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■第25話 『身分証明のトリック』

■第25話 『身分証明のトリック』




ゴブリン村を後にし、僕らは森の入口で待っていた皆と合流した。

今は、街へと戻る岐路に居る。


馬車のワゴンには負傷者を乗せているため、もうスペースは無く、僕らは馬車に並走する形で歩いていた。

ジャレットさんとミルさんの2人は馬車の前方、僕とアモン、そしてゴーフレットの三人は馬車の後方を位置取っている。


大自然あふれる景色を眺めながら、僕は気になることをアモンに質問している。

勿論、ジャレットさんたちには聞こえないよう、少し声のトーンを落としながらね。



「なぁ、アモン。ゴーフレットってさ、街の中に入っても大丈夫なのかな?」


「おお。それなら問題ないぞえ」


「お?そっか。問題ないのか・・でも、普通はモンスターが来たら驚いちゃうんじゃないの?」


「クハハ。『これ』があれば問題無いのじゃ」



アモンが豊かな胸元に手を入れ、ゴソゴソと書面を引っ張り出した。



「なに?この紙」


「『使い魔の証明書』じゃ。そのメスゴブリンは『和人の使い魔である』と認められるものじゃな」


「へ~。そんなもんなのか・・・まあ、モンスターテイマーっていう職業があるくらいだから、そういう『免許』とか『資格』みたいなものもあるんだな」


「うむ。これは我の『貴族のエンブレム』と同じ、『調印の呪文』での証明じゃからな。疑いようがないものなのじゃ」


「『調印の呪文』・・・あ!それで思い出した・・・お前、貴族とか魔物学とか嘘つきまくっただろ!」


「嘘じゃと?嘘とは事実ではないことを指すものじゃろうが。我が貴族というのは、事実となっておるのじゃぞ?キヒヒ!」



口を隠すように手を当て、小さく肩を揺らしながら『キヒヒ』と笑うアモン。

まったく・・こいつはとんでもない詐欺師だ。



「事実って・・・それはお前が無理やり捏造したものだろう?」


「いいや、事実じゃ。この『エンブレム』も『使い魔の証明書』も、本物なのじゃからのう」



本物だって?・・・それが本物って、意味分からん。

アモンは、当たり前のように『エンブレム』とか『証明書』をサっと胸元から取り出している。


・・・・そんなもの、どこに持ってたんだろう?



「ちょっと待ってくれ・・・アモン、お前、どこからそんなものを出してるんだ?」


「どこからじゃと?・・・ここにしまっておったぞえ?」



彼女は、自分の豊かな胸元に指をさした。


どうやら、僕の質問の意図が通じていないようだ。

いや、説明が悪かったのかな?もう一度、言いなおしてみよう。



「ああ、ごめん。ええと・・・エンブレムとか証明書とか、そんなものは持ってなかったよな?」


「んあ?おお、そういうことかえ。それはのう――――」



アモンが何かを言いかけていた。

でも、その瞬間、彼女の言おうとしていたことが分かった。


閃いた、と言った方がいいかもしれない。



「・・・はっ!?待てよ・・・そうか!分かったぞ!?」


「む?・・・和人よ、分かるのかえ?」


「ああ!分かったさ!」


「クハハ!流石じゃ・・・ただの馬鹿と思っておったが、主には何か揺さぶられるものを感じたのじゃ。やはり、主を選んだ我の目は、慧眼じゃのう!」


「はは、褒められると照れるな・・・でも分かったよ。そうか、そういうことか」


「うむ!では、和人よ。主の推理を聞かせてみよ」


「ああ!」



その謎の回答は、これしかない!



「いつも胸元からゴソゴソと引っ張り出してるけど、それって『魔法の巨乳』だったんだな!」


「・・・・・・」


「え?・・・・・違う?」



夕暮色に染まる美しい自然の中を、馬車と並走して歩く僕たち。

まるで幻想の世界・・・いや、ゲームの世界にいるような光景だった。

ただ、爽やかな風が頬を撫で、静かな時間が過ぎた。



パァーーーーンッ!



