表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紅蓮荘奇譚 弐  作者: 天城なぎさ
第拾捌話 甘く苦く、雨は降る。
4/95

第拾捌話 肆

 その日の夜は、雨が続いていた。数年に一度の珍しい気象に、少し不安になったりもする。


『華鈴。雨、止まないね。明日も降り続くのかな?』

「まだまだ降り続きそうだね」

『テーブルに置いてあるお菓子食べていい?』

「白牙の口に合うか分からないよ?」

『大抵の物は美味しいから、大丈夫』


 自室のテーブルに置いている、少し苦めなチョコレートに、私の式神である、白い妖犬の白牙。

 ヒョイっと口に運ぶと、顔をしかめている。


『苦いね。これ、西洋のお菓子だよね。甘い香りがしてたのに、甘くないね』

「白牙には苦かったかな」

『うん。甘いお菓子が好き』

「そうだよね。今度、甘いお菓子買ってくるね」

『やったー!』


 ピョンピョンと、部屋中を跳ね回る白牙を見ていると、何故だか微笑ましい。

 だけど、私には気になることがある。


「白牙はさ、人間に恋したことある?」


 昨年出会った妖の中には、人間に恋をしていた妖がいた。

 キョウカ様がそうだし、初めて霞ヶ森に入った後、すぐに出会った妖も恐らく。

 人間は人間に恋をするけれど、人間と妖の恋はどうなんだろう。


『ボクは無いけど。斑牙(はんが)姐さんが昔、式神になる前なんだけどね。人間に恋をしていたらしいよ』

「斑牙が?」

『そうだよ。昔の話だからね。ボクが斑牙姐さんと出会う前だよ。明日も行くんでしょ? (つかさ)も来るなら、聞けるかもよ』

「聞いてみるね。ありがとう、白牙」


 苦いチョコレートを食べながら、人間と妖の恋について考えてみるけれど、私には分からないこと。

 人間同士の恋も複雑だから、お互い様なのかもしれない。


『どうして、そんなこと聞くの?』

「えっ、えっと。出会った妖たちの中には、人間に恋をしていた妖もいたでしょ。だから、妖にも恋愛感情があるんだなぁって思ったの」

『よくあることじゃないかな。人間の昔話だっけ? そういう話があるでしょ』

「深く考え過ぎなのかな。チョコレート、食べちゃうね」


 あの女妖も、人間の男性に恋をしていたんだと思う。何らかの事情で会えなくなり、霞ヶ森に来たんだ。

 勝手にそう思ってしまって、当事者の了承もなしに、会いに行って良いのだろうか。


『華鈴? かーりーん!』

「えっ、何?」

『四角い板から、音がするよ』

「ありがとう、白牙」


 チョコレートの隣に置いていた、スマホの着信音が鳴っていた。

 考え事をしていて聞こえていなかったけれど、白牙が教えてくれて、すぐに確認する。

 画面には、須崎さんの名前が。


「もしもし。雪村です」

『夜遅くにすみません。雪村さんにも、直接お話ししたくて』

「何ですか?」

『あの家、取り壊し日時が変わったんです』

「元々、四月初めでしたよね。早まったんですか?」

『はい。今月末に変わりました。もうすぐなんです。ですが、取り壊しが決まってから、敷地内に入れなくて』

「妖たちは知らないことになりますね。明日、色々考えてみます。ありがとうございます。須崎さん」


 電話を切り、少し苦めのチョコレートを口にする。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