現状把握
意識を取り戻して二週間と幾日が経った。
記憶は戻らず、今もベットに寝たきりだ。しかし、少しなら左半身を動かしても、右半身が痛まなくなってきた。それに最近は三食しっかりと食事を取れているので、頭の回転も体調も良い。気力も出てきたと思う。
けれど頭痛は変わらず起きている。そして映像も強制的に流れてくる。見たことのない映像の時もあれば、同じ映像を繰り返し見る事もある。
映像で変わった事は、音声がたびたび付くようになった事だ。話している言語はおそらく現実と同じなのだが、不思議な事に音声付き映像の場合は言葉が理解できるのだ。
正直、流れてくる映像は不愉快極まりない映像ばかりなので、言葉を理解したところで、ドス黒い感情が増すだけだった。
—— 変態クソ野郎が“わたし”の父親だと分かったしね。
とはいえ、分かる単語が増えるのは良い事だ、と前向きに考えておく。
そして、今まで見てきた映像の考察を始めた。視界の中心だけではなく、端に映る人や物もなるべく思い出すようにした。
そして、ようやく気付いた。ビリアナを映像で数回見たことがあったのだ。ビリアナだけではない、他の身なりの良い娘たちも一緒だった。
私は、顔のキツイ四十代前半の女性に鞭で叩かれ、ビリアナたちは壁側に控え、ただ俯いていた。
—— やはり映像の“わたし”は私だったか……。
映像と現実の共通点を見つけるたびに『いや、映像の“わたし”が私であるとは限らない』などと、悪あがきをしていた。暴力シーンしか思い出せない過去など精神衛生上、認めたくはなかったのだ。
しかしお手上げだ。服装が似てる、言語が似てる、とは訳が違う。同一人物が四人も登場していたなんて、認めるしかない。
けれど、どうにも解せない。自分が何歳なのかは分からないが、少なくとも私は自身が子供とは思えないのだ。それに、映像も未だに実感を持てないでいる。映像を見て感じるのは“わたし”への同情と、暴力を振るう者たちへの怒りだ。
私はひとつ大きくため息をついた。今考えたところで答えは出ない。それよりも現状把握に努めなければ、と思考を変える。生きていく限り、現実からは逃れられないのだ。
こうして観察の日々は続いた。ビリアナは相変わらず無表情だけれど、単語や人名を教えてくれるようになった。私の名前は“ミネルア”というそうだ。
ついでに言うと、私はどうやら貴族のお嬢様らしい。音声付き映像で「貴族の令嬢たる者、こんな事もなぜ出来ないのですか?」というセリフを見知らぬ女性、通称“折檻鞭ババァ”が鞭を打ちながら言っていた。
知った当初は、まだ自分がミネルアだと認めていなかったので、特に何も思わなかった。認めて以降は、身分社会の存在と、自分が大層なご身分の人間という違和感に、つい鼻で笑ってしまった。数日経つが“お嬢様”と呼ばれる度に笑いを堪えている。
ちなみにビリアナを含めた、質の良い衣装を着ている四人は私の侍女である。身の回りの世話を、あまり態度はよろしくないが一応はしてくれている。年嵩の女性たちは、服装から察するに下働きの人達なのだろう。
私は思案した。ミネルアが受けてきた虐待は、私にも適応されることだろう。当たり前だが、性的被害も暴行も私は受けたくはない。
映像でミネルアは四人の人物から暴行を受けていた。それが、父親・通称“変態クソ野郎”、見知らぬ女性・通称“全身性悪女”、見知らぬ少女・通称“暴君お嬢”、見知らぬ女性・通称“折檻鞭ババァ”の四人である。
中でも酷いと感じるのは“変態クソ野郎”だ。性的虐待の映像は一つしか見ていないが、他にも首を絞められたり、頭を壁に叩きつけられたり。生きているのが奇跡に思えた。
ついで酷いのは“全身性悪女”だ。彼女は物による攻撃をしてくる。それは花瓶であったり、食器であったり。タチが悪いのは、自分が疲れてくると側にいる男にミネルアを殴らせるのだ。
