ゲーム内への転移事件
本編の一話目です。感想などありましたらよろしくお願いします。
毎日がつまらない、早く大人になりたい。母さんは勉強勉強と何時も五月蝿いし、塾の講師はガキだ。親父は毎日残業、顔を合わせりゃ学校の成績だの何だのしか言わない。妹は最近俺の事をクズの様な目で見て来やがる。俺は早く大人になって、あんな糞家族どもとおさらばする事だけを考えている。
だが現実は冷たい物だ。高校生のバイト代何てたかが知れてるし、生きて行くためにはあいつらの元にまだ居なければならない。
「和也、そろそろ塾の時間でしょう? 早く行かなければ遅刻するわよ!」
「煩いな、静香だって塾だろう? なんで俺の事ばっか言うんだよ!」
「静香はもう行ったわよ、早くしなさい」
静香は俺の1つ下の妹だ、成績優秀で容姿も申し分無いらしい。病気がちなのがまた良いとか、知るか。妹も塾に通っているが、出来の悪い俺と違い、静香の方は有名進学塾だ。俺は…..まあ申し訳程度に通っている。
「和也! 早く行きなさい!」
「あ、ヤベエ、遅刻する」
とりあえずバイクの免許は取ったが、塾に行く時は禁止、面倒くさいが自転車だ。
俺? 林 和也、17才の高校2年生だよ。妹は林 静香 今年16才になる。
塾は自宅から自転車で15分程の駅前に有る。夕方6時から9時まで3時間。月、水、金の周3日。それ以外の日はバイトをしている。ガソリンスタンドだけど、俺は車が好きだ。いずれは整備士の資格を取って、整備士になろうと思っている。今は塾の勉強なんかよりそっちの方が忙しい。
「こんばんは〜」
「こら! 林くん、5分前には席につきなさいって言ってるでしょう!」
この口煩いのは川田先生、見た目が幼いからはるちゃんと皆に揶揄われている。なんか誰かの後妻で結婚したばかりらしいが、まあどうでも良い。ガキだし…….
「お前また遅刻かよ」
「五月蝿え!」
「それより見たか?」
「何を?」
「公式だよ、今度のMR、めっちゃ強いらしいぜ?」
「欧冶子か?」
「そう、俺水引もう150!」
「げ! …..俺まだ35….頑張ってアウグス取ったからそこで使っちゃったんだよな…..」
こいつは木原 浩二、幼馴染だ。高校生の癖に安室奈美恵のファンで、いつもやってるスマホゲームでアフロ南無恵とか言うネームを付けている。
俺と浩二が今ハマっているゲームは、放逐少女と言うゲームだ。三国志の世界を舞台にして、そこで基本持ちキャラを戦わせてレベルを上げて行くゲームだ。
中国三国志時代や日本戦国時代に実在した武将達が少女となったキャラクターや、コラボしたキャラクターで戦うゲーム。タイトルに有るように、放逐、つまり放置ゲームの要素が盛り込まれている。
当然だが、ただ放逐しているだけでは全く弱い。様々なアイテムを使い、キャラを強化して行かなければならない。課金要素もかなり有り、俺も浩二もバイト代でかなり課金していた。
「和也急げ! 休み時間!」
「うわ、調教の時間」
休憩時間には必ずインして様々なコンテンツをこなして行く。その積み重ねがキャラを強くして行く訳だ。この調教と言うのはアイテムゲットのために、必ず行うコンテンツで、デイリー任務にも含まれる。
「林檎さんまた戦力上がったな」
「やべ、置いてかれる」
「すみれさんもアウグス取ってるよ」
「ガッキーさんも欧冶子取るってよ、また強くなるな」
「マジか、俺も欲しいな〜」
すみれさんも、林檎さんも、ガッキーさんも、皆翡翠と言う同盟に参加している。俺も浩二もその同盟に参加している。同盟の盟主が林檎さん、それでこの浩二がそこで軍師をやっている。正直浩二の采配は俺でも感心する。勉強は俺と変わらない成績だが、恐らく本当にここが三国志とかの世界なら、浩二は本当に名軍師になっていただろう。だが今はただの冴えない高校生だ。
「今日は遂に傾国洛陽だな、頼むぜ軍師」
