マクスウェルの悪魔
今日の本編投稿です
完全に密閉されている容器があるとする。容器の中は、温度が均一な気体で満たされている。
温度は均一だが、気体の分子はそれぞれ、さまざまな速度で動いている。
容器には仕切りがあって、AとBという2つの小部屋に分けられている。また仕切りには開閉ができる小窓がついている。
小窓には、何か小さいやつがいるようだ。気体の分子の動きを観察したり、小窓を自由に開閉したりできるという超能力をそなえた、いわゆる悪魔であった。
この悪魔が、小窓に近づいてくる分子の1つ1つの動きを見きわめて、速く動いていればAに通し、遅く動いていればBに通すように小窓を開閉する。
たとえば、Aから速く動く分子がきたら、小窓を閉じて、Bに通さないようにする。
すると、やがてAは速く動く分子だけになり、Bは遅く動く分子だけになる。これは容器全体では、均一だった温度が高温のAと低温のBに分かれてしまったことを意味する。
エントロピーに注目すれば、気体のエントロピーが最初の状態よりも小さくなってしまったということだ。これでは熱力学第二法則、すなわちエントロピー増大の法則に反してしまう。
このようなことは、気体分子になんらかのエネルギーが加えられないかぎり起こるはずは無いが、悪魔はただ小窓を開閉しただけなので、気体に対しては、何の仕事もしていない。
1867年、マクスウェルはこの結果を物理学者達に突きつけた。
そして遂に、日本の鳥谷部祥一、沙川貴大らの物理学者が開発した世界で初の「マクスウェルの悪魔」再現装置による実験で、「温度の環境下で1ビットの情報を消去するためには最低でも、kT log 2の仕事が必要である」ということが示された。マクスウェルの悪魔は1世紀以上の時を経て、遂に打倒された訳だ。
だがここで、情報と言う概念が、熱力学と言う全く別の分野に関わって居る事も証明された訳だ。
「じつは物理学で時間の不可逆性が信じられているのは、まさにこのエントロピー増大の法則があるからなんです。エントロピー増大の法則も、一方通行にしか流れない、時間もこれと同じ。そして遂に、情報がエントロピー増大に関わって居る事が証明された。これ、何かに似ていませんか?」
「あ!?…….」
「そうか! 俺達が観測する事で、物質は固まる!」
「その通りです、つまり、私達人間は、観測する事で秩序を作り出し、この世界を構築し、そして時間の概念を導き出して居る。ムールさんが言った、本来時間など無い、時間とは私達人間が作り出して居るに過ぎないと言った意味がここに有ります。更に決定的な結果がつい最近確認されました」
「決定的な結果?」
「はい、2019年、モスクワ物理工科大学(MIPT)の量子情報物理学研究室で筆頭研究員をつとめるゴーディ・レソビク博士は、量子コンピュータの技術開発を進めているなかで、ランダムになっていた量子ビットの状態が秩序ある状態に逆戻りする現象を観測したと述べました」
「逆戻り!?」
「レソビク博士らは、スイスとアメリカのチームと共同で、生物の進化プログラムを、量子コンピュータで計算していたんです。進化プログラムとは、コンピュータ上に2つの仮想の性をつくって、双方の性から受け継いだ遺伝子を交配させ、さらに数%以下の確率で突然変異も起こるように設定して、自然界の遺伝子集団の動きをモデル化したものです。遺伝子は0と1だけで表現され、その動きを解析することで、進化というものの正体を探ろうとして居た訳ですね」
「それが何万年の計算…..か」
「そうです、こう言う話しをすると実感が湧きますよね、何万年とかかる計算て何んだろう? と思うのはわかります。私も最初そうでした。でも生物の進化プロセスを解析しようとするならば、それこそ何万年と言う月日が必要になる訳です」
「進化なんてそれこそ何万年、何十万年と時間を要するだろうしね」
「さて、この0と1の動きは、マクスウェルの悪魔における気体の分子のように、エントロピー増大の法則にしたがうことが、情報熱力学からわかっています。プログラムが進むにつれ、最初は整然としていた0と1の秩序はどんどん失われ、カオスのように乱雑になっていきました。ところが、ある瞬間から逆に、0と1の配置がそろいはじめ、一定の秩序が生まれたことを観測したんです」
