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■第12話 『ギルドとクエスト』

■第12話 『ギルドとクエスト』







「よっしゃぁぁ!てめぇら!行くぞぉぉーーー!」





旗を持った人が気合を入れて叫んでる。







まずいぞ!!

置いて行かれる!?





「ま、待ってくださーーーーーーい!」





僕も、負けじと必死に叫んだ。



この『クエスト行き快速便』に乗り過ごしたら・・・『野宿行き』一直線だ。

そりゃあ、必死になるだろう?





そんな僕の『心からの叫び』が届いてくれたのか、『いかつい男たち』が一斉に振り向いてくれた。







でも、イメージしていた、クエストパーティーとは違ったようでして・・・

僕はてっきり、ビギナーに優しく教えてくれる、アットホームなものを期待していたのに・・・





振り向き様に、彼らは『ジロジロ』と僕に睨みを利かせてきた。





「あん?」「なんだ?このヒョロイの」「帰んなボウズ」





開口一番の言葉がコレだよ?

完全におちょくられている・・・いや、邪魔者扱いかな?



映画でもよく聞く台詞だ。『ママのお家へ帰んな』ってやつ。

それを聞けるとは思わなかったよ・・・





パーティーの面々は『いかつい男たち』じゃなくって・・・『荒くれ者集団』って言葉の方が合ってる。

しかも、彼らの装備や恰好は、変に目立ったものばかりだ。

変にカラーリングされた鎧や、顔に妙なペイントを施している人・・・とにかく、目立っている。





そんな彼らの中でも、『 一番体の大きい、槍を背負った男』が、僕の前にズイっ歩み出てきた。





「おう?何だ、お前?・・・何か用かよ?」





かなりでかい男だ。身長190cmくらいはある。

彼は腰に手を当て、僕を思い切り見下ろしている。





「あはは・・・あの、僕もパーティーに入れて貰えないかな~?と思いまして・・・」



「あぁん!?・・・今なんつった?」



「いえ、ですから・・・僕も、一緒に『クエスト』に行きたいな~と・・・」



「お前が?・・・『クエスト』に・・・・?」





大男は肩を震わせ、顔を俯けている・・・そして、その数秒後。

大男による『僕をコケにしまショー』が始まった。





「ぷぅっ!?・・だぁ~っはっは!やめとけ、やめとけ!悪いことは言わねーよ!」





肩を震わせていたのは『溜め』だ。思いっきり笑いを『溜め』ていたんだ。

『大男』が大爆笑すると、他の男たちも、僕を笑い始める。



・・・さすがに、これはムっとするぞ。







大男は、僕の目の前で腹に手を当て、大笑い・・・

他の奴らも釣られて笑ってやがる・・・





何だ!?こいつら!?





すげームカツク・・・





「ん?・・・おい!何だぁ?その目はぁ~?・・・何か文句でもあんのかぁ!?」





大男が更に絡んできた。今度は僕を上から覗き込むように、思いっきり『ガン』を飛ばしている。

・・・多分、僕は『無意識』にこいつを睨んでいる。だから、こいつもイラついたんだ。





こんなところで喧嘩なんて、無意味だ。

それは分かってる・・・でも、感情を抑えきれない。



僕は、ずっと『反抗的』な目でこいつを見てる。自分でも分かる。





「なんだてめぇ?その目はぁ?・・・まさか、おれと『やる気』か?」





明らかに体格差がある僕に対して、この言い様・・・こいつ、最悪なやつだな。





正直に言おう・・・・





すっげえええ腹立つ!





こいつは、弱い者いじめが好きなクソ野郎だ!許せない!





