がある』というバカげた内容の報告書。誰も信じるはずがなかった。
だが、その報告書が書かれた二十一世紀の初頭、精密な観測データーによると、実際に月が数十キロ地球に近づいていたことがアメリカ航空宇宙局の調べで分かったのだ。
「風でも吹いたんじゃねーのか?」
ただの偶然か計測ミスだろうと半信半疑で研究を続けた結果……今日の事態を招いてしまったのだ。




