第弐拾玖話 参
「お待たせ~! ごめんね、遅くなって!」
三人が来たのは、あと十分で電車が来る頃。
向こうのホームに行こうかと、話していた頃だった。
「ふぅ。疲れた」
「美穂さん大丈夫? 帰りは、俺たち歩いて帰るよ」
「いやいや、送るよ。任せなさい」
「高坂先輩、無理しないでください。僕たちなら、大丈夫なので!」
顔を見合わせる私たちを他所に、三人は言い合いを続ける。
「あの~。皆さん? そろそろ向こうのホームに行かないと、電車来ちゃうよ?」
私の声は聞こえているのか、いないのか。
高坂先輩が、時計を確認してくれたおかげで、響希君たちは切符を買ってくれた。
「いやいや。慣れないことは、やるもんじゃないね」
「美穂さん、運転してきたの?」
「うん。流石に歩いてたら、熱中症になっちゃうでしょ? 駅までだけど、運転出来るしね」
「高坂先輩、免許取ってたんですか!?」
「うん。四月生まれだから、高三の夏休みから車学に行ってたの。免許を取ったのは、冬休み入ってすぐ、だったかな」
「ええ!? 高坂先輩って、何者なんですか!?」
「ん~。ただの人間」
向こうのホームに向かう通路を歩きながら、私たち女子組で話している。
男子組は、私たちのことはお構い無し。
さっさとホームにたどり着いていた。
「男子って、いつまで経っても子どもだよね」
「アハハ。そうだね。吾妻さんの言う通りかも」
「響希君は年下だけど、しっかりしてるよ? お家のこと、考えてるみたいだし」
「響希君のお家、ジュエリーショップだって、聞きました」
「え!? 月島の家、ジュエリーショップやってんの!?」
「そうだよ。みずきちゃんは、知らなかった? 響希君が跡取りなんだよ」
「マジか……」
なんて話していると、男子組が慌てたような声を出す。
その声に反応した私たちも、その光景を窺う。
「舜氏!? どした!?」
「級長!?」
「あ、妖かな!? 僕たちの近くにはいないんだけど……」
「向こうに、何かいる……。今まで、感じたこと、無い、妖の、気配」
しゃがみ込んだ須崎さんは、正面口ホームを指差しながら、何やら呟いている。
正面口のホームをよく見ると、いつか会ったことのある、涼しげな着物姿の……。
「あ、私知ってる。確か絵師をしてる、土地神の……」
「りんちゃんの知り合い?」
「うん。六月にね、ちょっとその妖を探してたの」
「土地神が何で、こんな所に来てるんだ?」
「絵を描く為に、来たとかかな? でも、何で駅にいるんだろう」
件の土地神こと、カルマ様は、向かいのホームから何処か遠くを見つめている。
恐らくだけど、私には気付いていない。
電車が来て、乗り込んだ私たちは、カルマ様が何を見ていたのか、知らないまま。
「ハァ。ハァ。ハァ」
「須崎さん、大丈夫ですか?」
「はい。少し落ち着いてきました。土地神と知り合いなんて、凄いですね。雪村さん」
「いえいえ。妖と関わる機会が多いだけです」
並んで座れるだけのスペースが空いていて、私たちは小声で話しながら、目的地の最寄り駅を目指すのだった。




