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沖牟中奇譚  作者: 大蛇山たんと


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春、離界。訪れた異変と帰路

「さて、目的も果たした事だし、帰る事にしようかな。」

「今回の目的って、あの蛇を倒す……祓う?のが目的だったの?」

「恐らく、ね。祓わないといけない大きな反応があったから、それを祓うのと、後は僕達里守以外の反応……恐らく姫華の事だね。それがあったから救出に来たんだ。」

「なるほど、私の事も反応?があったから来てくれたんだね……改めてお礼を言わなきゃ。本当にありがとう、御木千代君。あとは玉姫お姉ちゃんや光ちゃんにも、明日お礼を言わなきゃだね。」

「明日、と言わずにこの後にも会う事になりそうだけどね。」

「うん……?それってどういう……って、あ。」


姫華はお礼の為に下げた頭を上げて、不思議そうにする……が、すぐに気づいた。

先程の御木千代の言葉を思い出す。

何か理由があって、この御木に呼ばれた。

それはつまり、自分にも何かしらの理由なり役目なりがあってここに居るのだ、という事だと。


「……私も、ああいう蛇と戦う事になるのかな?」

「普通に考えるとそうだね。君にも里守の才能があってここに呼ばれた、と考えるのが普通……なんだけどね。ただ……」

「……?どうかした?」

「うーん……でも、まさか……でもそんな事は聞いた事が……。」


姫華は少し困惑する。

姫華には、御木千代が何が引っかかっているのかがわからない為、どうすればいいのかわからない。

御木千代に声を掛けても、「うーん…。」とか「ふむ…。」とかばかり言って考え込んでいるので、何をすれば良いのかわからないのである。


「もしかして、君は……。」


そう、御木千代が言いかけた。


その時である。


「っ……!?ぐ、あっ……。」

「……へ?」


その光景は一瞬であった。


御木千代が何かの気配を感じ取ったのか、唐突に刀を抜き後ろを振り向くも、御木千代がその刀を振るう前に黒い何か……いや、形ははっきり分かる。

黒い刀が、御木千代の胸辺りを貫いていたのだ。

その余りの一瞬の光景に姫華は、反応も情報の処理も追いついていない。

この後御木千代がどうなるかとか、この後自分が同じ目にあうかもしれないとか、そういう想像すらする余裕すら無かった。

だが、更に異変は起きた。



「御木千代く……んあ……!?」


必死に御木千代の名前を呼ぼうとしたその時だ。

突然、何かが突き刺さるような痛みを姫華の胸辺り……ちょうど、御木千代が刺された辺りを襲った。

何が起きたのか分からないまま、自分の胸と御木千代の方を見る。

自分の方には何も起きていない。

自分が刺されたわけでは無い。

だが、異変は御木千代の方に起きていた。

ちょうど黒い刀が突き刺さっている辺りが……桜色に輝いているのだ。

それだけでは無く、傷口の筈の辺りから光る桜の花びらのような物が舞い散る。

まるで、御木千代の身体を護るように。


「こ……のっ!!」


御木千代もその不思議な光によって護られているからか、動きを取り戻し、自分に突き刺さっている黒い刀の主を掴んで逃がさないようにした後、もう片方の手で刀を振るう。

その一撃が致命の一撃になったらしく、、黒い刀はするりと御木千代の身体から抜けていく。

そして、その刀が抜けると御木千代の身体の桜色の輝きは消えていき、姫華の胸からも痛みが少しずつ引いていく。

だが、痛いものは痛い。

姫華は今まで経験した事の無い痛みに意識が朦朧としながら膝を着く。

だが、まだ意識を失うわけにはいかない。

御木千代を刺した存在が何物かを、しっかりとこの目で確かめなければいけない。


「くっ……今のは……?……っ、姫華!」


御木千代も何かに混乱しながらも、すぐに姫華の様子に気づいて駆け寄る。

その時に、姫華はハッキリと見た。

黒い人型の何かを。

長いコートに刀を持ち、切れ長の目の少し童顔気味の顔の男性を。

そして、その男性に何故か、蛇のような印象を持った。

その黒い影のような人型の何かは、さらさらと足元から消えていく。

恐らく、御木千代の一振りで祓われたのであろう。

だから、姫華はしっかりとそれを見ていた。

その姿が全て消えていく最後のその時まで。


「今の……人は……あ……も、むり……。」

「姫華!?おい、大丈夫か、しっかりしろ!」


人型が消えていくのを見届けたのとほぼ同時に、姫華は気を失った。

それに慌てて御木千代は様子を確認する。

息はしている。

失礼して胸に耳を当てると、鼓動の音はしっかりと聞こえている。

どうやら気を失っただけらしいと判断し、ほっと小さく息をつくも、どうしたものかと考え込む。

先程の黒い人型。

そして、刺された筈なのに、何故か「全く痛みの無い」自分の身体。

桜色の光。

そこから結びつく物に、とある可能性を考えついた。

だが、それはかなり可能性の低い推論であり、少なくとも若手の里守の御木千代には判断がつかない物であった。


「とりあえず今は……運んで帰るかな。」


女性のような華奢な身体には不釣り合いに見えるかもしれないお姫様抱っこで姫華はを抱えあげる御木千代。

こんな時に身体強化の加護があって良かった、と小さく思いながら、御木千代は離界から帰る道を歩くのであった。





ようやく家でクーラーがついて書きやすい環境になりました。暑さと湿度だけで集中力という物はなかなか削られる物ですね。皆様も脱水症状や熱中症にはお気をつけください。

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