■第26話 『美青年と麻袋の男』
■第26話 『美青年と麻袋の男』
和人たちが滞在することになる王国。
和人が呟いていた『まるでゲームの世界のようだ』と言う街。
夕暮れ時の曙色も過ぎ去り、空は瞑色に染まっている。
『夕方』から『夜』へと切り替わる時刻だ。
街並みは美しく、レンガや石造り作られた建物が綺麗に立ち並ぶ。
石畳みの歩道は、碁盤の目のように敷かれきっちり区画を分ける。
無駄が無く、景観も美しく、そして、機能的にも申し分ない。
まさに三拍子そろった街並みである。
だが、その『美しく整備された街並み』は、ごく一部の『範囲』である。
その『範囲』とは、城下町周辺までの領域でしかない。
『貧富の差』というものは、和人が辿り着いたこの異世界においても、存在していた。
城下町周辺から離れた区画には『貧民街』と呼ばれるエリアがある。
『貧困層』が住む区画。
治安が悪く、強盗、喧嘩、売春は当然である。
暴行、誘拐、そして殺人なども珍しくはない。
これらの行動は、人間の醜い面であることは間違いないと言える。
だが、この区画に住む者たちにとっては間違いではない。
それらの『犯罪行為』が当然のこととして、まかり通っている。
理由はごく単純なものでしかない。
それは、彼らはただ、食べること、生きることに必死なだけなのである。
生き残るためには、なりふりなど構っていられず、ましてや、他人のことなど考える余裕すら無いのだ。
しかし、それでは互いに殺し合い、奪い合うだけの無法地帯に成り下がってしまう。
それでは社会というのは形成されず、まして、維持することもできない。
故に、人間の社会ではルールが必要とされている。
『ルール』・・・それは様々な形を持っている。
『法律』『人権』『権利』『約款』『契約』などなど・・
名称も様々であり、性質も様々である。
この多様に形を変えて存在する『ルール』があり、人間の社会というものは構成されている。
では、貧民街では、一体何を持ってルールたらしめているのか?
それは『単純な法則』のルールだ。
ここでのルールは『弱肉強食』である。
弱肉強食とは、文字通りであり『弱者は強者の糧』となる、単純な法則だ。
しかし、この貧民街における『弱肉強食』とは『自然界』のものとは違うことを先に述べておく。
『魔物』や『動物』たちのものとは『理』が違う。
人間が持つ、質の悪い部分。
それが加わることにより、弱肉強食という純粋な法則から、ねじ曲がった別の法則が出来上がるのだ。
ライオンとトラが徒党を組んで行動するだろうか?
そんなことは起こり得ない。
しかし、人間とは互いの利益を追求するため、欲望を追求するため、強者が手を組むのだ。
腐敗した権威と暴力が付随することにより、弱者が自力で状況を打開することは困難となる。
力を持つものが徒党を組み、掟を作って縛り付け、弱者をさらに弱化させる。
それにより、弱者が負のループから這い上がることを出来なくするのだ。
抗う力を奪い、飼い殺しのような状態に陥らせる。
これこそが、この貧民街の現状である。
これは最早、本来の『純粋な弱肉強食』とは違った意味合いのものである。
その腐敗を打開するためには、腐敗した権威に立ち向かわなければ、変わることは無い。
だが、それも実現するには難しいものである。
例えてみよう。
勇敢な狼が一匹いたとする。彼は強く、勇敢な狼である。
そして、彼は腐敗に抗ったとする。腐敗した権威を例えるならば、100匹の徒党を組んだ野犬である。
つまり、100体1である。
結果は見るまでもない。
