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食材を狩りに行こう(ただしモンスター)


 公爵家の武具庫にはなかなかの武器装備が眠っていた。


 俺はその中から自分に合ったものを見繕い、早々に屋敷を出た。


 俺に対して何かと過保護なミアに会ったら、岩石鳥の討伐自体を止められてしまう気がしたからだ。


 出発前に猟場番のヘイゼルにはしっかりと岩石鳥の出没地点を聞いた。


 場所はレンヌ近辺では一番の高峰であるネビス山。


 町を出て街道を2時間ばかり進むと、大きな橋のかかった渓谷がある。


 その渓谷から石ころだらけの九十九折りの道を数時間登れば高山植物豊かな高原に辿り着く。


 今では数が減ったものの、岩石鳥はその高原付近に多く生息しているらしい。


 多くを相手にする気はないので、できれば一匹だけをうまいこと捕えたいものだ。


  この程度の旅ならおそらく食料は最低限で良いだろうと思い、干し肉と乾パンを少量だけ屋敷から拝借した。


 早い時間に屋敷を出発したし、上手くいけば今日中に獲物を持って帰れるはずだ。


 そんな事をもくろみながら、見渡しの良い街道を一人で進んでいく。


 お気楽な一人旅が終わったのは、レンヌの町を出てから10分もしないうちの事だった。



 「……おい! 待てよ、アーデルハイト!」


 「……ロクスリー?」


 「へへ、今からトリを狩りに行くんだろ? ならアタシも行く!」


 「いや、アタシも行くって言ったって……」


 背後から声を掛けてきた人物が、一瞬誰だか分からなかった。


 いつものコックコートを身にまとったロクスリーではなく、弓矢を持った狩人スタイルでの登場だった。


 ……ナンデ?


 「何を変な顔してんだよ。顔芸にしちゃつまんねーぞ」


 「その弓矢と服は?」


 「アーデルハイトも武具庫から持ってきたんだろ。アタシもちょいとアタシ用に拝借してきたって訳さ」


 「ロクスリーはシェフのくせに弓を扱えるのか」


 「昔から狩りの腕は親父に仕込まれてんだ。一流のシェフなら、自前で食材を調達して当たり前ってな!」


 「えぇ……」


 「言っとくが、弓に関しちゃそこらの冒険者には負けねーぜ? ガキの頃からそりゃ数知れずの獲物を撃ってきたんだ」


 どうやら弓矢の扱いには自信があるらしい。

 その自信を裏付けるように、確かに所作というものが堂に入っている。


 俺も弓矢は用意してきたが、遠隔攻撃に自信がある人間が増えれば増えるほど狩りの成功率は上がるだろう。


 ただし相手が相手なだけに危険も大きい。


 果たしてこのままロクスリーを連れて行っていいものかどうか、悩みどころだ。


 「という訳で、連れてけよ。連れて行かねーなんて言ったら、今ここでアタシの弓の餌食になるかもな」


 「弓を構えるんじゃねーよ! 危ないだろ!」


 「なら、アタシを連れていくか?」


 「……かなり危険だぞ。岩石鳥は強いだけじゃなく、やたら賢い」


 「へへ、望むところだ」


 「あいつは魔法すら使う。一発でも浴びたらイチコロだ」


 「魔法に限った話じゃねー。ケモノを狩るってのはそーいうことだ」


 「屋敷のメシの支度はいいのか?」


 「今日はダニエラに任せて来た」


 「今の俺は、戦闘の勘が少し鈍ってる。いざと言う時に助けられないかもしれない」


 「ハナからあてになんざしてねーよ。自分の身は、自分で守る」


 「覚悟の上なんだな」


 「おーよ。だいたい、アタシの料理する獲物を人任せにしてられっか!」


 責任感の強い彼女のこと、人任せにしたいくない気持ちは理解できる。


 いくら俺の勘が鈍っていても、いざと言う時にロクスリーを守ることくらいはできるはずだ。


 代わりに俺が命を失うかもしれないが、そうなったらそれはそれで仕方ない。


 「……なぁ、頼むよアーデルハイト。アタシは厄介ごとをオマエだけに押し付けたくねーんだよ」


 「分かった。一緒に行こうロクスリー!」


 「おーよ! それでこそアーデルハイトだぜ!」


 「目的地はこの先のネビス山。うまく岩石鳥を見つけて狩れりゃ、今日中に屋敷に戻れる簡単な仕事だ」


 「フフン、腕が鳴るぜ」


 こうしてロクスリーが俺のパーティーに加わった。


 この瞬間、俺のお気楽な一人旅は騒々しい二人旅に変わった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 街道の途中にある渓谷からネビス山に入り、俺たちは中腹にある高原を目指した。