「随分失礼な奴だな・・・・初対面の人に、そんな口の利き方するなんて・・・何で、そこまで人を馬鹿に出来るんだよ?」



「だぁーーっはっは!馬鹿にしてるんじゃねーよぉ。親切で言ってやってるんだぜ!?お前にゃ無理だ。やめとけ。な?」



「へー・・・じゃあ、お前なら大丈夫なのか?そんなに強いんだったら、何で一人で『クエスト』に行かないんだよ?お前だって、無理なんだろ?」





『ブチっ』という緩衝材のぷちぷちを潰したような音が、 大男の頭から一度だけ鳴った。

彼の目が充血し、真っ赤に染まっている・・・完全に怒らせたみたいだ。





「んだとぉ!?ゴラァ!?生意気言ってくれんじゃねーか、坊主ぼうず!?・・・もう、どうなってもしらねーぞぉ!?」





大男が、背中に背負った槍に手を掛けようとした。





その時――――





「おいおい!?ストップ!ストーップ!」





『旗を持った人』が、大男と僕の間にシュバ!っと入り込み。

この険悪な雰囲気に、歯止めをかけた。





「ふぅ~!・・・ったく。何やってんだ、てめーら?」





彼は、『ヤレヤレ困った』という表情で、つっかえ棒のように旗にもたれ掛かった。





「リ、リーダー!?」「す、すんません・・・」「悪気はなかったんス」





『荒くれ者たち』が、旗に持たれかかっている彼に、平謝りしている。





・・・驚いた。

さっきまで『オラ』ついていた『荒くれ者たち』が、たちまち、『しゅん』としちゃったぞ。





リーダーって呼ばれてたな。

旗にもたれ掛かっている『この人』が、このパーティーのリーダーなのか。

でも、この人・・・ 見た目は普通っぽいけど。そんなにすごい人なのかな?





彼は旗にもたれかかったまま、大男を叱りつけている。





「おい、お前。公共の場で民間人に抜刀しようとしたのか?」



「へえっ!?い、いえ・・・それは・・・」



「だとしたら、追放だな」



「そ、そんな!?お願いします!俺、稼がねーといけねーんです!」



「もう二度としないか?」



「は、はい!二度としません!」



「よし!じゃあ二度とすんなよ?次に見た瞬間、お前は、即、追放だ。忘れるなよ」



「へ、へい!」



「おっし!じゃあ、列に戻ってよし!」



「ひ、ひぃ~!」





リーダーにしこたま叱られ、大男は隠れるように列に戻った。

さっきまでの『荒れた威勢』はどこにいったんだ・・・





そして、彼は僕にも話しかけてくる。





「きみ、大丈夫か?」



「は、はい・・ありがとうございます」





『旗を持った人』、つまりリーダーは、とても爽やかな人だった。



髪は、金髪のショートヘアー。

瞳は焦げ茶色で、銀色の甲冑をまとっている。

年齢は、20歳後半くらい。腰には剣を下げている。





剣を持ってるってことは・・・この人は『剣士』なのか。





「んん?俺の剣がどうかしたかい?・・ずっと、見つめているようだが」



「あ!い、いえ。とても良さそうな剣だなって思って・・・」



「ははは。そうかい?気に入ってくれて何よりだ。君もパーティー希望者なのかい?」



「あ!?は、はい!あの・・僕も、パーティーに入れて頂けませんか!?」





僕は両手を合わせ、『お願いしますの姿勢』で必死に頼んだ。





・・・でも、リーダーの顔は渋い。

・・・あまりいい返事が期待できなそうな雰囲気だ。





「う~ん・・・いいよ、と言ってあげたい所なんだが・・・」





リーダーは申し訳なさそうに答えた。





「残念なんだが、俺の『許容人数』がちょうど埋まってしまったんだ・・・だから・・そのぉ・・・」





言いずらそうに言葉を詰まらせているリーダーだが、

彼の言ってる単語の意味が、僕には分からない。





『許容人数』ってなんだ・・・?

もう定員オーバーってことなのか?





「そ、そうですか・・・ダメ・・・ですか」



「すまないな、君」





リーダーが僕にペコリと頭を下げてくれた。

とても礼儀正しい人なのは分かる・・・





でも・・・僕はホームレス瀬戸際なんだ!!

・・・おまけに、『むかつく女の子』の生活も背負ってしまっている。





今は、なりふり構ってられない!

多少の人数オーバーでも、何とか参加させてくれないかな!?

とにかく・・・頼んでみよう!!





