春、離界。斬り結ぶ刃
天涼町近く。
この辺りは、沖牟中市の市立病院や、文化会館、体育ホールなど、大型の施設が複数あり、そして沖牟中駅にも近くなる……つまり、沖牟中市の中心部であると同時に、沖牟中駅の近くにそびえたつ御木にも近くなる。
そのそこへ泡に包まれて移動してきた姫二人と里守達。
皆、着地と同時に警戒態勢に移った。
特に、姫華は尚更、中心に配置されて警戒している。
当然だ、初めての作戦行動な上に、少なくとも今は視界内に入っていないと桜形代が発動出来ない。
つまり、攻撃を受ける里守達が視界に入らないと、代わりに受けて守る事が出来ないのだ。
なので、周囲の索敵は玉姫が行い、姫華は里守達を視界に入れておく事を最優先にしている。
前回御木千代が不覚を取ったのも、背後に対する警戒をしていなかった為反応が遅れたというのもあるからだ。
そして……その時は来た。
ガタァァァンンッ!!
「っ!!」
「来たわ……建物を切断しながら迫る黒い人影が一つ!」
建物を壊すくらいの芸当は、大蛇くらいの力ならその体躯と重量で簡単に出来るであろう。
だが、建物を『切断』する、というのは、普通は大蛇には出来ない。
そもそもとして、切断する術も無ければ、切断という芸当をする知能も無いかもしれない。
なので、建物を切断しながら進んでくる、というのは、里守達のような人間やツガネ様、オロチ様の二人の神様くらいだ。
もし、それ以外で出来る存在が居るとしたら……。
「……っ!御木千代さん!」
「任せてっ!」
カァァンッ!と刀同士がぶつかり、高い金属音が鳴り響く。
川白に言われるまでも無く、気配で察知していた御木千代の反応は早かった。
そして、里守達のと姫二人は、ハッキリとその姿を見た。
前回は何とかやぶれかぶれで斬った御木千代と姫華は改めて、そして話だけしか聞いていなくて、その本物を初めて見た里守達と玉姫も、今度は正面からハッキリとその姿を確認した。
それは、確かに人型だった。
黒い影のような人間の姿であり、よく見ると顔立ちまでしっかりと、不思議と輪郭や姿かたちまで確認出来る。
そして、その顔は確かにオロチ様にそっくりであった。
オロチ様との違いは、その瞳が金色と黒に輝いて、まるで蛇のような瞳孔の形をしているという事。
その表情は顔立ちはオロチ様とそっくりでありながら、へらへらと笑っているオロチ様と違って、無表情の中に僅かに怒りのような感情が見えている、という所であろうか。
オロチ様は持っていなかった刀を帯刀しており、その太刀を抜刀して襲い掛かってきたのだ。
「本当に……オロチ様そっくり……。」
「でも、なんか怖いよ……。」
「……気圧されてはだめです、旭……。」
「あれが、オロチ様の影……先輩を奇襲した……。」
「……。」
「んぐぅ……ぅあっ!!」
「……。」
強引に力で押し返した御木千代。
だが、それで弾かれて距離が開くも、警戒に着地し、何も言わずにこちらを見るオロチ様の影。
その表情からは、何も読み取れない。
言葉を発する機能が無いのか、それとも話をする気がないのか、何も言わずにこちらを見て……そして、ゆらりと動いて、急速的にこちらへと距離を詰めてきた。
まるで蛇が高速で這ってくるかのように、左右に軽く身体を揺らしながら。
「光さん!」
「はいっ……!」
少しでも妨害をしようと、川白が砂を、光が鎌を飛ばして攻撃する。
だが、いとも簡単に影はその刀で弾く。
里守の刀と同じく特殊な刀なのか、何らかの技術や力の影響なのか、八社風浪の砂も纏わりつく事ができない。
「なっ……!?」
「そんな……っ!?」
遠距離攻撃をいとも簡単に弾かれた二人は苦い顔をする。
「旭!日出!」
「オッケー!」
「三人でなら……!」
刀使いの三人で、一気に斬り合いに向かう。
(……っ)
姫華はごくり、唾を飲んだ。
正面から斬り合う、という事は、負傷の可能性が出てくるという事だ。
つまり、桜形代を使う可能性が出てくるという事。
覚悟はしていたつもりだ。
それでも、いざ自分が傷つく可能性が、そして自分が守れなければ、誰かが傷つく可能性が目の前に迫ってきて、恐怖心が湧かないわけではない。
……それでも。
(目は……離さない。逸らさないって、決めたから……!)
心の中で、恐怖に負けそうになる自分を奮い立てる。
そして、三人の為に、そして、何より恐怖を感じる自分の為にも、大きく声を出した。
「皆ー!頑張ってー!!」
「もちろん……さっ!」
再びオロチ様の影と斬り結ぶ御木千代。
そして、その隙を好機とばかりに飛び掛かる旭と日出。
支援の為に距離を詰める光と、砂を出して支援射撃を狙う川白。
周囲への情報収取を続ける玉姫。
里守と姫達の試練は、ここからが勝負だ。
あと2、3話くらいで春編完結して、夏編に入りたいなあと考えています。しっかりと春編を完結できるように頑張りたいです。