「ああ、任せておけ! 相手が一食だろうと絶対負けねえ」
「そこ! もう授業始まって居るわよ!」
「「す、すみません….」」
傾国と言うのは同盟同士の攻城戦だ、洛陽と言うのはその攻城戦の中心で、そこを取るのが目的になる。洛陽が金屋根の城、その次に青屋根の城、赤屋根と続く。金が一番ポイントが高く、次に青、赤となり、週間でポイントを競い合う。
一食と言うのは、一日一食同盟で、今翡翠の有るサーバーでは最強の同盟だ。その次が翡翠、珍肉同盟、天下布武同盟の三者が二位を競い合って居ると言う具合になる。
俺たち翡翠が有るサーバーは、破竹の勢いと言うサーバーになり、サーバー数は常に増えて居る。
塾も終わり、俺と浩二は帰りがけにいつもの公園で塾のある日は傾国をやっている。
「和也、イン数は?」
「今10人だな」
「少ないな、15人くらいになれば何とか虎牢関守りながら洛陽落とせそうだけど」
「まだ増えるって、リリィさんもまだだろう? それより魯陽はどうするんだ?」
「今はるんさんに攻撃して貰うよう指示した。洛陽の露払いは青熊さんに頼んだ。とりあえず残20分から本格的に洛陽攻撃開始するぞ」
「おう!」
攻城は実際には9時から始まるが、基本的には9時30分からと言うのがセオリーだ。というのも、攻城戦が終わるのが9時45分、城を取ってから15分は反攻出来ない。つまり9時30分に城を落とせば、反撃されないので、その時間に落とすのが良い訳だ。だが相手の同盟もそう簡単には落とさせてくれない、防衛キャラを配置して居るので、それを倒して行く時間も計算しなければいけない事になる。
浩二が残20分からと言ったのは、つまりその防衛キャラを抜いて、城を取る時間も計算に入れて居る訳だ。攻撃は9時25分から始めるぞと言う意味だ。
洛陽に今居るのは一食同盟、防衛は70チーム。MRキャラも多数居る。各キャラにはレアリティ設定がされており、最強キャラがMR、続いてUR閃、UR、SSR、SR、Rと続く。このレアリティ設定がこのゲームでは非常にキャラの強さに反映されていて、またレアリティの高いキャラは購入価格も偉く高い。
一食同盟には、このMRキャラを4〜5体近く持って居る同盟員が沢山居る。まともにやり合っては先ず勝てない相手だ。
そんな中でも浩二の采配は、一食同盟から金屋根をもぎ取ると言うジャイアントキルを何度もやって居る。だから翡翠の同盟員はこいつを本当に信頼して居る。
また翡翠には浩二の他に、リリィさんと言うサブの軍師も居る。リリィさんは俺と浩二がまだ珍肉同盟に居る時から翡翠で軍師をしていた人で、リリィさんもかなり戦略に明るい。
「来たぞ浩二! イン数16人!」
「よし! 総攻撃開始だ!」
俺は持ちキャラから最強の主力数体を攻撃に参加させた、その時だった。
目の前でスマホがいきなり紅く強烈に輝く。
「うわ! 眩しい! 何だよ!?」
「UFO?」
「んな訳あるか! って何だよこれ!?」
俺と浩二はその光に飲み込まれた。
その頃、富士の裾野に広がる広大な樹海の一角に有る、とある研究施設、そこではこのゲーム内で起きた騒動についてが話し合われていた。
「どうだ、上手く行きそうか?」
「はい、現時点で異常は見られません」
「記憶に関しては、問題無いのか?」
「恐らくですが、多少の誤差などは見られる可能性は有りますが、概ね全て移行されて居ると思います」
「今回でそれなりの結果を出さないと、研究資金が著しく枯渇することになる。その事を忘れるなよ」
「畏まりました、必ず結果を出してご覧に入れます」
「所長、本部サーバーから転移確認したと報告が有りました」
「被験体の監視も強化する様に指示しておきなさい」
「わかりました」
持続可能な開発目標(SDGs:Sustainable Development Goals)