巨大な風船が限界まで膨らんで破裂したような、衝撃音が響き渡った。



「・・・痛いッス」



僕の左ほっぺに、アモンの手形が綺麗につきました。

ええ。気持ち良いくらい、力強いストロークのビンタでした。



「え!?なに!?すごい音したけど!?」


「どうしたんだ!?カズト!アモン嬢!?」



馬車の先頭を歩くジャレットさんとミルさんが、様子を見に僕らの許へと駆けつける。



「いえ、なんでもないです・・・」



僕のほっぺたに咲いた、真っ赤な紅葉を見て、2人は引きつった笑いを見せた。



「そ、そうか・・頑張れよ、カズト」

「アモンちゃん・・・ちょっとは優しくしてあげて」



面倒ごとに巻き込まれたくないオーラ全開で、2人とも視線を逸らすようにそそくさと前方に戻っていく。



「ふざけて、すみませんでした・・・」


「ムギギ・・・この!この!馬鹿にしおって!」


「イテ!イテテ!ゴメンって!」



顔を紅潮させ、ムギギと歯を食いしばりながら、アモンは腕をグルグルと回し、僕の頭を回転殴りでポカポカと叩きつける。



「ハァハァ・・・もう良いわい。馬鹿な主に教えてやろう」



僕の頭を20発ほど殴った後、アモンは息切れしながらも、説明を続けてくれた。

・・・頭が、すげーいてぇ。



「クハハ。この程度、簡単じゃわい。構築して生成したのじゃ」


「構築して生成?・・・あ、また馬鹿な僕には理解できない系のお話ですね?それ」


「うむ、全く持ってその通りじゃ。じゃが教えてやろう。我らは先ほど、どこで戦っておったか覚えておるか?」


エッヘンと偉そうに仰け反り、いつもの得意げなポーズを見せるアモン。

やっぱり、胸が目立ちすぎて、そこに目が行くな・・・



「聞いとるのか!?和人!」


「あ!?ああ・・・・ええと、森の中で戦ってたよな」


「そうじゃ、森の中じゃ。森には木があり、地面があるじゃろう」


「森には木があって、地面があるって・・・いや、それ当たり前のことだろ?そこまで馬鹿にされてるのかよ」


「馬鹿になどしとらん。それこそが答えじゃ」


「はあー?木と土が答え??」



まったく意味不明なことを言いだしたな。

謎々クイズでもする気なのか?



「和人よ。『証明書』は『何』で出来て、この『エンブレム』は『何』で出来ておる?」


「ええ?・・・『証明書』は『紙』で・・・『エンブレム』は『鉄』じゃないの?」


「うむ。正解じゃ。では、土壌の構成元素は何か分かるかえ?」


「えええ!?・・僕、化学の成績悪かったんですけど・・・」


「むぅ・・確かに。馬鹿である主には酷な質問じゃったな」


「・・・はい」



これに関しては、バカと言われても仕方ない。甘んじて受け入れよう。

アモンから説教くらってるように見えたのか、横からゴーフレットが僕の腕にガシっとしがみついてきた。



「アモン様。カズト様をイジメちゃ、ダメなのデス」


「い、いや。大丈夫だよ、ゴーフレット、これはイジメじゃない。アモンに勉強を教わってるんだよ」



優しい良い娘だわ、この娘・・・それに引き換えアモンときたら。

ゴーフレットの思いやりを、少しは分けてやって欲しいよ。


僕とゴーフレットの組まれた腕の部分を凝視し、アモンは目じりをピクピクと動かしている。



「ムギギ・・ええい!何をしとるか!我のありがたい講釈中なのじゃぞ!」



アモンはツカツカと歩いてきて、僕らの腕をベリっと引きはがした。

ゴーフレットが小さく「アウッ」と呻く。



「フン!ちょうどよい、ゴーフレットよ。お前も聞くのじゃ」



アモンは眉間に皺をよせ、ビシっと僕とゴーフレットを指さした。



「ハイー!お勉強の時間なのデス」


「あはは・・そうだね」



元気に手を挙げるゴーフレットと、生返事を返す僕を尻目に、アモンは説明を続ける。



「我は、あの場所の討伐をギルドが依頼した理由が理解できたわい・・・あの村があった場所は鉄鉱石が取れるのじゃ」


「鉄鉱石?」


「鉄を製鉄する原料じゃ。つまり鉄が取れる土地だったということじゃな」


「そうか!なるほど。資源が取れる場所だったから、討伐依頼したのか・・・あれ?でも、この説明と、そのエンブレムの生成って、何か関係あるのか?」


「キヒヒ。分からぬか?つまりは、エンブレムを作る原料はそこら中に落ちておったと言うことなのじゃ」


「へ~、そうなんだ・・・それじゃあ、その材料から、どうやって作ったんだ?」



アモンは右手一刺し指をピっと立て、僕の『嫌いな時間』を一瞬作り出した。



「うむ、まず鉄鉱石から不純物を取り除くため、2000度の熱で鉱石を―――」



完全に化学の授業じゃん!