たった一匹で挑んだ勇敢な狼は、散ってしまうだろう。
…それが、現実である。
――――――――――
ゴミで散乱している貧民街の通路。
道沿いには売春婦が立ち並び、物乞いの老人が汚れた茣蓙に座る。
怪しい物を売っているガラの悪い男、チンピラという言葉が似合う客引きらしき男。
ボロボロの服をまとった少年少女が通路を逃げるように走り去り、
子どもたちの後を、中年の男が「待て!」と叫びなら走って追いかけている。
まさに、混沌とした環境である。
だが…この掃き溜めのような場所に似つかわしくない、身なりの良い2人の男が歩いていた。
一人は爽やかな笑顔の青年。
顔だちも整っており、女性がため息を漏らしてしまうほどの美青年だ。
年齢は20歳程だろう。
美しい金髪に、まるでトパーズのように透き通った黄色い瞳。
身長は175cm程。まるで現代世界のスーツのような洋服を着ており、細身の身体のラインが見える。
彼は、絶えず爽やかな笑顔を浮かべていた。
だが、彼に声を掛ける女性は居ない。
ここは貧民街であり、淑女と呼ばれる女性など居ないということもあるだろう。しかし、それが理由ではない。
客引きで道端に立っている、売春業の女性すらも声を掛けようとはしていないのだ。
その理由は、単純である。
彼の隣を歩く、もう一人の男が『異様な出で立ち』だからだ。
その異様な男は『麻袋』を頭にスッポリと被っていた。
体格は180cmほどで少し大きい。
彼の服装は美青年とは違い、こちらの異世界の正装らしい紳士的な服装で、清潔だ。
デザイン性はタキシードに近いものだ。
その身なりの『紳士さ』『清潔さ』と、頭の麻袋の『異質さ』が相まって、余計に恐ろしい存在に見える。
だが、おかしいのはそれだけではない。
その男の歩き方が、実に奇妙なのである。
まるで、ロボットダンスやパントマイムでもしているかのように、小刻みに揺れながら歩いているのだ。
しかも、小声で「ボソボソ」と呟き続けている。
何と呟いているのかは聞き取れないほどの小声だ。
勿論、彼らは人目を引いた。
彼らの姿を見た貧民街の住人達は、当然と言える反応をしている。
彼らが通り過ぎていくと、住人達は必ず振り返り、ヒソヒソとその異質さを話し合う。
物乞いたちは驚き――
「ひっ・・・な、なんだ?」「あんだぁ?イカレタやつらだなぁ」
売春婦たちは無関心を装い――
「ちょっと~・・気味悪いわね」「し!聞こえるわよ、今こっち見たわ」
ゴロつきたちは警戒する――
「おい、衛兵呼ぶか?」「いや、衛兵を呼んだら、やべぇ。ここはボスに報告した方が・・」
それだけ目立つ存在であり、関わりたくない異様な雰囲気を醸し出しているのだ。
だが…『間の悪い人間』というものは存在する。
運命とは、何故そのような『間』を作り出してしまうのか。
間の悪さ…それは本当に運が悪かったのだ、としか言いようがないものだ。
決して、その人が悪い訳では無い。
…いや。もしかしたら、この場合は『巡り巡った因果』と言えるのかもしれない。
女性の裸体が描かれた『如何わしい看板』で飾られた建物が見える。
そのドアの横を、この『異質な2人の男』が通り掛かった瞬間に、ドアが勢いよく『バーン!』と開いたのだ。
そして、ドアから『半裸の女性』と『大柄な男』が、『異質な2人の男』の前に飛び出した。
「オラ!てめぇ!昨日は稼げてねぇんだ!今日は昨日のノルマも合わせて稼いで来いや!じゃなきゃ、ぶっ殺すぞ!分かったか!あぁ!!?」
ガラの悪い男が、ほとんど裸と言えるような服装の女性を恫喝していた。
そして、男は彼女の腹部に容赦なく拳を見舞う。
ボグゥッ!!