「あの・・・すみません!『許容人数』を超えての参加はダメですか!?」





『許容人数』っていう意味は分からないけど・・こっちも必死だ。

そう思って、僕は必死に頼んだ。





でも・・ ・なぜか、リーダーが驚いたような顔をしている。





「あれ?・・・知らないのか?」





リーダーがポツリと一言呟き、僕の服装、つまり『寝間着』を、上から下までまじまじと観察していた。





「・・・あ~、なるほど!そうか、どおりで見慣れない恰好なわけだ」



「あ、やっぱりこの格好、珍しいですか?」



「まあ、少しね」



「そ、そうですか・・」



「でも、その恰好で分かったぞ?・・・さては、君も『採用試験』目当てで、遠方から王国に来たな~?」





リーダーは、僕の肩に『コツン』と拳を当てた。



どうやら、この人も、串屋のおやじさんと同じ勘違いをしてくれたみたいだ。

助かった・・・ここは、その設定で話を合わせていこう。





「そ、そうなんです。実は今日、この国に着いたばかりでして・・・・」



「ははは!そうか・・・てことは、腕っぷしに自信があるってことだな?」





寝間着の返り血をジーっと見つめ、リーダーは目を細めた。





「しかも、その返り血・・・モンスターを倒たってことだな。何を倒したんだ?」



「え・・っとぉ・・ゴブリンです」



「ゴブリンか・・・うん!良いねぇ!」





リーダーは両手を『パン!』と叩いた。





「よし!じゃあ、せっかく遠方から来てくれたんだ・・・君もクエストへの同行を許可しよう!」



「あ、ありがとうございます!」





やった!やっと快い返答を言ってくれた!

これで宿代が稼げるぞ。助かった・・・・





「では、早速討伐に行きたいと思うんだが・・・君はギルドに『登録』しているかい?」



「い、いえ・・・・してません」





・・・・まずい。

『登録』って、なんだ?





ロープレで言う、『ギルドへの登録と所属』ってことか?

・・・・そんなのしてない。





「すみません・・・もしかして、ダメですか?」



「いや、ダメという訳ではないが・・・まあ良いさ。このクエストが終わったら、ギルドで登録すると良い」



「は、はい・・・」



「では、何か聞いておきたいことなどあるかな?俺の分かる範囲までだが、教えてあげよう」



「え!?・・・い、良いんですか!?」



「ああ、ただし・・・クエストは命がけだぞ?」





リーダーの眼光が鋭くなる。

針を突き刺すような鋭い目で僕を見つめてくる。





「その辺は・・分かってるね?」





とても爽やかそうな人だったのに・・・本気を出したら怖そうだ。

でも、彼が言ってることは理解できる。



・・・この脅しの真意は、『自分の命は自分で守れ』ってことだ。





「も、勿論です!」



「よし!ははは。じゃあ、質問はあるかい?」





ええと・・・

聞きたいことは山ほどある。





でも、最初に聞きたいのは『報酬』についてだ。

僕は、宿代のための参加してるからな。





「それじゃあ、質問なんですが・・・このクエストの『報酬』って、どんな風に支払われるんですか?」



「・・・・」





・・・・あれ?

僕の質問に、リーダーが無反応だ。

キョトンとした表情で僕を見つめてる。





「・・・ぷ!ぶあっはっはっは!こりゃあ驚いた!」





え!?急に爆笑されてる!?

・・・どうして!?





