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紅蓮荘奇譚 弐  作者: 天城なぎさ
第弐拾玖話 異界転移
87/95

第弐拾玖話 参

「お待たせ~! ごめんね、遅くなって!」


 三人が来たのは、あと十分で電車が来る頃。

 向こうのホームに行こうかと、話していた頃だった。


「ふぅ。疲れた」

「美穂さん大丈夫? 帰りは、俺たち歩いて帰るよ」

「いやいや、送るよ。任せなさい」

「高坂先輩、無理しないでください。僕たちなら、大丈夫なので!」


 顔を見合わせる私たちを他所に、三人は言い合いを続ける。


「あの~。皆さん? そろそろ向こうのホームに行かないと、電車来ちゃうよ?」


 私の声は聞こえているのか、いないのか。

 高坂先輩が、時計を確認してくれたおかげで、響希君たちは切符を買ってくれた。


「いやいや。慣れないことは、やるもんじゃないね」

「美穂さん、運転してきたの?」

「うん。流石に歩いてたら、熱中症になっちゃうでしょ? 駅までだけど、運転出来るしね」

「高坂先輩、免許取ってたんですか!?」

「うん。四月生まれだから、高三の夏休みから車学(しゃがく)に行ってたの。免許を取ったのは、冬休み入ってすぐ、だったかな」

「ええ!? 高坂先輩って、何者なんですか!?」

「ん~。ただの人間」


 向こうのホームに向かう通路を歩きながら、私たち女子組で話している。

 男子組は、私たちのことはお構い無し。

 さっさとホームにたどり着いていた。


「男子って、いつまで経っても子どもだよね」

「アハハ。そうだね。吾妻さんの言う通りかも」

「響希君は年下だけど、しっかりしてるよ? お家のこと、考えてるみたいだし」

「響希君のお家、ジュエリーショップだって、聞きました」

「え!? 月島の家、ジュエリーショップやってんの!?」

「そうだよ。みずきちゃんは、知らなかった? 響希君が跡取りなんだよ」

「マジか……」


 なんて話していると、男子組が慌てたような声を出す。

 その声に反応した私たちも、その光景を窺う。


「舜氏!? どした!?」

「級長!?」

「あ、妖かな!? 僕たちの近くにはいないんだけど……」

「向こうに、何かいる……。今まで、感じたこと、無い、妖の、気配」


 しゃがみ込んだ須崎さんは、正面口ホームを指差しながら、何やら呟いている。

 正面口のホームをよく見ると、いつか会ったことのある、涼しげな着物姿の……。


「あ、私知ってる。確か絵師をしてる、土地神の……」

「りんちゃんの知り合い?」

「うん。六月にね、ちょっとその妖を探してたの」

「土地神が何で、こんな所に来てるんだ?」

「絵を描く為に、来たとかかな? でも、何で駅にいるんだろう」


 件の土地神こと、カルマ様は、向かいのホームから何処か遠くを見つめている。

 恐らくだけど、私には気付いていない。


 電車が来て、乗り込んだ私たちは、カルマ様が何を見ていたのか、知らないまま。


「ハァ。ハァ。ハァ」

「須崎さん、大丈夫ですか?」

「はい。少し落ち着いてきました。土地神と知り合いなんて、凄いですね。雪村さん」

「いえいえ。妖と関わる機会が多いだけです」


 並んで座れるだけのスペースが空いていて、私たちは小声で話しながら、目的地の最寄り駅を目指すのだった。

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