—— どうするかな……。
暴力から逃げるには、簡単なのがこの家を出る事だ。しかし、それはそれで別の問題が発生する。
私はこの現実世界のことを覚えていない。言葉はもちろん、身分社会の常識や生活習慣の常識。数え上げたらキリがない。
体が思うように動かせたとしても、子供が家出をして生活できるのか。子供を匿ってくれるような施設は存在するのか。
—— 知識と情報は必須。十分に得られるまでは、ここにいるしかない。
それまでは、可能な限り暴力集団を回避する。
それと相手を油断させたい。警戒心を持たれると、この先何かしようとしても、事あるごとに邪魔をされそうだ。
—— そうだな、設定は純真無垢な精神年齢五歳児を演じるか。
圧倒的弱者、加え記憶障害に精神障害。突如発狂し、よく気絶する。気を失っている人間にあいつらが執拗な危害を加えないことを祈ろう。
精神障害の演技は頭痛の時にする。全てが嘘にならないので丁度いい。
—— あとは……協力者も必要か。
協力者のことを考えた時、一番に思いついたのは先生だ。先生は、私に初めて安心感を与えてくれた人で、医者をしている。
どうやら毎日、朝と夕方に診察をしてくれていたようだ。意識を取り戻した当初は、起きている時間の方が少なかったので知らなかった。
先生の名前はソフィアノス。私にとっては恩人なのでこの名は絶対に忘れない。
彼の素晴らしいところは、治療をしながら言葉を教えてくれるところだ。先生の口調は穏やかで、とても聞き取りやすく、そして分かりやすい。
ビリアナも分かりやすいのだが、如何せん彼女は無表情なので、復唱する私の発音が合っているのか正否が分かりにくいのだ。
そんな先生の何よりも素晴らしいところは、“痛み”を和らげてくれるところだ。民間療法だろうか。痛みが強い箇所に先生が何かすると、数秒後には痛みが引いていくのだ。急降下する痛みの減少度合いに『神!』と私は心の中で叫んだ。
先生に対して“いい人フィルター”がかかっているのは自覚している。慎重さは持つべきだと思う。けれど協力者の有力な候補であることは変わらない。
次の候補はビリアナだ。最近分かったことだが、彼女は無表情を貫いている割に、体は私を心配するような反応を示している。
例えば、私が突如として襲ってきた頭痛に苦しんでいる時、表情とは裏腹に、肩や手の筋肉が硬直をしたような動きをしていた。そしてその後、私を介抱する時などは軽く手が震えていたりするのだ。
何故今まで気づかなかったのか。言い訳をすれば、痛みと精神的な沈滞のため、余裕がなく気付けなかったの一言に尽きると思う。
彼女の仕事ぶりと、身体の反応。まだ観察の必要性はあるが候補とするには十分だと感じた。
仲間候補を思案中、一人の女性が部屋に入ってきた。私はその女性を見て思わず「折檻鞭ババァ」と言ってしまいそうになる。
その人は“ババァ”と呼ぶにはまだ早い四十歳前後の女性なのだが、彼女に悪意を持っているので“ババァ”呼びを止めるつもりはない。
髪の色は濃青色の布で完全に覆われているので分からないが、黄土色の目は鋭く私を睨んでいた。もし眉間に皺を寄せず、目元の筋肉を緩め、口角を上げれば美人だろうに、性格の悪さが顔に出ているようだ。
“折檻鞭ババァ”はビリアナと会話をしながら時折私を窺う。その視線はまるでゴミでも見るような視線だ。
映像でもそうだった。教育の一環とのたまいながら、ミネルアに執拗なまでに鞭を打つ。その時の目には、教え子への愛情はなく、侮蔑の感情しかないように思えた。
そんなことを考えていると、私は自分の体の異変に気付いた。小さく震え、手には汗が滲んでいる。呼吸も少し荒くなっていた。
私は“折檻鞭ババァ”に対し、軽蔑や怒りはありこそすれ恐怖はなかった。しかし身体が示したのは恐怖の反応だ。その反応に引きずられるように、私自身の精神も恐怖に飲み込まれそうになる。