「え?ええ?・・・・ぼ、僕、何か変なこと言いました?」



「いやなに・・・笑ってしまってすまない。俺はてっきり、『ゴブリンの対処法』を聞かれるかと思っていたんだが・・・」



「あ!?そ、そうですね・・・」





・・・言われてみればそうだ。

『命の心配より』先に、『お金の心配』してるんだ。



ギルドに所属もしてない『素人の僕』が、『ベテラン』っぽいことを言ってるんだ。

・・・良く考えてみたら、こんなの生意気を通り越して、頭がおかしいやつだ。



彼は、まだ僕の目の前で大声で笑っている。





「あっははは!最初に報酬の話をされるとは思わなかったよ」



「す、すみません!生意気なことを聞いてしまいました・・・」



「いや、いいんだ。お答えしよう。と、その前に・・・」





剣士は、隣に居る『フードを目深にかぶった人』に旗を手渡し、グローブを付けながら僕にウィンクした。





「とりあえず、歩きながら説明しよう。日が暮れる前に、このクエストを終えたいからね」







剣士は右拳を空に仰ぎ、出発の号令を発した。





「よーし!お前らー!討伐に向かうぞー!」



「おおおおおおお!!」





パーティーメンバーの男たちも、雄たけびで号令に応える。





とうとう、行進が始まった。





リーダーによると、広場を出て街の外に出るには、巨大な城門を通らなければならないらしい。





僕は街に入るとき、ジャンプして無理やり入ったけど・・・

それって・・・不法入国だったんだな。





■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□ ■□■□■□■□■□■□■□





僕らは城門へと向かって歩いている。





僕らのパーティー構成はこうだ。



リーダーの剣士さん。

フードを目深に被った大袋を背負っている人。

6人の『荒くれ者』たち。

最後に、僕。



合計で9人だ。



そして、2頭の馬で『快適そうで、大きなワゴン』を1両引いている。





僕は移動中に、『クエスト』について質問してみた。

リーダーの剣士は、歩きながら僕に説明を続けている。





彼の一通りの説明を、とりあえず頭の中で整理してみる。





内容はこうだ——————



『クエスト』とは、ギルド組合本部で発注されるらしい。



各地の村や町、または個人の依頼がギルド組合本部に集まり、その依頼内容がギルドの掲示板に掲載される。



冒険者は、その掲示板の中から、クエストを選んで受諾する。

そのクエスト依頼を達成出来れば、ギルド組合の受付にて報酬が支払われるという流れだ。



昔は、もっとめんどくさかったらしい。

クエスト達成の確認を、ギルドの監査院がチェックしていた。つまり虚偽の報告かの確認をしていたのだ。

報酬が支払われたのは、その確認が終わった後だったらしい。



————以上。





とりあえずはまとめてみたけど・・・僕は、ちょっと気になる所がある。



認識が曖昧だと、危ない気がする・・お金のやり取りは、慎重に越したことは無いんだ。

・・・念のために聞いておこう。





「あの~・・気になる部分があったんですけど・・・」



「お?何だい?」



「監査のチェックが無いなら、『クエストクリアしました』って嘘を報告しても、報酬が受け取れてしまいませんか?」



「あっはっは!そうさ。だが、そんなことをする奴は居ないんだ・・・・何故か、分かるかい?」



「えぇ~?・・・分かりません。何故なんです?」



「ばれたらギルド組合から除名されてしまうからさ。組合から除名されるということは、ギルドから追い出されるってこと。二度と復帰は出来ない」



「なるほど・・・でも、大金の報酬を受け取ったら、あとは逃げちゃう人とか出ませんか?」



「まあ、そういう奴らも、昔は居たらしい・・・でも、ギルドもそこまで馬鹿じゃない。虚偽の報告はギルドにとって大罪なんだ」



「大罪?」



「そう。つまりは、ギルドへの裏切り者には容赦しないってこと。『賞金首』になっちまうのさ」



「ああ~。なるほど!お尋ね者になるってことですね?」



「そういうことだ。ギルドに賞金を懸けられちゃあ、普通に生きてくことは厳しいだろうな・・・・ああ。それと、報酬についてなんだが・・・説明、ちょいと長くなるけど、いいかな?」



「是非!よろしくお願いします!」





報酬については、最も聞きたかった部分だ!

・・・これはまとめねば!!





僕は、彼の説明をむちゃくちゃ真剣に聞いた。





もう、マジで!真剣に話をまとめなきゃ!







