第拾捌話 陸
二階に行き、しばらく掃除をしていない書庫へ向かった私たち。
埃まみれの書物たちのために、掃除をしよう。
「数ヶ月間も掃除してないから、埃がすごいね」
「僕たちだけじゃ、終わりそうにないかも」
「あ、そうだ。僚君」
「何? どうかした?」
「後で斑牙と話をしたいの。良いかな?」
「僕は構わないよ。早く終わらせようか」
雨が降っているから、窓は開けられない。代わりに出入口の扉を開け放って、掃除開始。
「はぁ。何でシキはやってくれないのかねぇ」
「忙しいんだよ。きっと」
「僕だけででも、やっておけばよかったね。ごめん、りんちゃん」
「気にしないで。僚君が言ってくれなきゃ、私だって掃除しなかったよ」
「もう! りんちゃんまで!」
踏み台に乗り、ハタキを使って本棚の上の埃を払っていく。
窓際の本棚の上に、見たことのない紙人形が置いてあり、手に取ると、微かな鼓動が感じられる。
「何だろう……。ねぇ、僚君」
「どうしたの? ん? それ何?」
「紙人形がこの上にあったの。微かに鼓動を感じるんだけど、何だろうね」
少し離れた所でハタキを掛けている、僚君に聞いてみた。
こちらに来てくれた僚君に紙人形を渡すものの、僚君も分からない様子。
「うーん。僕も分からない。確かに鼓動を感じるし、妖なのかも定かではないね」
「だよね。シキに聞いてみようか」
「何か分かるかもね。もしかしたら、織喜成かもしれないし」
僚君が言い放った言葉に、私たちの間には無言の間が。
そんな時、キノカサの気配を感じ、開け放った入り口に目をやる。
『ここに居たのか。ん? それは……?』
「キノカサ。あのさ、この紙人形を知ってる?」
『紙人形? 何処にあった?』
「りんちゃんが見つけたんだ。あそこの棚の上だよ」
僚君がキノカサに紙人形を見せても、キノカサも分からなそう。
『この紙人形は、俺が預かる。シキなら、何か知っているかもしれないからな』
「お願いします、キノカサ。シキは何処かにお出掛け中?」
『隣町に行くと言って、出ていった。恐らく戸真郷山の裾野だろう。狐の集まりがあるとか何とか』
「気になるねぇ。ね、りんちゃん」
「え、あ、うん。気になるね」
『手伝いたいのだが、これから少し巾王神社に行かねばならない。すまんな』
狐の集まりとは何なのか、私たちには分からない。
きっと、人間で言うところの、友達で集まってお喋りする。そんな感じなんだと思う。
「僕の方はもうすぐ終わるけど、りんちゃんは?」
「あと拭いて、掃けば終わりだよ。もうすぐ終われるかな」
「そっか。ちょっとだけ、出掛けてきても良いかな? 雨が上がったみたいだから、ちょっとだけ。森の外にいるね。僕がやってた所は、そのままにしてて。戻ったらすぐにやるから」
そう言い残すと、僚君は書庫から出ていってしまった。
静かな書庫で一人、掃除を続ける。
窓の外は雨が上がり、雲の隙間から射し込む太陽の光りが、朧池周辺を幻想的な世界へと、変えていた。