 九十九折りの山道はとても整備されているとは言えず、石ころだらけだったり、ガレ場があったり、思っていた以上に足を取られて進まない。


 気温が昨日より落ち着いていることと、勾配が緩やかなのがせめてもの救いだ。


 「尾根を進もうぜ、アーデルハイト。その方がきっと早いはずだ」


 「ロクスリーは案外、山歩きに慣れてるな」


 「言ったろ、親父と一緒に良く狩りをしてたって」


 女の子なのに──と女扱いすると怒るので言わないが、ロクスリーは俺と同等のスピードで険しい山道を進んでいく。


 軽くて丈夫で歩きやすい皮のブーツと、重さが負担にならない軽銀の弓を選んでいるのもセンスを感じる。


 この分なら思った以上に早く目的地にたどり着けるかもしれない。


 「ところでよー。岩石鳥ってのはフツーに倒せんのか?」


 「羽毛がやたらと硬いからな。ただ、全部が全部硬い訳じゃない。腹の部分が柔らかいから、倒すときはそこを狙う」


 「ホー。なら楽勝じゃねーか」


 「頭がいいって言ったろ。腹を狙っても、すぐに大きな羽根でガードする。その上素早いから攻撃自体がなかなか当たらない。もたもたしてると、魔法がズドンと飛んでくる」


 「おっそろしー鳥だな」


 「もとは魔防門の向こうの生き物なんだ。ただのケモノじゃない」


 「マボーモンか。アタシはまだ見たことねーな」


 「このまま進んでいけば、もうすぐ見れるぞ」


 「おいおい、マボーモンはフレドニア地方にあるんだろ。オメーが戦争で閉じたってやつ」


 「俺が閉じた訳じゃないし、魔防門はこのレンヌにもある。あの時はフレドニアの魔防門が開いただけだ」


 「はぁ? レンヌにもあんのかよ?」


 「あまり知られてないが、ある。……ほら、あの大きな滝の傍にあるヤツだ」


 「……ッ! お、おい……アレって……!」



 門というのは名ばかりで、魔防門自体は一般によく知られた門の形をしている訳じゃない。


 人里離れた山奥に、ぽっかりと中空に浮いている巨大な漆黒の闇があった。


 大掛かりな結界が張られ、その闇がこれ以上に広がらないように抑えられている。


 その向こうは俺たちの住む世界とは別の場所に繋がっている。


 死者の世界と言うものもいれば、幻獣の世界というものもいるが、はっきりとは分からない。


 分かっているのは、何かの原因で結界が解かれた時に中から異形の生物が現れて人を襲うということだけだ。


 フレドニア戦役の時は、一番相手にするのがキツい竜人と呼ばれる種族が現れた。


 「アレが魔防門って……あんなもんがレンヌの町の近くにあっていいのかよ!?」


 「ロイス公爵は魔防門の守り人の末裔なんだ。そこに人が集い、いつしか町になった。この国の重鎮である公爵は、みんなそうして自分の住む町で魔防門を見張ってる」


 「そんな大層な人物には見えねーけどな、ロイス公爵はよー」


 「本当にな……」


 祖先はともかく、ロイス公爵はただのお調子者のオッサンだった。


 おかげでロクスリーと共にこんな山の中まで来る羽目になっている。


 「まあ、今の俺たちにあれは関係ない。先に進もう」


 「おー。あんまり見ていて気持ちのいいもんじゃねーしな」


 「もう少ししたら食事にしないか? 昼近いし、岩石鳥の生息域までもうすぐだ」


 「腹ごしらえなら、アタシがメシを作ってやる。フライパンと簡単な調味料だけは持ってきてやったぜ!」


 「ずっと思ってたが、背中にあるフライパン、邪魔じゃないのか……?」


 「いざってときには盾にもなんだろ」


 盾になるかどうかは分からないが、調理器具があることで食事の質がグッと上がるのは確かだろう。


 俺はロクスリーの作る昼食を楽しみにしながら先に進んだ。


 背にした魔防門からは時々、異音が聞こえた。


 それは異界に住む人ならざる者の声だった。













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