「それじゃまるで!?」
「ほとんどの物理法則は未来と過去を区別しません。しかし、熱は低温から高温へ自発的に移動することはない! という熱力学第二法則だけは、秩序から無秩序への一方向の流れしか許さず、それは、これまでの歴史が証明するように、決して違反することはできません。時間の逆転など起こりえない筈でした」
「でも何らかの情報が入った時には…..」
「それが起こり得る事をこの実験は証明したんです。つまり、量子の世界では時間は巻き戻る。更に言うならば、時間とは人間が作り出して居る概念に過ぎず、それは宇宙の法則に逆らって居る」
「なあ? フジさん」
「何ですか? シャオリンさん」
「それだと、女帝が言って居た事と全く……」
「そうです、女帝は嘘を言っています。勝利者を現代に戻すと言う事は本当でしょう。ただ当然この世界を知って居る者を今までと同じ生活に戻す事は有り得ないと思いますが。ですがこっちの時間が速く流れていると言う事はまるっきり嘘です。逆です、こっちの時間の方がゆっくりと流れて居る」
「ちょっと待ってください、ならこの瞬間の私達の周りは?」
「恐らくですが、クローンなり別人がそれこそ私達を装って居るのでしょう。クローンならば見分けは付かない。遺伝子には全ての情報が入っています。それこそ私達が体験した記憶さへも」
「記憶までか!?」
「でしょうね、俺たちは体験から全ての判断をして居る。今までは脳がその記憶を保持して居ると信じられて来たが、実はそうではなく、遺伝子其の物がその記憶を持っているのではと言う話を聞いた事があります」
「アフロさんの言う通りです。再生医療と言うのは、遺伝子が持って居る記憶媒体から、様々な身体の部分を再生します。そしてそれは脳まで再生可能です。今その最先端は量子ヒーリングだと言われています。別名メッドベット、それは身体の凡ゆる部分を再生し、そしてどんな病気まで立ち所に治してしまうと言われます。それこそ老いさへも」
「それでは!?」
「そうですね、不老不死です、ですが今の説明で、それが可能だと言う事が分かりませんか? 時間は巻き戻るんです。量子の世界ではね」
「ならそれこそ、私達をタイムマシンみたいな物で?」
「林檎さんの言う通りです。文字通り私達を過去の世界、つまり私達がこの世界へ来た時に戻す、それが彼等の言う、現代に戻す切符です。元いた場所と時間に戻るんです。今までの事が夢だったんだと思わざる負えないですよね? だってこれだけの時間がほんの数時間で有る筈がない」
「なら死んだ人は!? それだと完全に死んだ事になるわ?」
「認識の違いです、言いましたよね? そもそもこの肉体がアバターなんですよ、現代においてすらそれは変わらない。私達の本体はエーテル体、つまり魂です。魂と遺伝子が有れば、肉体は幾らでも再生出来るんです」
「つまり奴等はその量子ヒーリングベッドを」
「持っています、だからこんな計画を実行に移せる。彼等がゲーム中に人が失踪するなんて言う馬鹿な事件を起こす筈は無い。それはSDGsの裏の計画を暴露してしまう結果になりかねないんです。私は一人で部屋に居る間にこの世界へ来ました。つまり私の家族は私が部屋に居る事を知って居る。窓には鍵がかかって居る。ではどうやって私は外に出たんですか?」
「じゃあ…..そもそもその時点で私達は量子テレポーテーションでこの世界に連れて来られて居た」
「そうです、そしてしれっと私のクローンか何かが家に現れたのでしょう」
「クローンなんて物が本当にあるとしたら、確かに可能な訳か…..」
「そうです、そしてこの世界で死んだモフリンさんは、今頃新たに造られたアバターで、向こうで暮らしているでしょう。監視付きでしょうがね。病気なんかもしてたら治って居るんじゃ無いですか?」
「良いのやら悪いのやら…….」
「悪いに決まって居る! こんな事許す訳に行くか!」
「シャオリン…….そうよね!」
「決めたわ、リリィ、シャオリン、祠には私達3人で行こう」
「林檎さん、何を言ってるんだ! たったの3人で行くなど危険極まりない」
「だからと言って、先ず魯陽をこのままにしておく訳には行きません。隣にどんな勢力が入って来るかわからないなら、翡翠が取るべきです」
「最もだ、明日は魯陽に宣戦する、それは決定事項だ」