「あぐ!!ウゲェェ・・ゲホ・・・や、やめて・・・・」
彼女は、胃の中身を戻しそうな嗚咽に苦しみ、男に慈悲を乞う。
「へへ・・顔は商売道具だかんな。おれぁ優しいだろ?腹で勘弁してやるぜぇ。いいか?今日は倍稼いで来いよ?」
男は女性の髪をグイッ!と引っ張り上げた。
彼女の顔が苦悶に染まる。
「ぐぁ・・・」
「もし、稼げなかったら、一晩中ぶん殴ってやるからなぁ!!おい!分かったか!?メスブタがぁ!!!ペッ!」
男は女性の顔に唾を吐きかけ、髪を引っ張って地面に叩きつけるように頬り投げた。
ズシャァ!と擦る音が響き、女性は地面を滑る。
そして、彼女は異質な2人の正面に倒れ込む形となった。
「あ・・・ぐ・・・」
「おや?大丈夫ですか?マダム」
目の前に倒れ込んできた半裸の女性に、美青年が手を差し伸べた。
彼女は、美青年の美しさと身なりの良さに、若干混乱している様子だった。
それもそのはずである。このような貧民街には似つかわしくない存在なのだ。
彼女は混乱したまま、差し伸べられた青年の手を、つい反射的に取ってしまう。
「酷い怪我をしてますね。美しい顔と体が、台無しじゃありませんか」
青年が言う通り、女性は美しい容姿だった。
それだけではなく、男性の目を引くような艶めかしい体つきだ。
だが、彼女の体は痣だらけであり、見ているだけで痛々しい。
何よりも、彼女の目には『生気』というものが無かった。
「ひ!?・・・ダメよ・・・逃げて・・・・」
女性は『何か』を思い出したかのように、青年の手をパシッ!と、まるで拒否するかのように突き放した。
それは、彼女の良心がそうさせた行動だったのだろう。
青年が女性の手を取ったのを、大男は黙って見ていた。
そして、ニンマリとほくそ笑みながら、大男は青年の前に立つ。
「おい!てめぇ!その女はなぁ!商品なんだよ!勝手に触んじゃねー!」
道理が通っていない理屈を、大男は嬉々として喋り始める。
美青年は少し困ったような顔で、彼に問い直した。
「勝手に触るなと言われましても・・・怪我をした女性に手を差し伸べるのは、紳士として当然なのではありませんか?」
「んだぁ?てめぇ・・・・おお?」
大男は美青年の服装をまじまじと見つめ、何を察したのかニヤリと下品な笑顔を浮かべる。
「もしかして、てめぇ、金持ちのボンボンか?ゲハハ!だったら丁度いいや。おい!おめぇ、さっきこいつに触ったよなぁ?だったら、もう商品に手を付けたってこった。ほれ、金払えや。今なら安くしとくぜ?」
大男は、右手の指をクイクイと曲げ、金を寄こせと催促した。
だが、その仕草を見た青年は、何故か空を仰ぐように上を見上げてしまう。
そして、彼は視線をゆっくりと移動させていく。
先ずは上空、次は痣だらけの女性。その次に大男のクイクイと動く指、そして、最後は大男の顔へ。
視線を順繰りと、ゆっくり移動させた。
「お金ですか?お金とは貨幣のことですよね・・・助けるために手を差し伸べるには、貨幣が必要なのですか?」
「助けてねぇよ。てめぇは、俺らの売りモンに触ったの。分かる?」
「すみませんが、あなたの仰ることが理解できません」
「馬鹿かてめぇ?・・・・ったく。これだからボンボンはよぉ」
大男は頭をポリポリと掻き、ハァと大きくため息をついた。
そして、徐に拳を握り、ポキポキと威嚇の音を鳴らす。
大男が演じる一連の様子を、美青年は一部始終、瞬きすることなく観察していた。
「・・・ああ!?そうか!分かりました!」
大男が拳を握りながら近づくと、美青年はトパーズのような美しい黄色の瞳をクワっと見開いた。
そして、急に「わかった!」と大声を上げので、拳を握った大男も思わず驚いてしまう。
「うお!?・・・・んだよ。やぁっと理解してくれたかぁ?おぼっちゃんよぉ」
「はい。理解できました」
「ゲハハ!そいつぁ嬉しいねぇ。うっし、そんじゃあ、『金を――」
大男は下品な笑い声をあげ、自分の決め台詞である『金を寄こせ』という言葉を発しようとしていた。
だが…これ以降、大男は二度とその決め台詞を喋ることは出来無くなる。
美青年は、大男の発言を遮るような形で言葉を発した。
「あなたには、僕の言葉が通じてないのですね。言葉が通じないほど、知能が低いっていうことかもしれません」
「あん?・・・おい、てめぇ、今なんつった?」
「あっははは!やはり通じていないんだ・・・・面白いな。蟻に倫理を問うても分からないのと同じなのかな?あなたは人間のハズなのに。これは興味深い」
青年は独り言のように呟きながら、大男の周りをスタスタと歩き、様々な角度から観察している。
まるで、動物園にいる動物を、楽しみながら観察しているような雰囲気だ。
大男のこめかみには怒りの血管がビキビキと浮き出ている。
「・・・おい、クソガキ。調子こいてんのか?・・・・まさか、隣のきめぇ麻袋野郎が居るから、安心してんのかよ?」
「あ!?そうか・・・人間って進化したはずだけど、発展にも個体差があるってことなのかな?あと、蟻と同じって言っても、蟻も自然摂理に則って行動してるし・・・ブツブツ」
青年は、大男の威嚇など無視し、独り言を呟きながら思案に耽っていた。
その姿を見て、大男の頭からプチっと音が鳴る。
怒りを叫びながら、大男は体重を乗せた『右ストレート』を青年に繰り出した。
「・・・っっざっけんなやぁぁっ!!!ゴルァァァッ!!!」
「あはは、面白いなぁ~。もっと調べたい・・・」
爽やかに笑った青年の黄色い瞳が、怪しく光る。
そして…風を切るような小さな音が響いた。
ピッ!
