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『こちら東部隊の薙斗。討伐完了した。これより南部隊と合流する。南部隊の状況はどうだ』
『乾が戦闘不能状態で絶望的です。が、君が合流するまでの時間稼ぎくらいならできそうですよ。――涼香』
「聞こえてるわよ」
『出番です』
乾の部隊から一番近い部屋で待機をしていた涼香は、時雨から指示を受けるとふっと息をついて腰ほどの高さがある金属製の円筒状の武器を片手で担ぎます。
「乾さんの部隊の活路はわたしが開くわ。薙斗、あんたはその間に敵部隊を叩きなさい」
『了解』
涼香は乾の部隊が見下ろせる部屋の窓を開けると、窓枠に片足をかけ、その円筒の口を迫り来る敵部隊へと向けます。
「発射――!」
涼香が引き金を引くと、どんっという爆発音と共にロケット弾が敵部隊目掛けて発射されました。それに気づいた敵部隊は、蜘蛛の子を散らすように乾の部隊から離れ出します。ロケット弾が地面に着弾すると、後にはごっそりと抉られた弾痕が残りました。
混乱状態となった敵部隊。それに追い討ちを掛けるように、乾の部隊と合流した薙斗の部隊が攻め出しました。
『南部隊の乾と重症者は屋敷の中へ一時撤退せよ。残りは薙斗補佐の指揮下で動くように』
窓の外からは、数人の特殊部隊員たちが乾を抱えて早々と屋敷の中へ撤退して行くのが見えます。それを確認すると、涼香は武器を置いて重傷者たちの治療をすべく急いで部屋を出ました。
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『こちら薙斗。敵部隊は南西へと撤退して行った。追撃するか?』
「野放しで構いません。部隊の被害状況を報告してください」
『――重傷者五人』
「では、重傷者を引かせて、君は残った部隊を連れて消火活動にあたってください。これ以上、燃え広がると厄介ですから。池の水、使って構いませんよ」
『了解』
暗い部屋の中。琴音の耳には絶えず乾の部隊の戦況報告が入ってきていました。報告役の近くで聞こえてくる隊員たちの叫び声まで、しっかりと聞こえていたのです。
――隊長! やめてくれ、このままじゃあんたが死んじまう!
そんな叫び声を聞きながら、琴音は身を低くして開け放たれた窓から、西部隊の進行を見つめ続けました。窓枠には時雨の部屋から持って来た香炉が置かれ、煙を燻らせています。
琴音は、これが自分の今できる最善の選択であると信じていました。だから、乾の切羽詰った声を聞こうが、隊員たちの叫びを聞こうが、爆音が聞こえようが、西部隊から目を離さなかったのです。
香炉からは白い煙が立ち上り、甘い香りを窓の外へと運びます。琴音は時折、その香炉にふっと息を吹き掛けました。
「パパは、無事に撤退できましたか?」
琴音は消火活動を始める薙斗たちを、南向きの窓から目視で眺めている時雨に問い掛けます。
「今頃、一階で涼香が治療を始めてますよ。安心して続けてください」
これは、戦争であり、殺し合いだ。わかっていても、琴音は現状に納得できませんでした。琴音の胸の中で、かつて摂関家の内紛などから乱を起こしていた朝廷に対し抱いていたような複雑な思いが渦巻きます。
当時、そのような乱に関与することがなかった琴音は、敬愛していた清才の遺した組織の争い事に、清才の子孫の元で自分が手を貸しているという現状に戸惑っていました。
「……清才様は、本当にこんなことを望んでいたのでしょうか」
あのお方は、誰よりも人間と妖の共存を目指していた。陰陽隊はその共存のために存在する組織のはずなのに、どうして陰陽隊同士で争っているのだろう。
琴音の憂いも虚しく、西部隊の主戦力部隊たちは後方から続く特殊部隊が作った土壁の動きに合わせてゆっくり本陣へと進軍して行きます。部隊は左右が敵陣側へとせり出たVの字のような鶴翼の陣を取っていました。
この陣形で、本陣を左右から包囲しようとしているのです。