私は思わず左手で胸を抑えた。心臓も早くなっている。
—— 大丈夫、きっと私がどうにかする。大丈夫。
息を深く吸って、ゆっくり吐き出す。私は自分の中にいるミネルアに語りかけるように、症状が落ち着くまで心の中で呟いた。
その後は特に何事もなく“折檻鞭ババァ”は部屋を出て行った。
何となく分かっていたことだが、“折檻鞭ババァ”は侍女たちよりも立場は上のようだ。彼女が部屋にいると、ビリアナ以外の侍女たちは壁際に控え、無駄口を叩かない。そして出て行った途端に話し出すのだ。
どことなく既視感がある光景に、何故だか面白くなり、誰にも気づかれないよう小さく笑った。
そうして日々は過ぎていき、やがて私はベットの上で起き上がれるようになった。意識を取り戻してから五、六週間が過ぎた頃だ。
食べさせてもらうのではなく、自分で食事もできるようになった。
驚いたのは自分の髪の色だ。まさか金髪だとは思っていなかった。勝手に焦茶や黒の髪色だと思い込んでいたのだ。
右頭部の怪我により包帯が巻かれ、頭痛や精神不安で余裕がなく、これまで気付けなかったのだろう、と無意味に自分を慰めておいた。
髪を洗っていないので艶はないが、銀を含んだような綺麗な金髪のストレートヘアだ。あまりにも信じられず、かつらを疑い、髪の毛を束で思いっ切り引っ張ってみたが、きちんと頭に繋がっていた。
他、人間の本分を取り戻せた、そう一番に感じたのはトイレだ。トイレ自体には違和感を覚えたが、その要因は分からなかったので、とりあえずどうでもいいことにした。何せ今までは何もかも、下の世話までもしてもらっていたのだ。介助付きとはいえ、トイレで用を足せる喜びは大きい。
あとは視界も変わった。寝ているだけでは見ることのできなかった部屋の内装や小物、それらを認識できた。
『なるほど、確かにお嬢様だ』と思えるような、見るからに高級品があちらこちらに見える。
起き上がった正面には四人掛けの丸テーブルと椅子、暖炉がある。その暖炉の上部には、男性が両腕を広げた長さよりも大きな壁画が描かれており、全貌を鑑賞できた。おそらく宗教画だろう。堂々とした立ち姿の女性が、右手に槍を持ち、肩にフクロウを乗せている。そして、まるで犬にする「伏せ」の合図のように、左腕を伸ばし掌を下に向けて、目の前でひれ伏す人々に何かを語りかけているようだ。
おそらくこの女性は神様か何かなのだろう。主役は女性だとすぐに分かる構図で、他の人々や背景とタッチも違うようだ。写実的で神秘的な絵だとは思うが、私の好みでは全くない。
他にも、幾何学模様が描かれたモザイクタイルの床、ベッドの左手にはサイドテーブルに書き物机と椅子、そして窓がある。全てが装飾過多だ。
ベッド右手には棚が二つ。色々なジャンルのものが収納されているようだが、パッと見て分かるのは本と楽器、そして人形くらいだ。
棚を眺めていたら、ビリアナが掌よりも一回り大きい本や人形、小箱を持ってきてくれた。
本は中に描かれた絵から察するに宗教の本のようだ。壁画といい、どうやらここの人たちは信心深いのだろう。宗教には興味がないが、文字を覚えるのには役立ちそうだ。
人形も象牙か何かで作られているように見える。緻密な彫刻、目には青色の宝石が埋め込まれ、衣装の刺繍も細い。
小箱も象牙のようだ。側面は全て、宗教がモチーフなのか繊細に彫られていて、好みではないが、その細かさに驚いた。
他にも棚にある物を一通り確認した。瓶や刺繍道具、手紙の入っている小箱、楽器。本当にいちいち高価そうだった。
私は五歳児らしく、人形と本の絵に興味を示して手元に置くことにした。これで密かに文字の勉強ができる。
実際、言葉自体も覚えてきている。聞き取りだけなら五割弱といったところだろう。音声付き映像と、ビリアナ、ソフィアノス先生のおかげだ。
