■第24話 『この娘の名前は』
■第24話 『この娘の名前は』
「ええっと・・・それじゃあ、君の名前を考えよう」
提案してみたのは良いものの・・・
僕の目の前で、ゴブリンガールが、ぴょんぴょん跳ねて喜んでる。
「名前!名前なのデスー!カズト様から名前が頂けるのデス!」
さっき話をきいて理解は出来たけどさ・・・
この娘にとっては『名前』って『神聖なレベル』のものなんだよな。
「あ、あはは・・・ちょ、ちょっと落ち着いて・・・」
「カズト様!早く早く!!」
彼女は、手をグーにして、脇をグッと占めている。
つまり『おねだりポーズ』だね。
そんでもって、そのポーズでお尻をフリフリと振っている。
勿論、目はキラッキラに輝いてるよ?
う~ん・・・そんなに期待されると、プレッシャー掛かるな。
「ええと、今考えてるから、ちょっと待ってね~」
「ハイー!・・・まだデスか!?」
早っ!?
1秒くらいしか待ってないじゃん!
「ええとね~、もう少し待ってね~?」
「ハイー!・・・・・・・決まりマシタか!?」
いや、早すぎるっての!!
3秒くらいに伸びただけじゃん!
これじゃあ、ちっとも考えられないよ・・・
先ずは、この娘を落ち着かせないとダメだな。
「あのね、君たちの事情は話を聞いて分かったよ・・・だから、これから付ける名前は、本当に大切だと思うんだ」
「ハイ!名前、憧れてたデス!ワタシ嬉しいデス!」
「うん。だから、今から一生懸命、素敵な名前を考えるから、それまで待ってくれるかな?」
「う~・・・ハイ・・・デス」
彼女は頬をプゥっと膨らませて、しょんぼりとした顔を見せた。
なんか、まるで子どもみたいだな。
翌日の遠足が楽しみで、落ち着かないって感じに似てる。
しっかし、これでハードルが余計あがっちゃったよ。
すごい大事に考えてるって言っちゃったからな・・・どうしよう。
ああ~・・・ゴブリン、ゴブリン。
・・・女の子だから『ゴブりん』?
アホか、僕は。駄目に決まってる。
『ゴぶりっ子』『ゴブ子』『ゴブリーヌ』・・・ああ、もう!
焦りすぎて、まともに思い浮かばない。
見た目は、ゴブリンって言われないと分からい程の美少女なんだ。
どうせなら、すごいカワイイ名前を付けてあげたい。
カワイイもの・・・女の子の好きなものから連想できないかな?
女の子の好きなものを挙げていくと・・・ええっと?
まず、洋服だろ?
そんで、恋愛話。
あと、お茶するのも好きなんだよな?・・・一緒に行ったことないけど。
お茶の時には甘いものが・・・あ!ケーキとかも好きだろ。
お菓子か・・・
なんか、その辺から考えれないかな?
せっかく、何か浮かびそうだと思った矢先に――
「まだデスか!?カズト様ーー!!」
「うわぁ!?」
――待ちきれなかったゴブリンガールが、僕の耳元で叫んだ。
ああ~!?アイデアが飛んでった!!
せっかく浮かんでたのに、頭真っ白になってきた・・・
・・・あ!!?
ちょっと待て!
急に浮かんだぞ!
『ゴーフレット』
これだ!
確か、現実世界でそんなお菓子があった。
なんか可愛くて女の子っぽいし・・・いいだろうこれ!
「うん・・・よし、決めたよ!」
「ホワァ~・・・」
彼女の顔がパァーっと明るくなった。
「君の名前は『ゴーフレット』・・・どうだろう?」
「・・・・」
・・・あれ?
喜んでくれるかと思ったのに、無反応だ。
ゴブリンガールは自分の両手を見つめ、ブルブル震えている。
き、気に入らなったのかな・・・・・僕のネーミングセンス、ダメすぎるな!
「ゴ、ゴメンね!今、考え直すから!」
「待ってくだサイ!」
「え?・・・ブフォオオオオオーーーッ!」
また、鼻血が噴き出ました。
ゴブリンガールが『待って』と言うのと同時に、急に僕の手を取ったんですよ。
それでですね?・・・僕の手を
・・・自分の左胸に押し当ててるんですよぉぉぉ!
で、でかい!
柔らかすぎるッ!!
こんなのって、良いのか!?
いや、いかんぞ!
ココは、真面目な場面だろ!鼻血よ止まれぇぇ!
「・・・カズト様?急に鼻から血デタ・・・どこかお怪我ヲ?大丈夫デスか?」
「い、いやいや!大丈夫だよ!これは持病みたいなものだから!」
「ジビョウ?・・・『ゴーフレット』は、あまり難しい言葉は分からないデス」
「あ、あはは・・・・ん?」
この娘、今、自分のことを『ゴーフレット』って言わなかった?