「そしてこれで翡翠は虎牢関、すうざん、魯陽の3城を持つ事になります。この3城を先ず抑えておけば、一食、珍肉、に続いて3位をキープ出来、天下布武に勝って同盟戦に挑めます。するとこの3城を防衛する戦力が必要になります。虎牢関に5人、魯陽、すうざんに4人は必要です。すると、裂ける人員は2人、でもシャオリンの覚醒も絶対に必要な事。そこで、今私はすみれさんに盟主を譲っています。なのですみれさんに一時翡翠を預け、そこに同行させて貰います。
私とリリィで現在青熊さんに次ぐ高速移動が出来ます。ならば青熊さんは3城の通信兵として外せないので、次に高速移動が可能な私とリリィでシャオリンを祠まで連れて行く、自明の理だと思いますよ?」
「わかった、3人で行こう」
「シャオリンさん! いくらなんでも」
「俺も賛成です」
「アフロさんまで!」
「ヨウヘイさん、林檎ちゃんの言う事は間違っていません。シャオリンの覚醒は翡翠に取って、いや、この世界に入り込んだ全員に取って、必要だと俺も思います。何故シャオリンが公輪盤の能力を得たのか? 俺はそこに何らかの意図があったと考えて居る」
『まさか? アフロさんは気がついて…..あり得ないわ、でも何となく、アフロさんにはアライアンスの、はるんさんのお母さんの意図がわかっているのかもしれない……』
リリィはアフロならあり得ると考えた、実際リリィが思う様に、アフロは完全にシャオリンがアライアンスチームから選ばれた存在だと言う事は知らなかった。だが態々8段階覚醒のキャラが、誰でも良いと言う事は有り得ない、ならばシャオリンが何らかの能力を秘めて居るからこそ、選ばれたのだろうと言う考えには居たって居た。
「だからこそ、この世界から皆が無事に脱出するには、シャオリンの8段階覚醒が絶対に必要だ。だがそれは、翡翠が勝ってこその話だ。翡翠が負けてしまっては、元も子もない。ならば今は、戦力を分散して、同盟戦まで城を守り抜くのは必須です」
「わかった、なら俺を魯陽攻略に使ってくれ、シャオリンさんは珍肉時代からの仲間だ。シャオリンさんが頑張って居るのに俺がのうのうと城に篭って居るなんてのはあり得ない」
「わかりました、ならヨウヘイさんと俺で行きましょう」
「誰か忘れておらんか? 軍師殿!」
「ザコさん!?」
「当然俺も行こう! 兄貴、こっちのことは俺に任せて、ガッツリ強くなって来てくれ!」
「わかりました、ザコさん、皆、こっちの事は任せた!」
概ね話しが終わり、翌日、リリィと林檎、シャオリンは、祠へと旅立った。翡翠は魯陽に宣戦し、魯陽攻略にはヨウヘイが将軍として、アフロが軍師、ザコがその他量産型兵に混じり出陣する事となった。正直量産型兵のURの方がザコよりも強いのだが、アフロもヨウヘイも、何故かザコが居ると、心強いと感じて居た。
虎牢関にはフジが城代として残り、その他のメンバーと駐屯する事となった。
シャオリン、リリィ、林檎の3人は、翌日朝一番で虎牢関を経った。リリィの矢と林檎の像での移動速度は、やはり非常に高速で、慣れて無いシャオリンは顔面蒼白状態になって居た。そんな中、何と林檎とリリィは既に会話しながらだった。
おかしいだろう? 何故この中で普通に会話出来る!?
最早慣れというレベルを越して居て、この二人なら間違い無くバンジージャンプすら、会話をしながら行けるだろうと確信したシャオリンだった。
「はあ……..はあ…….ここで、一休みしよう」
「だらしないわね? 男の子でしょう?」
「何でそんなに平気なんだよ2人とも、おかしいだろう? 大体この短時間でもうすうざんまできてるとか、有り得ねえ」
「青熊さんは私達より早く飛んでるんだよ?」
それを言われると何も言い返せないシャオリンがそこに居た。その後シャオリン達は、すうざんに一度より、アフロからの伝言を伝え、即座にすうざんを後にした。残って戦って居るメンバー達の事を思うと、すうざんでゆっくりしていくと言う行動はどうしても取れなかった。
「ここからは歩きで行くしか無いわ」
「何でだ? 何かまずいの?」
「MPが枯渇寸前、流石にスキル連発はかなりMPが消費するの」
「ここはもう汜水関、天下布武の勢力圏よ。気を抜かずに行きましょう」
だがやはりと言うか、天下布武からの攻撃は一切無く、シャオリン達はそのままきょろくの勢力圏に入る事が出来た。