『報酬』のまとめはこうだ————





クエストをクリアすると、報酬がもらえる。

つまり、『お金』だ。



そして、お金とは別の物も貰えるらしい。

その別の物とは・・・『冒険者としての位』だという。



ギルドには階級が存在するということだ。

そして、階級の称号はこうなっている。



白地ペーパー』『ブロンズ』『シルバー』『ゴールド』『プラチナ』



この4つで構成されている。

白地ペーパー』がスタート地点で、『プラチナ』に向かって上がっていく。

そして、『プラチナ』は一部の上級冒険者にしか到達できないらしい。

クエストを達成していくほど、階級の経験が溜まり、ランクアップしていくという流れだ。





————以上







リーダーは話を続けてくれている。





「現状はプラチナが頂点と言える。プラチナまで上り詰めるのは、尋常ではないことだ・・・・だが」





彼は僕に説明しながら、空に向かって手を伸ばした。





「・・・その上の階級が実は存在すると噂されていてね・・・『マスター』という位だ」



「『マスター』・・・ですか?」



「ああ。 その階級に到達できたものは数名のみ。伝説級の貢献を行った者のみが授けられる称号らしい」



「たった数名ですか?・・・すごいですね・・・」



「まあ。俺達には関係のない、雲の上のような話だがね」





リーダーは肩をすくめながら、小さく溜息をついた。





「俺たちはとにかく、クエストを地道にこなし、今よりも自分を高めていくことに専念すればいいのさ」



「が・・頑張ります!」



「はっはっは。その意気だ!頑張ってくれよ?」



「はい!・・・あの~。ちなみに僕は冒険者ギルドに登録してませんが・・・どうなんでしょう?」



「おっと、そうだったな・・・ふむ・・・」





リーダーが顎に手を当てながら、考え込んでしまった。

なんか気まずい・・・無登録で参加するのは、やっぱり駄目だったのかな?





「やっぱり、まずい・・・ですかね?」



「いや、問題ないんだが・・・報酬は分ければ良いからね。ただ、ランクアップには影響されないのが勿体ないと思うくらいかな」





ほっ・・・・良かった。

『ギルド無所属でのクエスト参加は大罪だ!』・・・なんてことになったら、お尋ね者になってしまう。

ホント、常識を知らないと、喋る一言一句が怖いよ・・・



ただ、階級ランクの経験がギルドに属していないから、入らないっていうことか。





「しかし、冒険者でもない君が、なぜ命がけのクエストに参加するんだい?」



「そ、それが・・・お金がどうしても必要でして・・・」



「お?そうか・・旅の路銀が尽きたのかな?」



「ま、まあ・・・その通りです」





これは本当の話です。嘘じゃありません。

・・・当面の宿代を稼がないと、ホームレスになってしまうから。





「あの・・・ちなみにギルド登録した後、『白地ペーパー』からスタートですよね?」



「ん?ああ。入門したての冒険者は、皆『白地』だ」



「・・・・要は、初心者ってことですね?」



「ああ、そうだ。そこから経験を積んで登っていくものなんだが・・」





剣士さんは説明を続けてくれた。



難易度の高いクエストを達成するほど、多くの経験が貰える。

しかし、『無理なクエスト』は受けず、『身の丈に合ったクエスト』を確実にこなす。

その地道な積み重ねが大事だと、彼は言った。





「高難度クエストを狙うのは確かに昇格への近道だ。だが、それだけ死と隣り合わせになる・・・一体、蛮勇で何人が死んだことか」





彼は呆れた顔で深くため息をついた。





「なぁ、もし君が冒険者になったら、無謀なクエストを受けたりはしないでくれよ?」



「あ、あはは・・・はい・・・」





そんなこと、間違っても僕はしないと思う。

ヒーローになりたくとも、基本的にチキン野郎だからね!

自慢にならないけど・・・・





「しっかし、君のその見慣れない服装・・・・」



「ギク!?」





もしかして、気づかれた?

僕がこの世界の人間じゃないってことに。





「一体どこから来たんだ?武器も持ってないようだし・・・専門職は何だい?」



「え?・・・ええ・・・えっと、魔法使いに近い・・・ですかね?・・・はは」





『時を止める』なんて、ある意味魔法だけど・・・

魔法使いとは言えないと思う・・・

でも、剣士はこの曖昧な返事に納得してくれなかったようだ。







「魔法使いに『近い』だって?・・・ってことは違うってことかい?」



「まあ、ちょっとだけ、違い・・・ますかね?」







精一杯、笑顔で受け答えしているつもりだが、引きつった笑顔になっていないだろうか?

