春、離界。当代最強の里守
着いた所は、姫華は見たことがないように見えた。
だが、辺りを姫華は観察してみると気づく。
ここは沖牟中駅である、と。
看板などがあるから気づけたのだが、その線路や駅構内の周りに御木の根が張り巡らされていて、周りの店や街の数少ないビル等に絡み着いていて、普段の表の世界で見る駅の様子と余りにも雰囲気が違い過ぎて気づくのが遅れたのであった。
「御木千代君、ここで何をするの?」
「そうだね……今から、まずはあの大蛇に届く位置に行かないといけないからね、流石に身体能力が強化されてる僕でもあそこまで跳んで直接戦うとはいかないから……。」
言葉を続けながら、御木千代は片手を根に触れながら、そっと姫華に向かって手を差し出す。
「まずはあの大蛇の近くに行く。必ず迎えに行くから、まずは着いてきてくれないかい?」
「…?まあ、ここで待ってても意味無さそうだし、わかった。」
御木千代の言葉に不思議そうにしながらも姫華は頷き、手を取る。
御木千代の美しさも相まって、まるで王子様に手を引かれるお姫様みたい、などと軽く思って内心少し照れながら。
そしてその後、軽くぐらりと姫華の視界が揺らいだ。
「姉さん、頼んだよ。」
(うん?)
と御木千代の言葉に思ったが、次に気づいた時には、視界に映る景色が変わっていた。
沖牟中の中でも飲み屋を中心とした歓楽街である大人の街、栄町の所である。
学生が近づく事はあまり無い所なので姫華としては珍しい物を見ている気分だ。
「ここは……わ、ここってビル街の所?」
「そう、歓楽街のビルの一つさ。玉姉さんの力で、御木の根や枝がある場所に人や物をワープさせる事が出来るのさ。」
「あ、さっき言った姉さんって、やっぱり玉姫お姉ちゃんの事だったんだね。……って事は、もしかして玉姫お姉ちゃんも、その里守って役目をやってるの?」
「いや……玉姉さんだけは、ちょっと特別な役割を持っているんだ。一応里守としての力もあるけど、もう一つの役割の方が大事な役割だからそっちの方をやっているね。」
「そうなんだ……?まあ、人をこうやってワープさせれるってだけでも凄い役割だね。」
「そうだね……っと、様子はどうかな?」
話しながら大蛇の様子を確認する御木千代。
高さも距離も近づいた。
これならビルの頂上を跳んで行きながら取りつく事が出来る筈だ。
常人である姫華には当然出来ないが、里守である御木千代なら出来るであろう。
だが、御木千代は念には念を、と、片耳に着いた小型のイヤフォン型の音声送受信機で連絡する。
「こちらは対象に攻撃可能だよ。そっちの方はどうかな?……了解、なら僕がラストアタックを仕掛ける。タイミングはそちらに任せるよ。それと、保護した人が一人居る。僕が蛇を斬った後に連れて帰るよ。」
(誰かに通信してる……他の里守の人と連絡してるんだ。こういう風に連携しながら戦うんだね)
連絡する様子を見ながら姫華はそんな事を思っていると、通信が終わった御木千代が姫華の方に寄る。
「僕がトドメをさすという方向に決まったから、ここで待っていてくれ。」
「それは分かったけど、さっき連絡してたのは、他の里守の人?」
「ああ。……君も知っている人だよ。」
「私も知っている人?……それってもしかして。」
出雲御木千代、三池玉姫。
この二人が関わっていて、そしてもう一人知り合いが関わってくる、という事は。
「ほら、始まるよ。僕も準備をするから、見ながら離れていて。」
「……やっぱり。」
始まった大蛇への攻撃。
その先陣を切った少女。
その姿に姫華は見覚えがあった。
というか、つい1,2時間前くらいには話していた人物なのだから見間違える筈も無い。
ボブくらいの長さの白髪は黒く金で飾られた軍帽を被り、さっきまでの普通の服と違ってコスプレチックにも見える黒と金を基調に白と灰の差し色が入ったミニスカートの軍服のような服装と外套。
御木千代と違ってショートブーツとソックスを履いた少女は、人並に大きな、まるで死神の持つような大鎌を振り回し、くるりと宙を舞って叩きつけるように大蛇を切り裂いた。
「ガアアアアア!!」
「……光ちゃん。」
「僕が刀使いとして当代最強なら、鎌使いとしては光は当代最強だよ。だから……負けるなんて、有り得ないねッ!!」
姫華の言葉に補足でもするように言いながら、御木千代も飛び出していく。
光の攻撃はビルを跳んで近くに陣取っていたのか、近くから攻撃したが、御木千代は姫華の保護もあった為か、距離が少しある。
なので、御木千代はビル等の建物の頂上や壁を蹴って華麗に跳び回って距離を近づけて行く。
そして、光の一撃で動きが止まった大蛇を。
「……はあああああっ!!」
「ガアアアアア、アッ、ガア……。」
居合切りのように、空中で抜刀して頭、胴、尾と三分割してしまった。
少なくとも、身体強化の恩恵を受けていないからか、それとも素人には見えないからか、姫華の目には一瞬であの恐ろしかった大蛇を、何もさせないまま解体してしまったようにしか見えなかった。
三分割された大蛇からは大量の血が一気に噴き出す。
それは辺りに撒き散らかされる……かと思ったが、むしろ空に血は噴水のように噴き上がっていく。
そして、それは雨のようにこの裏の沖牟中の町に降り注ぐ。
あの炎のような目をした大蛇が、そして先程まで大蛇が巻き起こしていた嵐のような暴風雨が嘘のように、静かに、清められたような綺麗な雨であった。
やがて、ワープしたのか、それとも何処かから跳び上がって来たのか御木千代が姫華の元に戻ってくる。
ロングブーツのカツン、と音が姫華の元に舞い降りる。
雨に濡れた長く美しい黒髪は、更に艶やかな色気を感じさせるくらいに美を引き立てて。
水も滴る、という言葉は女性にも見えるくらい美しい彼の為にあるかのように姫華には思えて。
そんな中で顔を上げて見せる笑顔は、自慢げにも見える可愛らしい表情で。
でも、先程までのやり遂げた事を思い返すと……
「ね、言っただろう?僕の格好良い所、見ていたかい?」
「……うん、凄く、格好良かったよ。」
多分、姫華の今の笑顔は、今日一番の笑顔だったであろう。
ノートPCで執筆しているので、このPCが長持ちして書き続けられるように物は大事にしたいなあと、ノートPCの不調を見ながら思います。




