22. 真実の残骸(2)
◇ ◇ ◇ ◇
キッキは島の上空を西回りに飛翔する。丁子石が近いのか高くは飛ばず低空飛行を維持する。
「港の方かね?」
「そうらしいな」
マラカイトを砂浜に着陸させるとキッキの後について4人は海岸線を進んだ。
しばらく行くとキッキが木々に覆われたトンネルの入り口にうち捨てられた、トロッコの操車場の屋根に止まる。
トンネルは狭く海岸に突き出た堤防まで赤くさび付いたレールが続いている。
「この中なのか?」
キーファが息をつく。
「ダイヤモンド鉱山だから中は迷路だろうよ」
少し覗いた先は真っ暗で奥の方には一寸の光も届かない。漆黒の闇に包まれている。
「明かりが必要だな」
クラウゼンが言うとジャンが手の平の上に小さな火球を作る。
「行こう」
ジャンの火を頼りに4人は暗いトンネルへと入って行く。
キッキもジャンの明かりが届く範囲でゆっくりと飛んだ。
トロッコのレールはまだまだ先の方まで続いている。
「こんな所にアリューシャかっさらってきてダイヤモンドでも掘らせる気かよ?」
ジャンが怪訝な顔をして周囲を見回す。
「会えばわかるだろうよ」
「だが不味いな。地中だとは分が悪い。奴らにはイエロードラゴンがいるだろう?」
クラウゼンが眉をひそめる。
「関係無いです。奴らが抵抗するなら、トンネルだろうが土ん中だろうが風穴を開けるだけです」
キーファが真っ直ぐに闇の先を睨みつけた。
「あんたならやれるだろうさ」
カサンドラが炎に照らされるキーファを見て微笑した。
しばらく進むと資材置き場にぶつかった。木製のテーブルや椅子、スチール製の棚が置いてある。作業員が一息つくための空間でもあるようだ。柱にはこの炭鉱の地図が掛けてある。
「この先に大きな空間がありますね。道は分かれてる」
レールの続く先は坂道を下るようになり、もう一つは下からの泥を運び出すエレベーターの為の穴が開いている。
ジャンがそこに置かれていたカンテラに火をつける。
「キッキはどっちをしめしてる?」
キッキはその部屋をくるりと飛ぶと、横転しているトロッコに舞い降りた。その先は坂を下っていくレールの続く道だ。
「俺たちも二手に別れますか?」
キーファがクラウゼンの顔を見る。
「あたしも気になってた。4人が固まって挟み撃ちされちゃちょいと怖いね」
クラウゼンがカンテラの灯りを頼りに坑道の地図を指でなぞる。
「そうだな。この先のこの広い空間でまた合流できる。別れてみよう」
「ジャン、あたしと来な」
「うぃっす」
二人がエレベーターの外された狭い縦穴へと向かう。
「じゃあ後で」
「よし、私たちも行くぞ」
クラウゼンの号令でレールの続く道を見る。キーファがカンテラを掲げ先を照らすと、キッキが待っていたかのように飛び上がった。
◇ ◇ ◇ ◇
アリューシャとヨルクはダリアに連れられて、海岸線に続く山に開けられたダイヤモンド抗の中にいた。
その奥は地中とは思えないほど開けた空間が広がっている。
縦の空間はフライハイツの時計塔が収まるほど高く、その広さはアレキサンドライトのような巨大な飛空船の全長ほどだ。
真っ暗な地中を通っているはずなのに、その空間に出た時アリューシャは眩しくて一瞬目がくらんだ。縦坑の上を見上げると、直径3メートルほどの穴が空いていてそこから日が差している事がわかった。
「悪魔の穴よ」ダリアがささやく。
「昔ここで働いてたじいさんが言ってたの。あの穴は一晩で悪魔が開けたそうよ。ドラゴンの魂を食べる為にね」
アリューシャの顔が強ばる。
「冗談よ」
縦坑の上部に繋がっていたトンネルからは壁に沿うようにして階段が作られていた。竪穴自体がまるで巨大な螺旋階段のようだ。その土壁の中に所々煌めく結晶が見える。
「これってダイヤモンドの欠片ですか?」
アリューシャに声をかけられ振り向いたダリアがしたり顔で笑う。
「ここでダイヤモンドは取れないわ」
「でも『ダイヤモンド抗』だってダリアさんも言いませんでしたか?」
「言ったわよ。表向きそういうことになってたのよ」
「表向き?」
「ここはね、ドラゴンストーンの採掘場よ」
アリューシャが驚いて目を見開く。
さっきの悪魔の穴の話……
ハッとしたアリューシャの顔を見てダリアが目を細めた。
「そうよ。悪魔がドラゴンの魂を食らいに来たってわけ。昔いくつか発見されたのよ。それで閉山の予定を大幅に延長してここを掘り続けた。でもその後ドラゴンストーンは一つもみつからなかったのよ。まあ、人の手だけじゃそうなんでしょうね」
「人の手?」
「ええそうよ。イエロードラゴンがいれば話は別」
「……リリーさんみたいな?」