『奇妙な本と契約して得た、謎の凄まじい力』で戦います、なんて言えるわけない。





「ふーん・・・作戦に支障が出るかもしれないんだが・・・教えてくれないか?」





や、やばい!

どうしよう・・・職種なんて知らないぞ・・・・





・・・・そうだ!

『雑用』だ!『雑用』でいこう!





「あ、あの・・僕は単なる『雑用』と思ってください!」



「『雑用』!?あっはは。まあ、今はそれで良しとしようか。どうせ、すぐに分かるだろうからね・・・さて!着いたぞ!」





僕らは巨大な城門の前に到着した。

すごく巨大で頑丈そうな扉だ。



城下町から外へ出るには、この城門を通る必要があるそうだ。

これなら、例えサイクロプスが来ても、そう易々とは破られないだろう。



リーダーが、城門の傍に立っている二人の門番に呼びかけた。





「おーーい。門を通してくれ」





門番の一人が走ってきて、リーダーの前に立った。





「許可証を」



「ほい。許可証」





リーダーが巻物を懐から取り出し、門番に手渡す。

巻物の確認を『ササッ』と終えると、門番は開門の号令を告げた。





「ふむ・・・よぅしっ!開門っ!」





ゴトゴトと歯車が回る音が鳴り、重そうな城門が内開きで左右に開く。





「死ぬなよ。ジャレット」



「死なねーよ。今日の報酬は割が良い。戻ったら飲もうぜ。ゴルトー」





門番は笑いながら剣士に話しかけ、剣士と門番はお互いの右拳をコツンとぶつけた。



リーダーの名前は『ジャレット』、門番の名前は『ゴルトー』っていうのか・・・

覚えておこう。





巨大な城門を潜り、僕たちは城外へと歩み出た。





外に出ると、僕はその景色の美しさに驚いた。



ただ『美しい』の一言だ。

ここは絵画の中かと思えるほど綺麗だ。

この城一帯は、小高く広い丘の上にあった。



かなり遠くまで見渡せて、ところどころに小さな町や農村のようなものも見える。



とにかく広く、見晴らしが良い。

地平線まで綺麗に見える。



昔、家族旅行で行った北海道に近いかな?

きっと、それ以上にここは広大だろう。規模が違いすぎる。





・・・・僕はすっかり見入ってしまった。





「すごい・・・なんて美しいんだ」



「ん?・・・ああ、この景色かい?」



「はい」



「そうだな。本当に美しい。だからこそ、俺は・・・」





ジャレットさんの表情が曇った。

彼は何かを言いかけていたけど・・・その先を聞けるような雰囲気じゃない。



何か過去にあったんだろうか?





「・・・さあ、立ち止まってないで歩くぞ!」





彼は僕の肩をコツンと叩いた。



何でこの人は、こんなに僕に良くしてくれるんだろう?

そういえば、最初は定員オーバーみたいなことを言ってたけど・・・・





「あの。何故、僕を参加させてくれたんですか?最初に『許容人数』がどう、とか言ってました。それに・・・」





僕は、自分の血にまみれた寝間着姿を見た。

僕のこの恰好、どう見ても怪しい人間だ。





「素性の知れない僕に、こんなに親切にしてくれるなんて」



「ん?ああ。そのことか」





ジャレットさんは、右手をぱっと開いて、僕の正面に差し出した。





「今更だが、自己紹介が遅れたね。俺は『ジャレット』っていうんだ。君は?」



「あ、和人・・・です」



「カズト殿か、よろしくな」





僕も右手を差し出し、彼と握手を交わす。





「こう見えて、俺はギルド組合の『トレーナー資格者』なんだよ」





ジャレットさんは、ネックレスを服から取り出して僕に見せた。

ネックレスには、一匹の竜が左向きに吼えているデザインのエンブレムがぶら下がっている。





「『トレーナー』ですか?」



「そう。トレーナーは新人育成が仕事の一つになっていてね」





トレーナーって、そのまんまの意味のトレーナーかな?

