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途中、他主義陰陽隊の襲撃に遭うのではと気が気ではなかったものの、琴音たちは意外にもすんなり緑旺高校へ到着しました。
「裏組織だから、市街地での発砲や学校での戦闘は交戦規定で禁止されてるからな」
と、車内で乾が教えてくれます。きちんと交戦規定を守るところからしてまともな相手のようで、琴音は少しだけ安堵するのでした。
「戦いにも昔からルールってもんがあるからな。正々堂々戦ってこそ、勝つ意味がある」
もっともらしいことを口にする乾の出で立ちは、まさしく武将そのものでした。
車を緑旺高校の敷地内に停めて時雨や薙斗と合流すると、そのまま裏へ回って職員玄関へと入り、普段教師のみが使用できるエレベーターを使って地下へと向かいます。
地下へ着いてからも、初めての学校に興奮した琴音は、しきりにきょろきょろと辺りを見回していました。そんな琴音を、乾が父親らしく注意します。
「こら、あんまりきょろきょろしてると転ぶぞ」
「だって、学校なんて初めてなんだもん。薙斗はこの高校で先生やってるんでしょ? 今日は生徒とかいないの?」
「授業は終わってる頃だろう。残ってる奴らは地上で部活をやってる」
「この高校の地下では、共存陰陽隊の隊員候補生の育成を行っているんです。いつもは放課後に地下で座学や訓練が行われていて、乾や薙斗くんも教壇に立って生徒に指導しているんですよ。今日は集会があるのでお休みですが」
「ぱ、パパも先生だったの!?」
「まあ、非常勤だけどな」
琴音は乾が教師の仕事をしていたことに驚きつつも、乾から人間の義務教育課程の勉強を全て教わってきたこともあり、どこかしらで納得もしていました。
「人は見た目によらないとはよく言いますね」
「どういう意味だ、ごら」
時雨の嫌味に対し睨みを利かせる乾。嫌味を言う時雨は、乾の反応を完全に面白がっていました。
地下の無人の教室の前を通って奥へ進むと、体育館のような場所が見えてきます。その場所には既に軍服を身に纏った隊員が所狭しと整列をしていました。出入り口に立つも、前へ進めない状況に琴音が困惑していると、
「道を開け!」
と、薙斗が声を張り上げます。すると、薙斗の声に反応した隊員たちは、一斉に規則正しく動き出し、気づけば目の前には道ができていました。琴音は迷い込んだ森の中で、急に一本の道が現れたような光景に圧倒されつつ、時雨の後に続きました。
人と人の間を通るため、隊員たちの視線と無言の圧力が痛いほど感じられます。
道の終わりには、マイクスタンドと学生用の机に乗せられたプロジェクタが見えました。さらに背後の壁にはスクリーンが垂れ下がっています。琴音は時雨の後ろに隠れるようにして隊員たちを前にすると、その迫力で頭が真っ白になってしまいました。
何百もの目が自分に集中していると考えただけで、緊張して身体が震えだします。
「礼!」
薙斗の号令で、何百もの隊員が一斉に敬礼をしました。昨夜はよく見えなかった隊員たちの顔も、はっきりと見えます。隊員たちの年齢は、薙斗と同い年くらいの人から乾と同い年くらいの人まで幅広いようでした。