「あれ?・・あたってねぇ??」
思い切り振り抜いたはずの大男の拳は、青年に届いていなかった。
大男には理解できなかった。十分接近しているはずなのに、なぜか拳が青年に届いていないのだ。
しかし、数秒ほど遅れて、彼はその理由を知ることになる。
ズルゥ・・・ネチャァ・・・
「あん?・・・なんだぁ?」
水っぽいものが滑るような、粘着質な音が聞こえるのだ。
そして…その音は、自分の腕から出ていることに気づく。
「・・ぐ・・グギャアアアァ!!」
ズルルゥ・・・・ドチャ!
拳を繰り出した右腕の『肘から下』が、ズルリと地面に滑り落ちた。
腕の切断面は、実に綺麗で美しかった。痛みを感じなかったほど、見事に切り落とされたのだ。
「イ、イデェェェェ!イデェェよおぉぉ!!」
大男は泣き叫び、右腕を抱え込みながら、地面にうずくまった。
「ひ・・・ひぃぃーーーー!!」
地面につっぷしていた、痣だらけの女性も悲鳴を上げる。
その悲鳴は、静かな貧民街の通路にこだました。
悲鳴を聞き『如何わしい看板の建物』から、チンピラたちがゾロゾロと駆け出してくる。
当然、気づいたのはチンピラたちだけでは無い。数名の野次馬たちも、遠目から事態を眺めていた。
「どうしたぁ!?」「おい!なんだ!!?」
建物から勢いよく飛び出したのは、6人のガラの悪い連中だ。
チンピラ6人は『何事か』と叫びながら、いきり立っている。
彼ら『チンピラたち』が持つ『自信』はどこから来るのか、それは実に単純なことから来ている。
彼らは、暴力で周囲をねじ伏せてきた狂暴な男たちである。
そのため、流血沙汰には慣れており、彼らにもその自覚と、歪んだ自負があった。
ちょっとやそっとのことでは物怖じしない。そんな奴らなのだ。
…だが、その下劣で無法者な男たちが、目の前の出来事を目撃し、一瞬で凍り付いてしまったのだ。
「う~ん・・・あれれ?おかしいなぁ・・・脳は普通だなぁ。ただ皺が少ないだけだ。これだと、単に学習と経験が少ないだけってことかな?」
美青年は大男の周囲をクルクルと歩き回り、大男の頭部を中心に観察していた。
ただ…それこそが異常であり、ゴロツキたちが恐怖で凍り付いたものである。
何故ならば‥‥
大男の『頭部』は、鼻から上半分が無く、『脳』が剥き出しにされていたのだ。
更に異常なのは、脳が無傷の状態なこと。まるで『綺麗に上半分の殻を向かれた茹で卵』のようだった。
美青年は、その『綺麗な脳』をグルっと回り込みながら観察していたのだ…楽し気に笑いながら。
「おいっ!!!」
凍り付いて固まったチンピラたちの中に、一人、美青年と麻袋の男に向かって恫喝する男が居た。
その「おい!」と発した声は『虚勢』であったのか、或いは『鼓舞』であったのか…それは、彼にしか分からない。
「お、お頭!?」「お頭ぁ!?」
チンピラたちが、恫喝した男を『お頭』と呼んだ。
つまりは、当たり前のことだが、このゴロツキ達のボスである。
お頭は、異質な2人に対し、威嚇の言葉を浴びせ続けた。
「おい!てめぇらぁ!・・・・越えちゃなんねぇ線を越えたなぁ?」
腰に下げた剣を抜き、お頭は顎をクイっと動かした。
「おい!こいつら『囲め』や!!」
お頭の『囲め』という指示のもと、ゴロツキたちは、異質な2人を瞬時に取り囲んだ。
「おうよ!」「うす!お頭!!」「ぶち殺すぞ!?オラァ!!」
そして、2人を威嚇するように、彼らは吠えたてる。
