春、離界。ようこそ、裏の沖牟中へ。
突然現れた、今日友達になったばかりの御木千代が現れた事に驚く姫華。
それとは対照的に、まるで当たり前のように笑みを見せて手を差し伸べる御木千代。
「どうぞ。」
「あ、ありがとう……。」
「どういたしまして、っと。」
姫華は御木千代の手を取ってよろよろと力があまり入らないながらも立ち上がる。
改めて周りを見回す姫華。
御木千代のが現れた時に影の蛇達の一部は吹き飛んだらしく距離が空いていたうえに数も減っていた。
残った影の蛇達はこちらを威嚇しているが、突然の登場に驚いているのか先程までの威圧感を感じないのは友達が来た安心感故だろうか。
「え、えっと、御木千代くん、これっていったい……。」
「おっと、待ってくれ。聞きたいことは山程あるだろうけど、今は少し離れてくれないかい?この場を切りぬけるのが今は優先すべき事だ。」
「た、確かに?……わかった。」
御木千代の言葉に少し不思議に思いながらも、今は信じるべきは御木千代しか居ない状況なので、少し離れて見守る事にする。
御木千代の周りを囲うように位置する影の蛇達。
御木千代は刀を一度鞘に仕舞うと、居合抜きのように構えを取る。
「……黒き石、その炎、幾度も幾度も練り上げ鍛え上げ、辿り着いたその輝きの力、今ここに示さん。」
まるで魔法でも唱えるかのように、自分に暗示でもかけるように、そして封印を解いていくかのように。
御木千代は呟きながら鍔を握る手に力を込めていく。
そして、蛇達が御木千代に向かって飛び掛かったその刹那。
「抜刀……三斬り(みつきり)。」
スパン、スパン、スパン、スパン!
姫華には速すぎてほとんど見えなかった。
ただただ、一瞬の閃きの中に無数の斬撃が舞うのだけは何となく理解出来た。
美しい、とまでに綺麗な軌跡を残した剣撃は、あっという間に影の蛇達を、断末魔をあげる暇すら無く一瞬の内に三分割に解体してしまった。
「……す、すごい……。」
姫華は、思わず声が漏れてしまっていた。
そしてその影の蛇達は、何故か赤い血ではなく、透明な水を辺りにまき散らしながら、その蛇達は消えていった、その死体すら残さずに。
「す、凄い……凄い、御木千代くんっ。一瞬であの蛇達がバアーって斬れちゃって、バシャーって水?になっちゃって……それに、この刀もさっきは持ってなかったし、恰好も何かさっきと違うし……というか、ここって何!?ここって何処!?」
「待て待て、ひとつずつ答えるから、まずは一回落ち着いてくれ。」
段々と興奮気味に問う姫華の勢いに軽く御木千代は押されながらも、まずは姫華に落ち着くように促す御木千代であった。
歩きながら、とりあえずは町の路面電車の方に向かう二人。
「まずは、見てほしい物がある」という御木千代の言葉に従って歩みを進める事にしたのだった。
先程慌てて走って、距離はあまり無くなっていた為すぐに路面電車がある大通りの方に着いた。
そして、姫華はあるものを目にした。
「あ、あれって……。」
「あれが、この世界の象徴とも言える存在の一つかな。」
それは、あまりにも巨大な木であった。
大木、と言えば写真とかで屋久島の屋久杉だとかを見た事があるし、神社とかに生えているご神木とかなら実物も見たことがあるが……今見ている巨木はそんな物とは比べものにならない。
まるでゲームとかで見る、世界樹だとか言われるような、家どころかビルなんかよりもずっと高く、商業施設とかすら全て飲み込みそうなくらいに大きい。
まるでこの町の中心だ、と主張するかのように堂々とこの地に鎮座しているのだ。
それがまるで当たり前だというくらいに。
「何、あれ……。あんな物見たこと無い……というか、あんなのがあったらこの町は絶対石炭の町じゃなくて樹の町って言われてるよ……。」
