16
「不満そうだな」
薙斗には動揺を隠しきれなかったようでした。琴音は、思ったことをそのまま口にします。
「陰陽隊の人たちは、待遇がいいからって自分が所属してた組織を平気で裏切るの?」
信じられませんでした。この陰陽隊に所属している人たちは、先祖代々から受け継いでいる人もいるはずなのに、待遇だけでそんな簡単に裏切れるものなのでしょうか。そうだとしたら、裏切った人にとって主義や妖なんて関係ありません。
こんな人たちに、現世にいる妖たちの存在をどうこう言われていると思うと、琴音は無性に腹が立ちました。
「全員が全員あんな短絡的な隊員だとは限らない。だが、時代と共にああいう奴が出て来ているのも確かだ」
そんな短絡的な隊員のために、協力したり調教されたり撲滅されている妖があまりにも哀れです。琴音は俯いて下唇に噛みつきました。
「こんなの、間違ってるよ」
「だが今お前は、龍壬さんを助けるために、その間違っている共存主義の陰陽隊に協力を求めてるんだろ」
琴音はその言葉に、顔を上げます。薙斗の言うとおりです。琴音一人ではとても龍壬を助けることはできません。だから、薙斗たちに協力を求めたのです。共存陰陽隊という、清才の子孫がいるこの隊に。
「俺たちは、ここでお前が離脱したとしても困らねえぞ。陰陽隊が嫌なら、陰陽隊に干渉されない世界に戻ればいい」
「……ごめん。目的を見失ってた」
あたしは龍壬さんを助けに来たんだ。琴音は自分に言い聞かせます。
どの主義の陰陽隊にも短絡的な隊員がいることには変わりないでしょう。しかし、少なくとも目の前にいる薙斗はそうではありません。こうして琴音のために協力をし、口は悪いなりにこうして気遣ってくれています。琴音は、それだけで十分でした。
「謝ることじゃない。妖にとって、お前が言ったことは正論だ。だが、人間が業の深い生き物だということを忘れるな」
人間が業の深い生き物だとしたら、妖は一体なんなのでしょうか。時に人間の大切なものを奪い、時に人間を脅かし、時に人間を死へ誘う。もちろん、そんなことばかりする妖だけではありません。静のように運を人間に授ける妖もいます。
そう考えると、やはり清才様の言うとおり、人間と妖はそう大差ないのかも知れない。
そんなことを琴音が考えていると、薙斗はイヤホンマイクの電源を入れました。琴音もイヤホンマイクの存在を思い出し、慌てて電源を入れます。
「こちら薙斗。侵入成功。これより計画を実行する」
『了解。では、こちらも北と南の配置準備に移ります』
「了解」
二人は引き続き人目に触れないよう、足早に監視カメラ室へと向かいます。先ほどの話で大分時間を浪費してしまったようです。ここからは早急に任務を実行しなければ、時間がかかればかかるほど不利になります。
急く心を宥めつつ、二人は足を前へと踏み出し続けました。しかし、
「あれ? ゆいこさん?」
程なくして琴音を呼び止める声が後ろから聞こえてきました。
「……先に行って」
「ああ」
琴音は小声で薙斗とやり取りを交わし、薙斗を先に監視カメラ室へと向かわせます。薙斗は振り返ることなく進んで行きました。