「は・・・て、てめぇらぁ・・もう生きてかえれねぇかんなぁ!」
「・・な、なめんじゃねぇぞ!ゴルァ!!」
だが、彼らの声には『威勢だけ』では隠しきれぬ、『恐怖の感情』が混じっていた。
目の前の惨劇…それはとても人間がやったとは思えないものだ。
それを目撃し、恐怖しない人間は居ない。
だが、それでも、お頭は威勢を失わずに、2人を威嚇し続けた。
「てめぇら、ただじゃ殺さねぇからな・・『両腕両足』をぶった切ってから、『なます切り』にして殺してやるぜ」
普通の人間であれば、このような無法者に対し、恐怖するだろう。
お頭の目を見れば、殺人など経験済みというのが感じ取れるからだ。
…だが、美青年と麻袋の男は、全くお頭の脅しを聞いてはいなかった。
聞いていないというより、気にも留めていないのだ。
まるで、チンピラたちが存在していないかのような振る舞いである。
美青年は、道に突っ伏している女性に手を差し伸べ、彼女の顔を拭いてあげていた。
「せっかくの綺麗な顔が台無しですよ?・・・ゴシゴシっと。ほら、どうですか?」
「あ・・・ひ・・・コこ・・コ、ころさ・・ないで・・・」
女性の顔は恐怖で歪んでいた。
声もまともに発せないほど、おびえていた。
「殺す?僕があなたを??なぜ???・・・うわっ」
麻袋の男が、美青年にドン!と肩からぶつかり、女性の前から弾き飛ばした。
そして、麻袋の男は、両手をそっと彼女の頬を包み込むよう添える。
「ヘンリ…エッタ?」
「痛いなぁ、もう・・違いますよ?アゼルさん。ヘンリエッタさんじゃありませんよ」
チンピラたちを無視し続ける2人。
当然、チンピラたちは怒りに猛っていた。
「おい・・・・もういいわ。お前ら、死ねや」
お頭は、静かにキレていた。
彼の怒りは、すでに『猛る』というラインを超えていたのだ。
声を荒げること無く、ただ静かに『死ね』という言葉を発した。
最早、誰にも止められない。
怒りと言う衝動は、一度火が付いたら止まらない。
チンピラたちは、6人全員が手に剣を携え、一斉に美青年と麻袋の男へ飛び掛かった。
……
……‥‥…
チンピラたちが襲い掛かって、1分ほど経っただろう。
彼らは全員、首を綺麗に切り落とされていた。道端には、彼らの頭部がゴロゴロと転がっている。
こと、お頭に関しては『凄惨』と言う他、言葉が思い浮かばないほど酷い状態だった。
彼は、自分が言った通り『両腕両足』を切断され、『なます切り』にされていたのだ。
最後に切り落とされたであろう首は、『泣き叫んだ苦悶の表情』で硬直している。
「あはは。相手に強要する行為は、自分もやられても文句は言えないですよね?・・・って、もう死んしちゃったか。先に説明しておけば良かったですかね?」
美青年は、お頭の首に向かって、爽やかに笑いかけていた。
その一部始終を見ていた女性は、最早、恐怖のあまり、瞬きすることも出来なくなっていた。
ただ、震えながら頭を抱え、世界との拒絶を望む言葉をつぶやき続けている。
「いやよ・・・もう嫌・・・こんな世界、生きていたくない・・・・もう・・・死に・・・たい・・・」
彼女の独り言に、異質な2人は真剣に耳を傾けていた。
「そうですか・・・死にたいんですね?」
「ウウ…アア‥‥ヘンリ…エッタ‥‥」
麻袋の男が、すすり泣くように、女性を優しく抱きしめた。
そして…
ドシュ!
プシャァーーーーーッ!!