2001年に策定されたミレニアム開発目標(MDGs)別ウィンドウで開くの後継として,2015年9月の国連サミットで加盟国の全会一致で採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」に記載された,2030年までに持続可能でよりよい世界を目指す国際目標である。17のゴール・169のターゲットから構成され,地球上の「誰一人取り残さない(leave no one behind)」ことを誓って居る。
SDGsは発展途上国のみならず,先進国自身が取り組むユニバーサル(普遍的)なものであり,日本としても積極的に取り組んでいた。
と言うのがこのSDGsの説明だが、恐らくこの文章から誰一人として内容を理解出来る者は居ないだろう。だが、これは国連で全会一致で採択された物であり、日本もしっかりと関わって居るのだ。
そして内閣府のホームページ上にこんな一文が乗って居る。
ムーンショット目標1 2050年までに、人が身体、脳、空間、時間の制約から解放された社会を実現する。
アバター、つまり人は肉体から離れ、意識のみを任意のアバターに移し、そこで永遠に仮初の世界で生活を営む。これが日本と言う国が掲げたSDGsの目標であった。
「おい……..シャオリン、起きろ!」
シャオリン? なんだそれ? シャオリン………て、俺のゲーム内の名前じゃねえか!
「うわ!」
ゴン!
「「いて!」」
「いきなり起きるなよ!」
「いやシャオリンて、お前何言ってんだよこ……..」
何だ? 声が出ない…….浩二と言う名前が口に出せない!
「ダメなんだよ、なぜか名前で呼ぶのはダメで、ゲーム内の名前でじゃなきゃ声が出せないんだ」
「え? お前何言って……..ちょっと待て、ここ何処だよ? 俺たち公園に居たはずだろう?」
「みろ!」
浩二が指差した方向、そこには金屋根の、まるで三国志の時代の城としか思えない、とてつもなくデカい建物があった。
「…..嘘…だろう? 何だよこれ、夢だろう? こ…..アフロ、俺を思い切りぶん殴ってくれ」
「…..まあ、現実逃避して居る場合じゃなさそうだしな、行くぞ」
バキ!
「痛えじゃねえか!?」
「夢じゃない事は理解出来ただろう?」
そう、俺たちは放逐少女の世界、つまり三国志の世界らしき場所に入り込んでしまっていた。
「とりあえず城の方に行ってみるか? ここに居ても仕方ないだろう」
「…..ああ….でもどうなってんだ? 服装とかそう言うのは元のまま、だけど何でこんな所に俺たちは居るんだよ?」
「俺に聞くなよ、兎に角夢じゃ無い事は確か何だ。情報を集めなきゃ、帰る方法を何とか探らないとな」
「お前、本当に凄え奴だな」
「はあ? 何言ってんだお前」
「だってそうだろう? こんな状況でもお前は落ち着いて行動してる。正直俺は今にも錯乱しそうだよ」
「俺が落ち着いて行動して居るように見えるなら、お前は今から眼医者に行って来る事を強く進めるよ。正直俺だって暴れそうだ。でもまあ、とりあえず一人じゃなくて良かった。お前と一緒ならどうにか平静を保てる、ような気がする」
実はアフロ自身も相当参って居た。今置かれている状況を兎に角直ぐに把握して対策を考える。そう言う余裕が多少出来たのは、確かにシャオリンの存在が有ったからに他ならない。
「だけど、本当に俺達だけなのか? この世界が放逐少女の中だとしたら、傾国やってたの俺達だけじゃ無いだろう?」
「ああ、少なくとも同盟メンバーでインしていたのは16人、一食同盟にもかなり居た筈だ。他にも別の城で珍肉とか天下のメンバーも居た」
「とりあえず城の方に行けば何かわかるかもしれないな」
俺達は洛陽城らしき城の方へ歩いて居た。大分城に近づいて来た時、いきなり横から誰かに突き飛ばされた。
「危ない! それ以上城に近づくな!」
「いて!」
「うわ」
ザシュ!