聞かなきゃよかった・・・


学校のクラスで、座って授業を受けている光景がフラッシュバックするよ。


「あ、ごめんなさい。聞いてごめんなさい。頭痛くなってくるからやめて!」



僕は耳をふさぎ、頭を抱え込んだ。

そんな様を見て、アモンはガッカリというか残念というか、可哀相な子を見る目で・・・僕を見つめてきます。



「・・・そうじゃったのう。和人には説明しても理解できるはずがないのじゃ」


「・・・うん。ごめんね」


「カズト様!ゴーフレットも分からないのデス!」



何故か、ゴーフレットは僕に向かってガッツポーズを見せた。

気を使ってくれたのか?・・・ゴブリンっ娘にまで同情されるなんて。



「・・・・でも、それを魔法でやったってことなんだよな?」


「魔法か・・・キヒヒ。それも『魔法』という『概念』次第じゃのう。まあ、エンブレムは鉄鉱石、証明書は森の木から作成できたというわけじゃ」



魔法の概念次第と言われましても・・・ハッキリ言って、これ以上は僕の脳がパンクします。

一気に情報を教えられても、一辺に覚えられないし、これ以上は無理!


とにかく、訳わからんことは、今は気にしないでおこう。

あくまで、『今は』気にしない、だけどね。



「作った経緯は分かったよ。でも、その後の『証明』はどうやったんだ?」


「『証明』じゃと?・・・おお、あの呪文のことかえ?」


「ああ、確か『調印の呪文』って言ってたな」


「『証明』とは『暗号』じゃ。そのようなもの、鍵を開けて情報をコピーしてしまえば、どうとでもなるわい。『本物の呪文』をコピーしとるのじゃから、これらは『本物』なのじゃ。キヒヒ!」



無茶苦茶だな・・・でも、これで理解はできた。

アモンは、現代で言う『ハッキング』みたいなことをしたんだ・・・でも、それ違法行為じゃないのか?

日本だったら、警察が来る事案だぞ。


でも、ハッキングするにしても、元の魔法を知ってたりしないと無理じゃないか?

オリジナルを知ってるってことなのか?



「呪文のコピーって言うけど、オリジナルを知らないと無理じゃないか?」


「おお!?和人よ、主がそこに気がつくとは驚きじゃな!」



アモンが、まるで珍獣を見るような目で、僕を見つめてくる。

そして、彼女は、自分の頭をツンツンと指でつついた。



「キヒヒ。オリジナルの呪文は『ココ』に記憶されておるのじゃ」


「頭の中?」


「うむ。じゃが、この体の脳には、我の持つ全ての知識は入りきらなかったのじゃ」


「その女の子の身体の限界ってことか」


「そうじゃ。じゃが、ある程度の呪文構成、この世界の地理情報、魔物の生態など、可能な限りの情報は持ってきておる」


「それでも・・・すごいな。それ。それじゃあ、調印の呪文も覚えてきたってことか」


「そうじゃ。イリーガル家の名も本物じゃぞ。この地より遥か遠くに存在しておった、もはや滅亡した貴族の名を拝借したのじゃ」



なるほど・・・そうか。

それなら『本物』の『イリーガルさん』とは出会うことはないわけだ。


それにしても、あんなジャレットさんたちからの追及されていた間に、そこまでの策を思いつくなんて・・・

アモン・・・お前の頭の回転は、とんでもない早さだな。



「ふう~・・・疲れたわい。物質の構築は膨大なエネルギーを消費する、かなり魔力を使ってしもうた」


「そんなに魔力を使うのか?」


「そうじゃ。これは『我の肉体構築』とは違い、危険なものじゃ。出来れば、もうやりとうない。金輪際やらぬぞ」


「ええ?危険って・・・その小さいエンブレム作るくらいで?」


「うむ。一歩間違えれば、大爆発を起こしてしまったかもしれんのう」


「二度とやるなよ」



僕は即答しました。


大爆発って・・・恐ろしいわ!なんて娘だ!?

密かにそんな危険なことしていたのか・・・失敗したら、僕たち全員死んでたんじゃないか?