「・・・・・ゴプッ」
何かが突き刺さる音と共に、女性の胸部、心臓の辺りから、血が噴き出した。彼女の口からも血が逆流している。
数秒後、彼女の眼はゆっくりと、静かに閉じていった。
美青年から『アゼルさん』と呼ばれた『麻袋を被った男』は、彼女を抱きしめ続けた。
「アアァ‥…アァァァア……」
アゼルは、泣いているような呻き声を発し、ロボットダンスのような奇怪な動きで、激しく暴れだした。
「アゼルさん、落ち着いて。ヘンリエッタさんじゃありませんから。落ち着いてってば」
美青年はアゼルをひたすらに宥めた。
アゼルは、ひとしきり暴れた後、落ち着きを取り戻したが、美青年は医者が確認するように、左手人差し指を立て、右手の人差し指と中指を立てた。
「これは何本ですか?」
「ア~…‥さん、ぼん‥‥」
「良し。それじゃあ、僕の名前、覚えてます?言えますか?」
「ウゥ~…アァ~……ベ、リア…ル」
「はい、正解。ベリアルですよ・・・・ふぅ。良かった。大丈夫ですよ」
『ベリアル』と呼ばれた美青年は、ふぅと一息つき、額をハンカチで軽く拭った。
チンピラたちの根城だったであろう、如何わしい看板の建物のドアは、大きく開かれたままだった。
2人の異質な男が、建物の中へと視線を移すと、そこには売春業を強要されていたであろう、痣や傷だらけの女性たちの姿があった。
彼女たちは怯え、恐怖で固まってしまっている。
「わぁ・・すごいな。見てください、アゼルさん。傷だらけの女性が、あんなに沢山」
笑顔で、彼女たちを見つめる『ベリアル』。そして、ブルブルと奇怪に振るえる『アゼル』。
2人は、ツカツカとまるで自分の家に入るかのように、当然のごとく建物の中へと入っていった。
――それから数分後。
いかに貧民街といえども、衛兵が来ないわけではない。この事件は目撃者が多数居るのだ。
当然、犯罪に手を染めた貧民街の住人と言えど、このような状況は衛兵を呼ぶ。
衛兵たちは事件現場である売春宿へと駆けていた。
彼らのガシャガシャと鎧を擦りながら走る音が、売春宿に近づいている。
「おい!衛兵、ココだ!ここ!!」
野次馬が、衛兵たちを先導し、売春宿へと導く。
そこは…チンピラたちの無残な死体が散乱し、血だまりで満ち溢れた凄惨な現場だった。
「う・・・うげぇえ~~・・・」「おうぅぇ~・・・」
野次馬たちが、胃の中身を空っぽにするほど吐き出している。
事件に慣れている衛兵たちでさえ、少し目を背けてしまう。
…まさに『凄惨』だった。
「あ、あれ!?・・・そこに、女も殺されて転がってたハズなんだけどよぉ・・・」
野次馬の一人である『物乞いの老人』が、心臓を貫かれたはずの女性の遺体が無いことに気づく。
そして、売春宿の中に居た、複数の女性たちの姿も無い。
建物内にあるのは、血だまりだけだった…
不思議なことに、衛兵たちが周囲を探し回っても、売春婦たちの遺体はどこにも見当たらなかった。
――――――――――
貧民街の人気が無い通り道に、男の影が二つ。
先ほどの惨事を起こした、張本人たちである。
『ベリアル』という名で呼ばれた青年は、爽やかに笑っていた。
「アハハ。僕たちを止められる者って、存在するのかな?・・・ねぇ、君はどう思う?」
「ボソボソ‥ボソボソボソ…」
ベリアルから問われた、『アゼル』と言う名の麻袋を被った男。
その男は、聞き取れないほどの小声で、ボソボソと何かを呟いている。
普通の人であれば、彼が何を言っているのか、判別することは不可能であろう。
しかし、ベリアルは会話の内容を理解している様子だった。
「アハハ。ええ、そうですね。きっと、そんな人間は居ないだろうけど、もしかしたら居るかもしれない。その『不確定さ』を探してるんですから、ここまで来たんです」
彼らから遠く離れた場所、街の中央。その更に中心には、城が見える。
遠景に見えている小さな城を眺めていたベリアルは、徐に自分の手で城を包み込み、影絵のように遊んでいる。
「騎士団の採用試験には、勇士たちが集うって聞いたからね」
「ウゥゥ…アァァ~ァ…」
アゼルもベリアルの言葉に同意するように、カクカクと震えながら呻き声を上げる。
そのアゼルの様子を見て、ベリアルは手で包み込んだ遠景の城を、グッと握りつぶした。
「それに・・・ここには、君の存在を感じるんだ。僕は、君に一番期待してるんだよ」
握った拳をパッと放し、ふと、夜空を見上げるベリアル。
「ねぇ、君ならどうだろう。止められるかな?ナンバー7」
美青年ベリアルは『ナンバー7』と呟き、夜空を見上げている目を細めた。
「・・・いや、やはり番号で呼ぶのは止めよう。僕は固有名が好きなんだ・・・僕の『アモン』」
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