「その感想も、まあ当たり前ではあるし、ある意味それが正解でもあるね……ほら、機関車は動くよ、自動運転にしてあるから、早く乗ってくれ。」
「え、御木千代くん、機関車動かせるの?凄い……というか、資格とか必要そうなのに。」
「まあ、ちょっと色々事情があるんだ……中で色々話そう。どうやら、ここに姫華が居るのは、僕達にも関係があるらしいからね。」
そう話しながら、招かれるままに機関車の中に姫華は入る。
それを御木千代は確認した後、ボタンを幾つか押すと「ポオオオオォォォッッッ!」と機関車は汽笛を鳴らし、ゆっくりと動き始めた。
御木千代が客車の方に戻ってきても勝手に機関車は動いている辺り、本当に機関車は自動運転で動いているらしい。
沖牟中の路面電車に使われている機関車は、炭鉱で使っていた物を改造して作った物、という話を姫華は聞いた事がある。
少なくとも最新の機関車や電車というわけでは無いはずなのに、こんな自動運転機能がついている事にも姫華は内心驚いていた。
姫華の隣の席に御木千代は座り、口を開いた。
「これから説明する事は、本来沖牟中に住む一般人には決して関わりの無い、一部の人間以外は一生知る事も無く終わるはずの話なんだ。だけど、君はどうやら僕達と同じように、この町の秘密を知らなければいけない、一部の選ばれた人間の一人、って事らしい。……一応聞くけど、この町の秘密に君は、触れる覚悟はあるかい?」
「この町の、秘密……。」
姫華の中に、確信のような予感が走る。
「きっとこの決断は、私の人生を大きく変える決断になるのだろう」、と。
そして、「きっとここでどう返事をしても、完全にこの世界から無関係で居る事は出来ないのだろう」、とも。
理由は分からないが、何となくそんな気がするのだ。
何故なら、偶然なのか必然なのかは分からないが、この世界に自分は入ってしまったのだ。
今後同じような事が起きないとも限らない。
それに、一度この世界の存在を知ってしまったから、きっと知らないふりをして、忘れて生きていくというのは、姫華には出来ないだろうと。
そして何より。
今日友達になったばかりの人だとしても。
目の前に居る友達が、何かを秘密にしながら、何かと戦っているというのは間違い無いのだ。
それなら、その事をもっと知りたいと。
可能ならば、友達の力になりたいと。
そう思う事は、姫華にとって当たり前の事だった、不思議に思う事ですらなかった。
櫻井姫華という人間は、人々のヒロインというわけではないあくまでもただの一人の人間だが、人並の善性を持っている人間なのだ。
なら、ならば。
どうやってもこの繋がりを断つという事が出来ないのならば、私は、この繋がりに敢えて踏み込んで行きたいと、そう思った。
「私は、郷土愛だとかが強いとも言いにくいし、あんな風に戦ったり出来るようにもなれる気もしないけど……それでも、私も何か背負うべき物があるなら背負いたい。それが、御木千代くんの、友達の為になるかもしれないなら、尚更。」
「……姫華、君はただの一般人と思っているかもしれないけど、君の人を思う心はとても美しく強い物だと、僕は思うよ。……なら、君にも知ってもらおうか。この町の秘密、そして、僕達の秘密を。」
「……うん。」
言葉を一つ一つ選ぶように、考えながら話す御木千代は、やがて一つ大きく深呼吸をした後、改めて口を開いた。
「この世界は……沖牟中の中に存在するもう一つの世界、裏の沖牟中、通称、『離界』と呼ばれる世界なんだ。」
二人を乗せた機関車は、二人を巨木の元へと運ぶかのように、廻り始めた運命のように、車輪を動かすのであった。
小説を沢山書きたいけれど見たいアニメややりたいゲームがどんどん積みあがっていくジレンマ……とりあえずアトリエとモンハンやりたいです。