「名前・・・気に入ってくれたの?」
「ハイ・・・ワタシの名前は『ゴーフレット』・・とっても素敵デス」
ゴーフレットの目には涙がたまっていた。
彼女の手に力が入り、僕の手を、更にギュウっと胸に押し当てる。
柔らかい胸に、僕の指が沈み込んで行くよ・・・
鼻血が・・・耐えろ!僕の鼻よ!
「ワタシの心臓はカズト様と結ばれていマス・・・この心臓は嘘をつきまセン」
「ゴーフレット・・・」
僕はアホだな。鼻血なんか噴いてる場合じゃないだろう。
そんなものはどうでも良いんだ。
ゴーフレットの想いが痛いほど伝わってくる。
彼女の目に溜まっていた涙が、一気に頬に零れ落ちていく。
「ワタシは・・・ゴーフレットは、例え仲間と別れても、例え故郷を失っても・・・カズト様と・・・この名前と共に、明日を生きていきマス」
僕は、ゴーフレットの手を、彼女の涙が止まるまで握っていた。
――――――――――――――――
ゴーフレットの支度と、仲間たちとの別れの挨拶が終わった。
「なぁ・・・ホブゴブリン。質問があるんだけど?」
「はい。何でございましょう?」
ホブゴブリンが腰を低く下げ、もみ手で僕の話を聞いている。
「ギルドのクエストは、この村の『討伐』だったんだ。でも、お前たちは『降伏』っていう形になったから・・・ええと、この場合はどうなるんだろう?確か、クエスト完了の報告後は、ギルドの監査院がここに来るはずなんだけど・・・」
「それは問題ございませんよ。我らはこの村を放棄いたします」
「放棄!?・・・そ、そうか・・・それじゃあ、本当にゴーフレットの故郷、無くなっちゃうんだな・・・」
「カズト様、大丈夫ですよ・・・・『我らの群れ』の『故郷』とは『この広大な森の全て』なのですから」
「へぇ~・・・森が故郷か。なんか、規模がでかいな」
「ニンゲンたちに住処を発見され、移動するのは良くあることです。この森のどこか奥深くで、また村を作っていくことにします」
移動するのか・・・
まあ、ここよりもっと森の奥なら、見つからなくて済むかもな。
「では・・・我らは家の解体を行いますので・・・」
ホブゴブリンが僕にペコリと頭を下げた。
すると、他のゴブリンたちも一斉に頭を下げ、一匹ずつ森の奥へと消えて行く。
「カズト様。その娘・・・いえ、『ゴーフレット』をよろしくお願いいたします」
「ああ・・・分かったよ」
「ではな・・・ゴーフレットよ。明日も生きてくれ」
「ハイ・・・・ミンナ、明日も生きてね」
ホブゴブリンが最後の一匹となり、彼もまた森の奥へと姿を消した。
ゴーフレットは手を振って、彼らを最後まで見届けていた。
彼女と仲間の別れの場面を見つめながらも、僕はゴブリンたちの『変な挨拶』が気になった。
そりゃあ、気にもなるよ。
普通は別れの挨拶って『さようなら』とか『バイバイ』とかでしょ?
なんだよ、その・・・『明日も生きてね』ってのは?
「なぁ、ゴーフレット・・・その『明日も生きてくれ』っていう挨拶って、どういう意味なの?」
「あ・・・カズト様でも、ご存じないのですか?」
「う、うん・・・ゴメン!正直言うと、君たちの言葉は分かるけど、文化とかまでは知らないんだよ・・・」
「そうですか・・・あの・・・ではワタシがカズト様にお教えしても?」
「うん。教えてくれると、ありがたいんだけど・・・嫌、かな?」
「そんな・・・嫌だなんて・・・・嬉しいデス!ワタシがカズト様のお役に立てるなんて!」
ゴーフレットが両腕をバアッと広げ、大喜びして僕に抱き着いてきた。
む、胸が・・・当たる。
「うっ!?・・ま、毎回正面から抱き着かなくても良いからね!?」
ゴーフレットをベリっと引きはがすと、彼女は『アウッ』と小さく呻き声を上げた。
「と、とにかく、教えてくれないかな?」
口に右手の人差し指を加えながら、名残惜しそうな顔をするゴーフレットだったが、
彼女は渋々と説明を話してくれた。
「ワタシたちゴブリン族は、今まで多くの冒険者たちから、狩られ続けてきました」
「そう・・・なのか」
「ハイ・・・我らとて、戦う相手との強さの違いは分かります。しかし、言葉が通じない以上、降伏することは出来ないのデス」
「そっか。言葉が通じないもんな・・それじゃあ、降伏は無理だとしてもさ、逃げたりとかは?」
「逃げても追ってくるので、殺されマス。逃げることも、降伏することもできないのデス・・・」
