春、離界。里守とは
「私が来たのは、この世界に呼ばれたから……?」
「ああ、少なくとも、今までの記録から見るに、偶然迷い込んだという記録は見た覚えが無いからね。きっと、何かの縁が君にはあるんだろう。」
御木千代の言葉に首を傾げる姫華。
それも当たり前の事なのだ。
少なくとも、姫華は今まで生きてきた中で、こんな世界に関わるような出来事があった記憶は無い。
確かに魔石炭はこの沖牟中市の特産品であるし、大蛇や津蟹の話も沖牟中のおとぎ話だ。
でも、逆に言えばそれだけだ。
それくらいの結びつきならば、この沖牟中市に住む全ての人間が当てはまってしまう事になってしまう。
自分の家が特殊、というわけでも無い。
家族に特殊な経歴があったりするわけではないし、自分の家系に何かあった、という話も聞いた覚えが無いのだ。
「私の思いつく範囲では、何も思い浮かばないけど……?」
「ふむ、何かの経験が君の縁を結びつけている、というわけでは無いのかな……。まあ、これについてはまた今後探る事にしようじゃないか。」
「うーん、わからないままっていうのもなんだかもやもやするけど……。」
「今はまずは離界から出る事を考えようじゃないか。その後は、色々調べさせてもらうけど、構わないかい?」
「あ、うん。それはもちろん、私に出来る事なら、むしろ協力させてほしいな。」
姫華としても、何がこの離界に自分を呼び寄せたのか。
これから自分はどうなっていくのか。
色々と気になることだらけだったのでこの協力は当然の事だった。
まあ、例えそうでなくとも、協力しないという選択肢は姫華の中には無かったのだが。
それが姫華の性格であると同時に、御木千代がそう思わせる存在であるという事でもある。
「そういえば、その恰好もどうしたの?学園で見た袴とは違う服だけど……。」
「ああ、この恰好かい?これは里守としての僕の姿さ。」
「里守……?」
「そうだね、この恰好も含めて、里守の事も説明すべきかな。」
御木千代の恰好は学校の時の鮮やかな紅白の和装とは変わっていた。
和装であることは変わりはない、袖が長いのも同じだ。
だが色はほとんど黒い布地を中心に濃い紫や黄色の紐などで飾られた少しミリタリーチックな上半身、下半身の黒い袴は少し短めになり、足元のブーツが見えている。
学園で見た姿が大正浪漫的な姿なら、今の和装は少しアニメのコスプレチックな雰囲気を感じる姿だ。
それすらも似合って見えてしまうのは、やはり圧倒的な美しい女性的なルックスとスタイル、そして何より細かい所作であろう。
先程の刀を振るう姿でさえ、まるで舞でも舞うかのように美しい姿であったのが、姫華の目には焼き付いていた。
衣装の紐飾りと袖が尚更そのような姿に魅せるのであった。
「僕達のように、この離界に行って荒魂を斬って祓い、その怒りたる厄災を鎮める役目を任されたこの沖牟中の土地を護る人々……それを僕達は里守と呼んでいる。……まあ、里守にはもう一つの指名があるんだけれど……まあそれに関しては追々話す事にしようか。」
「つまり、この沖牟中の土地を護る神職の人……みたいな感じなのかな?」
「そうだね、神様に仕えている、という意味では神職という解釈でも間違っていないと思うよ。」
「ふーん……私も離界に来たってことは、その里守って仕事に適正があるかもしれない、ってことなのかな?」
「僕はそう睨んでいるけれど……違う可能性も無くはないかな。」
そう言う御木千代の表情は複雑そうな表情をしていた。
何故だろう?と姫華は考えてみるものの、まだ知り合って間もない上に、離界に里守に神様にと、一気に知らなかったこの沖牟中の土地の秘密を知ったばかりの姫華の頭ではそれを推察する事も出来ないのであった。
「えーっと……それで、この服の事だったね。この服は僕の特注品でね。里守の服は魔石炭の加護を得る為に、魔石炭で黒い染料を作ってそれを服に使うから、里守の服は黒い服なのさ。そして、里守の中に衣装の改造をしてくれる子が居るんだけれど、その子に頼んで僕が動きやすいように袴型に変えてもらったって事だよ。」
「そうなんだ……というか、石炭で染料って作れるんだね。」
そう言いながら足元からじっくりと姫華は御木千代の姿を見ていく。
その視線に気づいた御木千代は気を良くして、くるりと見せつけるように自分の恰好を姫華に魅せるのであった。
「どうだい?僕のこの里守としての姿も美しくて可愛いだろう?」
「そう、だね……綺麗で、可愛くて、それでいて……。」
「……それでいて?」
続く言葉が気になって御木千代は首を傾げた。
姫華は、うん、と頷いて納得するようにして、言葉を続ける。
「とっても、かっこいいと思うよ。」
「……僕が、かっこいい?」
「うん、凄くかっこいいと思う。」
御木千代は予想外の言葉にきょとんとする。
まるで頭の処理が追いついていないかのように。
そして……。
「……ふっふっふ、あはははは!」
腹を抱えて笑いだす御木千代に流石に姫華も驚いた。
「え、えっと……どうしたの、御木千代くん?そんなにおかしな事、私言ったかな?」
「あはは、だって……そっかそっか、僕がかっこいい、かぁ!ふふふ……!」
「ええ、私そんなにおかしな事言ったかな……?」
困惑する姫華をよそに、御木千代は笑い続けて、ようやく落ち着いてきて……。
「ふふふ、そうか、君にとって僕はかっこいい、か。……なら、僕はそう在らなければね。」
「……?」
今までのおかしくて笑うのとは違う、鋭い笑みを見せた御木千代に姫華は不思議そうにしたままなのであった。
説明回その2ですね。里守に関する説明が予想よりも長くなってしまいましたが、とりあえず今書ける範囲の事は書けたので良かったです。