僕みたいな、『駆け出しの冒険者の保護者』ってこと?





「トレーナーは『ペーパー』が参加できるように、募集を掛けることが出来てね。まあ、低難易度のクエストに限定されるんだが」



「そうなんですか・・・『ペーパー』はトレーナーさんからしか、クエストは受けれないんですか?」





彼は、少し困った顔で頭をポリポリと掻いている。





「そこが問題なんだよ。クエストってのは、本当はギルド組合の窓口や掲示板で受けるものなんだ」



「え?それじゃあ、『ペーパー』でも、最初から自由にクエストを受けれるんですか?」



「その通り。でも、知識も経験も無いうちから、名を売りたい気持ちが早って、無謀なクエストを受けてしまう新人が出てきてしまってね」





ああ~、なるほど・・・・

出世欲が早って、身の丈に合わない仕事を受けてしまうのが居るってことか。

無茶な仕事を請け負って、結局出来なくて、皆に迷惑かけるってことね?





「そんなことが起こると、依頼主にも迷惑が掛かるし、何より新人が命を落としてしまう。そんなことが起きないように、トレーナーは防波堤の一つになってるのさ」



「そういうことでしたか・・・・確かに。僕も何も分からなかったので、本当に助かってます」



「はっはっは!ギルドに入っていない君から、そう言ってもらえるなんて、嬉しいよ。まあ、トレーナーの募集は『ペーパー』のうちしか参加できないんだがね」





ジャレットさんが、並走している馬の脇腹部分を撫でた。





「ちなみに、この2頭の馬が引いているワゴンも、今回は帰りにだけ乗るようにしている。新人のスタミナを付けるトレーニングの一環さ」



「なるほど・・ジャレットさんは、先生みたいなものですね」



「先生?・・・はは、やめてくれ。俺はそんな柄じゃないさ」





彼は煙を払うように手を振った。





「新人が全員無事にクエストから生還したら、その分、ギルドから良い報酬がもらえるんだ。まあ、割の良い子守りって所さ」





なるほど。

新人を生還させれば、『クエストクリア』と『新人育成』、2つの収入で稼げるっていうことか。





僕は美味しそうな話だと思って聞いていた。

でも・・・彼の次の言葉で、その大変さに気づく。





「割の良い子守りといっても・・・その変わり、責任が伴っちまうんだがね・・・」





ジャレットさんが、右目を瞑り、少しだけ息苦しそうな顔をした。





『割のいい子守り』って軽く言ってるけどさ・・・考えてみたら、それって、責任重大じゃん!?

自分の命だけじゃない。新人の命も守らないとダメってことなんだ!





そんな責任、『医者』と同じくらい重くないか・・?





