第弐拾玖話 壱
「この状況、あの都市伝説と同じだよね? 私たち、異世界に来た……」
「異世界転移しちゃったってこと? 僕たち、帰れるの?」
「どうなるか。だな。えっ、ちょっと美穂さん!? どこ行くんですか!?」
「都市伝説通りなら、ホームを離れなきゃ。待ってても、電車は来ないよ」
「あたしも、美穂さんに賛成。帰れる方法は誰も分からないんだしさ」
「みずきや高坂先輩の言う通りかもしれないけど、迂闊に離れるのは、どうなんだろう」
「電車が来るのか分からないなら、ここから離れた方が良くね? ここにいたって、誰もいないし、時間だけが過ぎてくだけじゃん」
見慣れない色の暗い空の下、線路と無人のホーム、周りは背高草が広がり、小高い山が少し離れた所にそびえている。
ここは異世界だと、直感的に感じてしまった。
どうして、こうなってしまったのか。
私たちはトリプルデート(僚君は付き添い)をして、帰る所だったのに。
乗るべき電車は、間違えていないはずだった。
***
「せっかくの夏休みですよ、皆さん!」
それは、私の彼氏である、桃麻の一言から始まったと言っても、過言ではない。
ファミレスに集まった私たち七人。
高坂先輩のアルバイトが偶然休みで、高坂先輩も誘ってのランチだった、とある水曜日のこと。
「皆で、トリプルデートしない?! 僚氏も一緒にさ!」
僚君以外ここにいる六人は、それぞれ、私と桃麻、吾妻さんと須崎さん、響希君と高坂先輩で、交際している。
「僕も行くの!? えっ!? 邪魔するだけじゃん!!」
「僚氏を除け者にしたくない! 一緒に行こう!」
「笹本。どこに行くとか決めてないのに、話が早すぎるよ」
「そうだよ、桃麻。場所によっては、僚君が気まずくなるだけだよ?」
すると、桃麻は何やら折り畳まれた、一枚のチラシを取り出した。
何やらバラや、子犬やら子猫やら、ウサギやらが一枚のチラシの中に印刷されている。
「実はさ、新潟市に《ガーデン&ふれあいパーク キュアライフ》ってのが、六月に開園したんだよ」
「あ、知ってる! ここってイングリッシュガーデンが綺麗で、ウサギとかモルモットとか小動物と触れ合えるんだよね!」
「高坂先輩、行ったことあるんですか?」
「専門学校のクラスメイトが行ったんだ。もうね、癒されたって。フードコートも充実してて、観葉植物やペットフードの販売所もあるんだって」
そう言うと、高坂先輩は、スマホの画面を私たちに見せてくれた。
「このウサギなんて、世界一大きい種類で。行った時には、寝てたみたい」
「ウサギは夜行性ですし。昼間は寝てても、おかしくないです」
「舜君、物知りだね~」
「美穂さん!? 舜氏、自惚れるなよ!?」
「自惚れてないよ。それで、いつ行く?」
「お、級長、乗り気じゃーん」
高坂先輩のアルバイトのお休みが、翌週の水曜日から金曜日までとのことで、それならと、皆の予定を合わせていく。
そして。
「それじゃあ、水曜日にけってーい!」