情報も地道にではあるが着実に増えている。
例えば暴力集団の構成だ。予想はついていたが全員が親族だった。
“変態クソ野郎”は父親、“全身性悪女”は母親、“暴君お嬢”は姉で名前はコルネリア、“折檻鞭ババァ”はミネルアの母方の伯母で、名前はシルヴィアというらしい。加えるなら折檻……シルヴィアは侍女頭という役職で、侍女たちのトップなのだとか。
あと、私には弟がいるらしい。映像にも登場していないので顔や年齢はわからないが、ミネルアが弟に対して暴力を振るっていないことを密かに願った。
今現在、ミネルアが誰かに対して暴力を振るった映像は見ていない。しかし数度、物に八つ当たりをしたり、見知らぬ侍女を怒らせたりしている場面は見ている。身分差があるので侍女は泣き寝入りをするしかないような、そんな場面だった。ミネルア自身も性格はそれなりに悪かったように思える。
—— けれど、性格が悪くなるのも頷ける。
暴力によって抑圧され続けた子供の精神状態は、安直には測れない。そういう意味では姉・コルネリアも同じだ。
一度、両親、コルネリア、ミネルアで食事をする映像を見たことがある。その時、父親の逆鱗に触れたコルネリアは暴行を受けていた。ミネルアがされた事は、コルネリアもされたのだろう。ならば性格が歪んだとしても何ら不思議ではない。
—— おそらく両親にとって子供は道具に過ぎないのだろうな。
そこで懸念事項が生まれた。道具の価値を失った子供はどうなるのか? 映像だけでは両親の人物像は測れない。想像以上に無慈悲な暴力者だった場合、利用価値のない子供を殺す事にも躊躇いがないかもしれない。
両親が道具に何を求めているのか、そして道具としての合格ラインは把握しておきたいところだ。それまでは、発狂演技は程々にしておいた方が良い気がしてきた。
まだまだ知識と情報は足りない。優先順位を念頭に入れ、力を貯めてから勝負をかける。焦る気持ちを抑え、その瞬間を冷静に見極めよう。
事あるごとに「しばらくは我慢だ」と私は自分に言い聞かせた。
「おと……様、おか……様、会う。」
覚えたての言葉を、あたかも望んでいるかの如くビリアナに言ってみる。ビリアナの反応から推察するに、ミネルアが両親から虐待を受けている事を知らないと察した。彼女は「お二人ともお忙しい方ですから。」と言ったが、体の反応からして嘘や焦りの兆候は見られない。
他の侍女たちにも同様に言ってみるも、彼女たちは私への嫌悪感があるせいか、まともに取り合ってくれなかった。特にフラウィアという明るい黄土色の髪の侍女は「はいはい、お嬢様。わたくし共は務めが山積みでしてビリアナ様に仰ってください」的な事をあからさまに不機嫌な様子で言ってくる。
—— ミネルアよ、あんた何をした?
現時点で嫌われているのは仕方がない。ただ、将来的には侍女たちもある程度の懐柔は必要なので、“みんな友達・みんな大好き”作戦を遂行することにした。
そして一応、家族の事をソフィアノス先生にも聞いてみた。しかし先生は最近ここで働き始めたようで、人間関係など色々とまだ疎いようだ。親身になってくれるが、あまり情報を持ち合わせてはいない。
正直、それはどうでもいい。私は、別の事が気になって仕方がないのだ。
それは当初、先生は恐ろしく注射が上手い人だと思っていた。痛みの激減具合から痛み止めの注射を打っていると思い込んでいたのだ。
しかし、ベットで身体を起こし先生の手元を眺めても、彼は何もしていない。強いて言えば、何かぶつぶつ呟いているくらいである。それなのに、患部はほのかに暖かさを感じ、痛みが引いていくのだ。不思議以外の何ものでもない。
—— なんか、あったな。こうゆうの。何だっけ……。……そう、気功だ。気功的治療方法か? にしても、効きすぎじゃない?