「そんな!?・・・それじゃあ、今まで君たちは、一体どうしてたんだよ!?それじゃあ、まるで・・・殺されるだけじゃないか!?」
ゴーフレットは、眉間に皺を寄せて話を続けた。
「だから、必ず負けると分かっていても、戦って生き残ル・・・その『僅かな望み』に賭けるしかないのデス」
「・・・さっき、君たちは随分と戦闘に慣れていたようだけど。あれなら、冒険者を返り討ちにしていたんじゃないか?」
「ワタシたちの群れがニンゲンと戦ったのは、カズト様たちが初めてなのデス」
「え?そうなのか・・・じゃあ、他の群れとかの話は?」
「何度か撃退した群れの話は聞いたことがありマス・・・でも、結局ミンナ死にマシた」
「え!?・・・どうして?」
「一度、ニンゲンを返り討ちにすると、次はもっと強力なニンゲンが来るのデス」
そうか・・・分かった。
冒険者が返り討ちに合ったら、クエストの懸賞金が上げられて、上級職に目を付けらるのか。
・・・いや、違うな。
やっぱり、これが一番の理由だろう。
『復讐』だ。
ゴーフレットは話を続ける。
「強いニンゲンをまた返り討ちにシテも、もっともっと強いニンゲンが来ます。そうして、やがて戦に破レル・・・戦に敗れたゴブリンに待つのは、皆殺しデス」
彼女はまるで、当たり前の出来事かのように、淡々と話している。
「だから、ワタシたちは仲間タチに『明日も生きて欲しい』から、お別れのとき、この言葉を送るのデス・・・『明日も生きてね』ッテ」
「そうだったのか・・・よく・・・分かったよ・・・」
不条理すぎる自分たちの境遇に、ゴーフレットはただ淡々と説明をし続けていた。
まるで『それが当たり前のこと』のように、ずっとだ・・・
やるせなく・・・そして、とてつもなく悲しい話だ。
でも・・・この話を聞いてて、僕の中に『凄まじい葛藤』が芽生えた。
今の僕には、その『葛藤の答』は、到底思いつく気がしない。
じゃあ、その『葛藤』って何だよって?
それは・・・
僕が『ゴブリン達に同情している』ということだ。
ゴーフレットの話を聞いて、本当に悲しくなった。
同情するのは当然の感情だ。
・・・・でも、この感情は本物なのか?
例えば、の話で考えよう。
もし、このゴブリン村での戦いで、僕以外の皆が全滅してしまっていたら・・・
僕はゴブリン達の命乞いを聞いて、今みたいに同情できたのだろうか?
ゴーフレットは説明を続けてくれている。
「そして、とうとうワタシたちの番が来たのだ、と覚悟をしたのデスが・・・」
「ゴーフレット・・・もういいんだよ。その続きは・・・分かってるよ」
だって、その話の続きは『僕たちが当事者』なんだから。
「でも、カズト様は違ったのデス!我らの言葉を理解して、降伏を受け入れてクレた!!何という巡り合ワセ・・・これも、魔王様のご加護のおかげなのデス」
「魔王様の加護?・・・」
「あっ!・・・いけない!ダメなのデス!ゴメンナサイ!カズト様!これ以上は・・・うう・・・」
急に、ゴーフレットが頭を抱えてしゃがみこんだ。
きっと、ホブゴブリンみたいに、僕が頭をポカッと叩くと思い込んだんだろうか?
・・・そんなことしないのに。
「分かってるよ・・・それ以上は言えないんだろ?」
僕は彼女の頭にポンと手を載せ、撫でてあげた。
「ホワァ~・・・カズト様・・・優しいのデス・・・ゴーフレット、大好きデス」
彼女の頭上から、また湯気が立ち始める。
これ以上続けるとまずいと思い、僕は、サッと手を引っ込めた。
すると、彼女はまた、右手人差し指を口に加えながら『アウ~』と小さく呻いた。
残念そうな顔で、僕を見つめている。
しっかし、気苦労が絶えないというか・・・・
『謎に満ち溢れてる』どころか、『謎しかない』というか・・・・
アモンといい、ゴーフレットといい・・・
なんだって、こんな秘密めいた奴らばっかり、僕の周りに集まるんだよ。
魔王のことは常に考えてた方が良いとは思う・・・
でも、ゴーフレットが仲間になった以上は、おいそれと人前で話さないほうが無難かもしれない。
魔物と魔王の関係性がどういうものか、僕にはまだ、情報が少ないからな。
・・・それを肝に銘じておこう。
さて、これ以上パーティーの皆を待たせられないな。
急いで戻らなきゃ。
「よし。じゃあ、もう行こうか?皆待ってるよ」
「ハイ!」
皆が、森の入口で待っている。
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