白Tシャツの瑠奈
中学もほとんど行っていないと聞いたのを思い出した。だが、不良って感じでもなさそうだ。髪は短い黒髪で、ピアスなんかもしていない。化粧もほとんどせず、限りなくスッピンに近い。実際に二十歳よりもずっと若く見える。
僕よりも年下に見えてしまう。
それ以上は自分のことを話そうとしないから聞かなかった。初対面の僕なんかに聞かれたくないのだろう。
「……名前、聞いていいなかなあ」
「瑠奈よ」
瑠奈か……苗字も知りたいところだが……。それと、僕の名前も聞いて欲しいところだが……。
いっこうに聞いてくれない……。ひょっとして興味ないのだろうか。店内はクーラーが効き過ぎて少し肌寒かった。白Tシャツだけの瑠奈……ちゃんは、少し腕をさすって寒そうにしている。
「僕は文昭。古河文昭っていうんだ」
「うん」
……うんって……ほんとにどうでもいいみたいな返事にガックリだが……まあいいか。
合コンでたった一度だけ出会い、一度だけ一緒に飲む女の子って……これまでにも何人かいたし、これからも何人もいるんだろう。「一期一会」ってやつなんだなあ。じゃあこの一瞬を楽しまなければ損するだけか……。
野神さんが羽目を外して楽しんでいる訳が……ちょっと分ってしまうや。今は脱いでいた上着をまた着ている。氷をくっ付けられて……少し寒くなったのだろう。
「店内、ちょっと寒いね」
「……うん」
「と、と、隣に座っても、いいかな」
「……うん」
グラスを持ったまま彼女の隣の席に座る。そっと彼女の二の腕が僕の腕に触れるが、別に離れようとしない。クーラーで冷えたのだろう、腕がヒヤッとするくらい冷たかった。
……。
……。
隣に座ると、急に話すのが難しく感じた。お互いの距離感をなんだか意識してしまって、これだったら正面に座っていた方が話しやすかったか……。
なにを話していいのか……さっぱり分からない――。さっきまで、あんなにどうでもいい話で盛り上がっていたのに……。
そんな僕の情けない姿を、遠くから野神さんがチラッチラッと見ていた。そして突然――、
「よーし、じゃあ一次会はこれにてお開きにして、次はカラオケ行こうか!」
「「おおー」」
「「いいねー」」
その一声で、次々に席を立ちテーブルから離れていく。すみれさんの周りと野神さんの周りにできた人だかりが、ぞろぞろと動き出した。
……カラオケか、行きたいなあ。
部屋でこっそり一人で練習していた、「ネコタッチ」の新曲を披露したい。歌うのは得意な方だ。マイクを持つと、なんだか力が湧いてくるタイプなんだ。
「私は……帰る」
……やっぱりそう言うだろうと思った。
「そっ……か」
残念だ。連絡先も聞けていない。今聞かないと……たぶん、もう一生会うこともできないのだろう。でも……急に怖気づいてしまう。初対面でいきなり連絡先を聞くなんて、下心があるみたいで……僕のプライドが許さない――。
他の皆が先に店を出るのを、じっと待ってるように立ち尽くしていると、
「ねえ……、うちに来ない?」
……? 今、なんて言ったの――!
うちに来ないって? って聞こえた気がしたんだが……。
「え?」
……いいのだろうか……。心臓がドキドキしているのが分かる。僕にとっては願ってもないことだが……。
「こう見えても、私は……軽い女よ」
……。頬を赤くして真顔で言うのが面白い。さっきまでの地味なキャラがまるで嘘みたいだ。
「それって、自分で言うことじゃないよね? ハハハ」
ぜんぜんそうは見えない。頑張って背伸びをしているのが凄く可愛く感じてしまう。
「……じゃ、じゃあ、二人で……抜け出そうか」
「うん」
野神さんから連絡が来ないだろうか――。彼女の先輩から連絡が来ないだろうか――。ドキドキしながら二人はカラオケボックスへ向かう一行とは真逆の方向へと速足で歩いて路地裏に隠れた。
幸いにも誰からも連絡は来なかった。もしかすると、二人がいなくなったことに……誰一人として気付いていないのなら……。それはそれでちょっと寂しい……。




