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沖牟中奇譚  作者: 大蛇山たんと


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春、離界。裏の沖牟中とは、離界とは 成り立ち

御木千代は言葉を紡ぎ始める。

その内容は、普通ならば荒唐無稽にも思われる話だった。

だが、すでにこの状況が語りかけている。

これは夢幻では無いのだ、と。


「一回で理解するのは難しい話だと思うが……そうだね、まず、大蛇様おろちさまの話をしようじゃないか。姫華は、この沖牟中にある大蛇の話を知っているかな?」

「おとぎ話みたいなのは、まあ聞いた事があるくらいかな……たしか、沢蟹に三等分されて、その大蛇から出た血が水になって池が出来て……あれ、でもそれだと沢蟹の方が守り神とかに近いような気がするけど、大蛇様なの?」

「一般市民としての知識としてはそれくらいで問題ないね。そしてその話も関わってくる話だ。少し長くなるよ。」


機関車での作業がひと段落ついた御木千代は姫華の隣に座って話を続けた。


「その昔話、三池の沢蟹も津蟹様ツガネさまとして信仰される存在になった。だがそれとはまた別に、他の地方と同じように田畑の豊穣や水害防止を願って大蛇様が信仰対象になった。沖牟中は湿地が元々多い土地だったからね。大蛇を祀る祭りがあるのは姫華ももちろん知っているだろう?」

「えっと……あ、もしかして、夏の大蛇祭りかな?」

「正解、その通りさ。先程言った通り、元々三池という土地の名前の成り立ちと言われる津蟹の伝説の大蛇と、祇園信仰と結びつけられた水神、大蛇信仰の対象の大蛇はまた別物の存在だったんだ。……だが、今の姫華のように、時代が下るに連れてその由来を知らない者も増えてきた。やがてその二つの大蛇を同一視する人も増えてきたんだ。神様という者は、信仰の念を大きく影響を受ける。祀られる神様でありながら、物語の中では悪しき敵役……そういう間違った認識によって、大蛇様の荒魂は邪気を持つようになってしまった。」

「荒魂……?邪気……?」

「おっと、そこも説明すべきだったね。神様という者は、穏やかな恩恵を与える和魂という魂と、災いを起こす荒魂という二つの魂を持っている。祭りなどの行事や信仰によって、和魂に感謝を伝え、その恩恵を授かったり、荒魂の怒りを鎮める事によって災いから土地や人を護るんだ。そして、大蛇様はその荒魂に物語の敵役としての同一視された信仰が混じってしまった事で、悪しき心が大蛇様の荒魂を蝕むようになってしまったという事だよ。」

「……その荒魂の大蛇様は、悪い神様になっちゃった、って事?」


御木千代の方を見る姫華の目は深く悲しみが混じった瞳であった。

その声も不安に震えた声で。

御木千代は内心驚いていた。

人々が、自分達の為に神様として崇めたのに、人々がその由来を忘れてしまったせいでその存在が歪められてしまった。

それが、姫華にとっては可哀想だったのだ、悲しかったのだ。

それに気づいた御木千代は、少し声色を先程より優しくしながら語り続ける。」


「大蛇様はそれほどヤワな神様じゃないさ。今でもしっかりと守り神としてこの沖牟中の地を和魂も荒魂も、その伝説による認識の変化も含めて受け入れたうえで、その上で守ってくださっている、有難い存在さ。……だが、荒魂を蝕んでいる邪気もまた事実さ。その邪気が、この裏の沖牟中、通称離界りかいで蛇の形になってさっきみたいに暴れたりしているわけさ。大蛇様の蛇の神様としての力を利用してね。」

「うーん……。」

「……一回で全てを理解しようとしなくても構わないよ、難しい話だからね。」

「いや、とりあえずさっきの蛇がその大蛇様の荒魂の邪気ってのは分かったんだけど……。」


頭で理解しようと、まるでパンクしそうな頭を抑えるように姫華は頭に触れながら、機関車の外を眺めた。

その瞳には、先程はあまり見えなかった巨木がはっきりと映っている。


「そもそもこの……離界?って何なの?その大蛇様が関わっているのはさっきの蛇の方だよね?」

「ああ、そういう事か。そうだね……そもそも離界という物はこの日本の各地にあって、その土地によって異なる成り立ちがあるんだけれど……この沖牟中の離界の成り立ちを話そうじゃないか。」


そう言いながら御木千代は機関車の燃料室からごそごそと、何かを取ってきた。

その細い指の手のひらの上には、黒く輝く石が乗っていた。


「これが何かわかるかい?」

「石炭……?あ、もしかして、沖牟中の関係する物と言えば、魔石炭かな?」

「その通り。沖牟中の離界は、この魔石炭と御木みきと神様の和魂によって成り立っている。」

「……どういう事?」


不思議そうに首を傾げる姫華に、御木千代は窓から見える巨木……『御木』を指さして答える。


「かつてこの沖牟中の土地には巨大な木、御木と呼ばれる木があったらしいんだ。その御木は、人々から霊木として、信仰の対象になっていたらしい。やがて、御木は、信仰によって本当に霊力を持ち、まずはこの離界の下地が作られた。」

「そんな伝説あったんだ……知らなかった。」


次に姫華に魔石炭を見せる御木千代。


「次にこの魔石炭だけど……魔石炭が何故、この沖牟中の土地から離れると普通の石炭になってしまうか、姫華は知っているかい?」

「え?……たしか、それが全然わからないから色んな研究者が研究しているって聞いたけど……。」

「そう、研究家が手詰まりになっても仕方ない理由という事さ。何故なら、魔石炭の魔力は、津蟹様と大蛇様の和魂の恩恵の一つなんだ。この土地の伝説に結びついた結果とした二人の恩恵という事だね。」

「えっ……ああ、もしかして、沖牟中の土地か魔石炭が離れると力を失うのって、恩恵が届かなくなるからって事……?」

「正解だよ。そしてこの魔石炭を使い、魔石炭から離れた神様の力は御木に還元されていく。津蟹様と大蛇様がこの地に生きる者達の神様なら、御木はこの沖牟中の土地の神様、と言った所かな。そして、御木の和魂の恩恵として魔石炭が産み出され……その反動として荒魂が、この裏の沖牟中、離界を産み出し、時折ここに人を招く、と言った所かな。」

「なら私は、ここの神様に招かれた、って事なの?神隠し……ってやつなの?」

「いいや、違うね。沖牟中の離界は、神隠しのような気まぐれに人を招くような事はしない。」


首を横に振った御木千代は、確信を持った眼で姫華を見つめる。

まだ、御木千代は自分の頭の中での出た結論を疑っている。

だが、既に姫華がここに居るという現実が自分に突きつけられている。

それを否定出来る材料が御木千代には無かった。

だから、姫華にはしっかりと伝える必要があった。


「君は、偶然ここに来たわけじゃない。何か理由があって、この世界に、御木に呼ばれたんだ。」


説明回その1でした。「転生悪役令嬢はヒロインの影になりたい」の方は、根幹になる設定がまだあまり開示できないので、こうやって世界観説明をしっかりとやる機会が序盤にあるというのは不思議と新鮮な気分ですね。ちなみに説明回、もう少し続きます。

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