非科学的な治療に一抹の不安はあれど、効果は分かりやすくあるので、とりあえずは良しという事にした。いずれは是非とも解明したい。
ちなみに、私がなぜ寝たきりで、記憶を失ったかが分かった。おしゃべり好きな侍女たちの話に聞き耳を立てた成果だ。
どうやら一ヶ月半前、私は姉・コルネリアの乗る馬車と間違われ襲撃事件に遭ったそうだ。その話を聞いた時、心臓が鈍い音をあげた。何となく事故だろうと予想していたから尚更だった。ガチの襲撃が起きるなんて、どうやらここは治安がかなり悪いようだ。
そして、とばっちりも良いところだ。私はその事件によって、右半身に火傷と複数箇所を骨折した。特に上腕と右脚はひどく、粉砕骨折だったという。
先生のおかげで治療は順調なようだ。もう少ししたら軽いリハビリが始まると言っていた。
その他、記憶喪失の治療の一環だそうだが、図書室から本を借りてきてくれ、先生が自ら読み聞かせをしてくれる。毎回毎回、宗教絡みの本なのが玉に瑕だが、文字や言葉を覚えるのに本は最適だ。本当にありがたい。
私は本に描かれている絵に興味があるフリをし、先生が持ってきてくれた本をベットに確保する。今のところ何が書かれているか全くわからないが、ここの文字はどこか見覚えがある気がしている。
とはいえ四六時中、本を見ているのは飽きるもので、私は窓の外に視線をやった。窓のガラスは半透明で外の風景は望めない。窓が開いていても、ベットからでは空が見えるだけだ。
—— 外の世界はどんな世界だろう。
私は物思いに耽りながら窓を眺めた。そんな様子の私を見たビリアナが、私を窓際の椅子まで運ぶよう男性の使用人に指示を出していた。気の利く娘だ。
「あり……とう。」と拙い言葉でビリアナと男性に礼を言う。開かれた窓から吹く風は夏らしい匂いがした。少しばかり高揚した気持ちで外を見渡す。
—— ……あれは、城壁?
三重の城壁らしき壁がある。その一番外側の壁の向こうと、手前とでは景観がかなり違った。
壁の手前は建物が連なっていて街の様相だ。一つ一つの建物自体は大きくはない。確かなことは言えないが、二、三階建てが多いように見える。
ただ何ヶ所か壁よりも背の高い建物もある。何かの施設なのだろうが、何かは分からない。けれど遠巻きに見ても立派な建物だ。
そんな街の様子を見ても、やはり懐かしさは感じない。というより、何も感じない。そのことに焦燥感が湧いたが、壁の外に目を向けて落ち着いた。
壁の外には所々に畑があり、それ以外は手付かずの自然が広がっていた。森や草原、そして川。遠くには標高の高そうな山脈が連なっていて、美しい景色だ。風に吹かれて、草木の緑や川の水面が光っているように感じた。
意識を取り戻してからこれまでの間、何度も考えている。私はミネルアなのか? ミネルアではないのなら私は誰なんだ?
結局は答えを出せない。いつものことなのだが、感じないように、見ないようにしていても、不安は確かに蓄積していた。けれど、目に映る大自然と空の青さが溜まった不安を洗い流してくれた気がした。
—— うん、明日から……いや、今から頑張ろう。
清々しい気持ちで私は自分にエールを送り、風を肌に感じながら、ソフィアノス先生に借りた本を開いた。