そして今居た所を見ると、矢が数本地面に突き刺さって居る。
「何だよこれ!?」
「私もやられたんだよ、まあとりあえずこれのおかげで何とか凌げたけどね」
そこにはまるで、かつての武士の様な姿をした年配の男性と、その男性の持つ巨大な刀が俺たちの目に入った。
「神泉信綱?」
「え?」
確かにそうだ…..まるでこのおっさんの纏って居る衣装、そして巨大な刀は放逐少女のMRキャラ、神泉信綱そのものだ。
「私は恐らく君達と同じだ、残業中に抜け出して放逐少女の傾国戦をやって居たんだけどね、突然この世界に取り込まれてしまったんだよ。やはり私以外にも入り込んで居た人が居た様だね。私はガッキーZZ、翡翠同盟のメンバーだ」
「ガッキーさん!? 俺はアフロです、こいつはシャオリン」
「おお! アフロさんとシャオリンさんか、見た目は高校生くらいだな」
「でもガッキーさん、何でそんな格好を? まさか毎日それで、気分も傾国! とか?」
「いやいや勘弁してくれよ、そこまでのめり込んでは居ないよ。ポケットにこんな物が入って居てね、君達にも無いかい?」
ガッキーさんの出して来たのは、SSRキャラを登用出来る紅翡翠と言うアイテムにそっくりな物だ。そして俺もポケットを探って見ると…….
「あ! …….あった」
「強くそれを握り締めてご覧」
俺は言われた通りにしてみた。
「………..何も起こりませんよ? って! こ…..アフロ!」
「凄え! ……..これって」
「どう見ても楊戩だね」
確かにMRキャラの楊戩にそっくりだ。女性用の服を男性用にアレンジしてあるが、色合いや服の形は完全に楊戩だし、武器もそれだ。だが何故か俺には何も変化が見られない。
「シャオリンさんは変わらないね?」
「何か握り方とか有るんですか?」
「いや、普通に強く握り締めれば変わる事が出来るよ」
「まあとりあえず落ち着いてからそれは考えれば良い、とにかくこれで攻城してたメンバーが多分この辺りに居る可能性が出て来た。先ずは皆を探してみよう」
「でも城には入れないよ、何度も試みたが、同じ様に一定の距離に入ると、さっきみたいに矢が飛んでくる。私は剣術など使えないが、その矢を何故か防ぐ事は出来た。だが流石に誰かを守りながらと言うのは厳しい。それ程強烈な矢が大量に飛んでくる」
「ではもしあの矢に当たったら…..」
「一番初めに私は食らった、当然流血したし、毒矢だと言う事もわかった。皮膚の変色が凄かったからね。でも幾つか刀で捌いて居る内に、それは治った。その時に身体の周りに稲妻の様な物が見えた」
「あ! まさかスキル、月影」
「恐らく….私もそう理解したよ、流石はアフロさんだね」
月影と言うのは神泉信綱のスキルで、HPが60%以下に下がると、自身のデバフ状態を全て解除し、雷鎧を纏う。今回の場合は毒矢の攻撃が恐らくデバフ判定され解除、HPが削られ雷鎧を纏ったのだろう。
「つまりキャラの能力がついて、その能力を使用できると言う形になったんですね」
「そうとしか考えられないね、信じたくは無いが」
「兎に角インして居る同盟員がまだ居るかもしれない、矢の届かない範囲で城の周りを探してみよう」
「賛成だ」
俺達は一先ず矢が襲って来ない範囲で同盟員を探す事にした。暫く歩いて行くと、何やら戦闘音の様な物が聞こえて来た。
「ガッキーさん、あの音ってまさか!?」
「くそう! 明らかに戦闘音だ! 私が行こう、アフロさんはシャオリンさんをここで守れ! 変化する事を忘れるな!」
「わかりました!」
ガッキーさんは戦闘音がする方に走って行く。アフロは変化して、俺を守る様な立ち位置についた。
こんなの有りか? 何故俺は変化出来ない! 畜生! こんな所に来て皆の足手纏いかよ? ふざけんな! 畜生! 紅翡翠は有るのに、何が悪いってんだ! 何故俺だけ変化出来ない!




