表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅蓮荘奇譚 弐  作者: 天城なぎさ
第拾捌話 甘く苦く、雨は降る。
6/95

第拾捌話 陸

 二階に行き、しばらく掃除をしていない書庫へ向かった私たち。

 埃まみれの書物たちのために、掃除をしよう。


「数ヶ月間も掃除してないから、埃がすごいね」

「僕たちだけじゃ、終わりそうにないかも」

「あ、そうだ。(つかさ)君」

「何? どうかした?」

「後で斑牙と話をしたいの。良いかな?」

「僕は構わないよ。早く終わらせようか」


 雨が降っているから、窓は開けられない。代わりに出入口の扉を開け放って、掃除開始。


「はぁ。何でシキはやってくれないのかねぇ」

「忙しいんだよ。きっと」

「僕だけででも、やっておけばよかったね。ごめん、りんちゃん」

「気にしないで。(つかさ)君が言ってくれなきゃ、私だって掃除しなかったよ」

「もう! りんちゃんまで!」


 踏み台に乗り、ハタキを使って本棚の上の埃を払っていく。

 窓際の本棚の上に、見たことのない紙人形が置いてあり、手に取ると、微かな鼓動が感じられる。


「何だろう……。ねぇ、(つかさ)君」

「どうしたの? ん? それ何?」

「紙人形がこの上にあったの。微かに鼓動を感じるんだけど、何だろうね」


 少し離れた所でハタキを掛けている、(つかさ)君に聞いてみた。

 こちらに来てくれた(つかさ)君に紙人形を渡すものの、(つかさ)君も分からない様子。


「うーん。僕も分からない。確かに鼓動を感じるし、妖なのかも定かではないね」

「だよね。シキに聞いてみようか」

「何か分かるかもね。もしかしたら、織喜成(しきなり)かもしれないし」


 (つかさ)君が言い放った言葉に、私たちの間には無言の()が。

 そんな時、キノカサの気配を感じ、開け放った入り口に目をやる。


『ここに居たのか。ん? それは……?』

「キノカサ。あのさ、この紙人形を知ってる?」

『紙人形? 何処にあった?』

「りんちゃんが見つけたんだ。あそこの棚の上だよ」


 (つかさ)君がキノカサに紙人形を見せても、キノカサも分からなそう。


『この紙人形は、俺が預かる。シキなら、何か知っているかもしれないからな』

「お願いします、キノカサ。シキは何処かにお出掛け中?」

『隣町に行くと言って、出ていった。恐らく戸真郷(とまごう)山の裾野だろう。狐の集まりがあるとか何とか』

「気になるねぇ。ね、りんちゃん」

「え、あ、うん。気になるね」

『手伝いたいのだが、これから少し巾王(きんおう)神社に行かねばならない。すまんな』


 狐の集まりとは何なのか、私たちには分からない。

 きっと、人間で言うところの、友達で集まってお喋りする。そんな感じなんだと思う。


「僕の方はもうすぐ終わるけど、りんちゃんは?」

「あと拭いて、掃けば終わりだよ。もうすぐ終われるかな」

「そっか。ちょっとだけ、出掛けてきても良いかな? 雨が上がったみたいだから、ちょっとだけ。森の外にいるね。僕がやってた所は、そのままにしてて。戻ったらすぐにやるから」


 そう言い残すと、(つかさ)君は書庫から出ていってしまった。

 静かな書庫で一人、掃除を続ける。


 窓の外は雨が上がり、雲の隙間から射し込む太陽の光りが、朧池周辺を幻想的な世界へと、変えていた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