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所変わって主戦力部隊総隊長邸の一室。乾と輝夜のやり取りなどなにも知らない琴音は、涼香が本部へ赴く前に作った朝食も摂らず、布団を頭からすっぽりと被って引き籠りを続けていました。
様子を見にやって来た薙斗は、そんな琴音の姿を目の当たりにすると、軽く息をつきます。
いつもの薙斗であれば、こうしたうじうじとした態度が嫌いな性分であることから、布団をひっくり返すなり、バケツに入った水を顔面にぶちまけることくらいのことはするものの、今回ばかりはそうはいきません。
時雨の指示であったとはいえ、琴音を騙し、家族と引き離すようなことをしてしまったことに対し、涼香と同じように少なからず罪悪感を覚えているのでした。
しかし、いつまでもこうしていては埒があきません。時雨からは放っておけと言われているものの、そのままにしておく気にもなれず、こうして様子を見に来たのでした。できの悪い子を放っておくことができないのは、薙斗の長所であり、職業病とも言えました。
「いつまでそうしてるつもりだ」
薙斗が問い掛けると、布団がもぞもぞと動きました。そして、布団から荒んだ表情をした顔が出たかと思えば、その目は薙斗を睨みつけていました。
「お前の気持ちもわかるが、そうしていたところでなにも変わらないだろう」
「……うるさい」
琴音はそう言うと、再び布団を被ってしまいました。
「じゃあ、どうしてほしい。謝罪でもすりゃ許すのか」
「時雨さんを呼んでっ!」
琴音は布団の中から、駄々をこねる子どものようにこう言いました。指示を下した本人に文句が言いたかったのです。そんな琴音の意図を汲み取った薙斗は、それを了承すると時雨の部屋へと赴くのでした。
しばらくすると、縁側からやって来る足音が聞こえてきます。ゆったりとした優雅な歩調から、それが時雨ものであることが布団の中からでもわかりました。
「お呼びですか」
時雨は琴音の布団の隣に腰を下ろすと、丁寧に問い掛けます。しかし、心の内では、妖が主戦力部隊総隊長を呼び出すという、普通ならあり得ないこの状況を少なからず楽しんでいました。
琴音は時雨の声がすると、その時雨の顔を布団から垣間見ます。見れば見るほど清才に似ているその様子に、困惑を通り越して苛立ちを覚えました。しかし、この人は清才様なんかじゃない。と、自分の心に改めて区切りをつけ、口を開きます。
「時雨さんは、初めからあたしからパパと静を引き離すつもりだったんですね。だから、あたしを制圧作戦に起用したんですよね」
琴音の問い掛けに、時雨は答えませんでした。それをいいことに、琴音は続けて言います。
「制圧作戦の目的は、龍壬さんの確保なんかじゃない。……共存陰陽隊の、本当の狙いはなんなんですか」
言いながら、布団から完全に顔を出して徐々に詰め寄ってくる琴音に対し、時雨は一切動揺せず、余裕そうに笑みすら浮かべています。
「君はもう、その答えを知っているんじゃないですか」
わざわざ静を人質とし、乾を脅して本部へと連行させ、琴音を孤立させた理由。時雨の言うとおり、琴音の中で察しはついていました。
「……あたし、ですか」
「ご名答。共存陰陽隊次期総指揮官の輝夜様は、清才の女房として尽力した君に、大変興味を抱かれているようですよ」
時雨は現在の共存陰陽隊総指揮官である盃の娘の肩書きと名を、わざと強調していました。
「つまり、時雨さんとしては不本意だったということですか」
「信じるか信じないかは君次第です。理由がどうであれ、僕は君を裏切りましたから。なにを言われても仕方がありません」
時雨は大袈裟に肩を竦めて見せます。しかし、それから直ぐに意味深な笑みを浮かべてこう言いました。
「さて、理由はどうであれ、共存陰陽隊を裏切った龍壬さんはどうなるんでしょうね。裏切り者の首謀者は原則死刑になるようですが」
「……時雨さん、愉しんでませんか」
「僕の立場を考えてください。愉しむしかないでしょう?」
「ふざけないでください! 人の命が懸かってるんですよ!」
と、琴音が声を荒らげるのとほぼ同時に、時雨の着流しの袖の中からメールの受信音が聞こえて来ました。時雨は「失礼」と断りを入れ、端末を取り出しメールを確認します。
すると、途端に珍しく表情を硬くしました。ただ事ではないと感じた琴音は、恐る恐る問い掛けます。
「な、なにがあったんですか」
「龍壬さんの死刑が確定しました。死刑執行人は、乾です」
時雨の言葉を聞いた琴音は、息が詰まるような感覚に襲われます。時雨は嘲笑するような目で、メールの続きを読んでいました。