「まあ。それでも、俺には稼がなきゃいけない事情があってね・・・そのためにやってるって感じさ」





彼は肩をすくめ 、『仕方ないさ』という感じで軽く話している。



そんなプレッシャーを前にしても、こんなに普通でいられるなんて・・・

この人は、本当にすごい人なのかもしれない。







「すごいですね?・・・そんな責任に耐えられるなんて」



「ははは。別にすごくはないさ・・」



「すごいですよ。こんな、素性の知れない僕をパーティーに入れてくれましたし」



「君は自分の素性が知れないと言うけど、冒険者なんて色んな奴らが居るものだよ。君なんて、むしろ『普通』なくらいさ」



「え!?・・・『普通』ですか?」





確かに、他の6人の参加者と比べると僕はかなり控えめだ。



本当に振れるのか分からない大きさの剣を持ってる人。

胸のプレートに変なペインティングを施している人。

中には、歩きながら化粧を施している人までいる。



彼らを眺めてから、ジャレットさんは『ヤレヤレ』と肩をすくめ、僕にヒソヒソと耳打ちしてきた。





「こいつらも、自分の名を挙げようとしてるんだ。自分の活躍が目立つように必死なんだよ」





そんな、『ごつくて派手な装備のご一行』の中、僕は寝間着一着。

確かに地味ではある・・・





「君のその恰好だが、流石に防具を何も付けないのは危険だ。これを貸してあげよう」





ジャレットさんは、隣を歩いていた『大袋を背負ったフードの人』に「あれをくれ」と指示をだした。

フードの人は大袋を地面に置き、中をゴソゴソと探っている。





「こいつは『サポーター職』の『ミル』っていうんだ」





ミルさんは一度立ち上がり、僕の正面に右手を差し出す。





「ミルです。よろしく」





フードを目深に被っているので顔は見えないが、思っていたより高い声をしている人だ。





「よろしくお願いします」





僕も右手を差し出して握手を交わした。





「これを付けてくれ。 ブレストプレートとタセット、あとはガントレットだ」





ジャレットさんが、3つの防具を僕に貸してくれた。

親切にミルさんと二人で僕に装備を付けてくれる。



ブレストプレートは胸部、タセットは股関節周り、両腕のガントレットは前腕までを守る。





こんな量の防具をあの袋に入れていたのか・・・

どんだけ荷物が入るんだろう。



それに、重量も気になる。普通は重くて持てないはずだ・・・

ミルさんって、すごい力持ちなのか?





「本当はもっと防御箇所が必要だし、武器も欲しい所なんだが・・・今日は、これしか持ってきてなくてね」



「い、いえ!そんな・・・・何から何まで、本当にありがとうございます」



「気にするな。言ったろ?これも僕の仕事さ。君が生還すれば、僕の報酬もあがる」





ジャレットさんはそう言って、バチっとウィンクした。





■□■□■□■□■□■□■□■□■□■□ ■□■□■□■□■□■□■□





どれくらい歩いただろうか?

恐らく、20分くらいは歩いたと思う。



屈強な男の脚で徒歩20分。

城から近い訳ではないけど、そこまで遠く離れてもいないと言った所だ。





僕らは、鬱蒼と茂った森に辿り着いた。





「さて・・・・着いたぞ」





なんだか普通の森のように思えるけど、ここにゴブリンの巣があるのか・・・





「よぅし!お前ら!武器を抜け!」





ジャレットさんの号令で、全員が武器を抜き、構えた。





「今からこの森に入り、ゴブリンたちを一掃する」



「隊列を組むぞ!盾を持つものは前衛へ!長物を持つものは前衛のすぐ後ろ!弓は最後尾に!先頭は俺が立つ!」





矢継ぎ早に出される指示に、慌てふためきながらメンバーが移動する。





ここで、僕はパニックです。

だって・・・隊列って何!?

さっきの指示、どれにも該当してないんですけど!?



・・・僕、素手なんですけど?





「あの・・・僕はどこに入れば?」



「君は、さっき『雑用』って言ってたけど、それは『支援職』のことかな?」



ジャレットさんは、もう戦闘モードだ。

眼光鋭く、僕に聞いてきた。



こんな状況で『分かりません』なんて言えない・・良く分からんけど、頷いちゃえ!





「は、はい!そうです!」



「つまりはミルと同じ職種、『サポーター』ってことだな。ではゴブリンの強襲に備えて、弓の前に入って遊撃を担当してくれ」



「わ、わかりました!」





すごいなジャレットさん・・・こんなに的確な指示を出せて。

本当に、リーダーって感じの人だ。





「よし!君と出会えたのも何かの縁だ。無事に戻れたら、一杯奢ってやる!」



「は、はい!ぜひ・・・」





僕はそそくさと、弓矢使いの居る後方に混ざり、後ろの『アーチャーさん』に軽く挨拶。





「よ、よろしく・・・・」



「おう。お互い、生き残ろうぜ」





彼の顔も、緊張で強張っていた。

これから進行が始まるんだ・・・





「では、進めぇぇぇ!!」





ジャレットさんが剣を前に突き出し。僕たちは後ろに続くように、森の中へと進んでいった。

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