まあ、もう金輪際やらないって言ってるし、そうしてくれるとありがたい。



「しっかし、お前本当に恐ろしい存在なんだな。怒らせたら国を消滅させそうな気がするよ・・・」


「今の我には、戦闘における力は無い。力はすべて主に移行してしまったのじゃ。攻撃魔法なども繰り出せぬ・・・じゃが、このような『知識と魔力の転用』であれば、造作もないぞえ」


「そ、そっか・・・」



今のアモンは、本当に普通の女の子になったってことか。

でも、すさまじい魔力を秘めてるのは間違いないんだな。



「和人よ。すまんが、もう我は説明に疲れたぞえ・・・それに、何だか、少しおなかが減ってきたのじゃ」


「なんだ?アモンも疲れたりするんだな」


「当たり前じゃ。物質構築の魔力消費も激しかったが、この貧弱な体にはスタミナが無いのじゃ。心肺機能も弱く、疲労物質が溜まりきっておるわい」


「お、おう・・・まあ、女の子だもんな」



言われてみれば、アモンは額から汗を垂らして、息切れしながら歩いている。


大事に育てられてきた、貴族のお嬢様って感じの見た目だし、運動もそんなに得意ではなさそうだ。

ていうか、こんな美少女に肉体労働とかさせちゃ駄目!むしろ保護すべき存在だ。


・・・見た目だけで考えれば、だけどね。



「もう少し頑張ってくれよアモン。あと10分も歩けば街に着くぞ。ほら、見てみろ」



僕は街の方向を指さした。まだ少し遠いが、既に街が見えている。

街の姿を見て、ゴーフレットが感嘆の声を上げた。



「おおー、すごい。おっきいデス・・・あれがニンゲンたちの街ですか?カズト様」


「ああ。ゴーフレットは、やっぱり初めて見るのか?」


「ハイ。ニンゲンの街、初めてデス。楽しみなのデス!」



はしゃぐゴーフレットとは対照的に、アモンはダラリと腕を下げ、不満げな顔をしている。



「あと10分も歩くのかえ・・・我の脚はもう限界なのじゃ。和人、我を背負って運搬するのじゃ」


「ええ~っ!?・・・おぶれってことかよ」



なんだ、アモンのこの駄々っ子っぷりは。

もう目と鼻の先だと言うのに、すごい我儘を言い始めたぞ。



「・・嫌だよ、僕だってもうクタクタなんだ」


「我はもっとクタクタなのじゃ!主の身体は超人化しておるではないか!良いから背負うのじゃ!」



確かに、アモンを背負うくらい軽いけどさ・・・少し疲れてるのは本当なんだぞ。

別に怪我して動けないわけでもないのに、コイツが言ってるのは、ただの我儘じゃないか。


とはいえ、美少女が辛そうに脚をさすっているのを見て、『黙って歩け』と言える程、僕は冷酷じゃない。



「うーん・・・あ、そうだ。この馬車の馬に乗せて貰ったら良いんじゃないか?」


「嫌じゃ!和人が我を運搬せい。ほれ、早う背中を貸すのじゃ!」



アモンは腕をブンブンと振り回している。完全に駄々っ子としか言えない。


馬に乗ったほうが楽そうに思えるんだけど・・・まあいい。

こんな美少女を背負えるだけでも、僕は贅沢者なんだと、そう考えることにした。



「・・・分かったよ。ほれ」


「うむ・・・キヒヒ」



アモンに背中を向けて、少し屈み込むと、彼女は僕の背中にぴょんと飛び乗った。

彼女の体重は軽かった。50キロも無いな絶対。


そんでもってこの感触・・・・胸が大きいため、アモンを背負うと、必然的に押し付けられる。

柔らかな感触が僕の背中と手に伝わってくる。


手には太もも、背中には胸・・・こりゃ、鼻血が出ないように耐えねば。



「アモン様・・・イイナー。ゴーフレットもおんぶして欲しいのデス」


「キヒヒ。次に頼むと良いぞ。中々快適じゃからな」



ゴーフレットが人差し指を加えながら、僕の袖を掴む。



「2人とも勝手なことを言って・・・僕はタクシーかっての」


「たくしー?何じゃそれは?」


「いいや、なんでもないよ・・・そんじゃあ、掴まっててくださいね。アモンお嬢様」



僕は皮肉交じりに、アモンを『お嬢様』と呼んでみた。

だが、まんざらでも無い様子で、アモンは喜んでいる。



「うむ。では行こうかの?我も少し疲れたので、早く休みたいのじゃ」



アモンは、可愛らしい笑顔でニッコリと微笑んだ。

https://twitter.com/nrny9wZXq85mJ1M

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