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転生勇者とついでに魔王~異世界転生した勇者と柴犬魔王の凸凹コンビ~  作者: よしぞう


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第1話 伝説の続きは異世界で

魔王との決戦に挑む勇者

その死闘の果てに・・・・・。

挿絵(By みてみん)

プロローグ:終焉の魔王城


 人類と魔族の最終決戦。


 それは、魔族の本拠地である魔王城の中央にそびえ立つ巨大な尖塔、通称「黒の塔」の最上階、魔王ゼルザ・ネクロヴァルの王座の間で行われていた。


 床も壁も、全て血と肉片で埋め尽くされている。


 勇者ライナスも、全身を自身の血と返り血で真っ赤に染めていた。


 左手に持っていた盾は砕け散り、兜は邪魔になるので自ら脱いだ。


 傷付いても自動で修復されるはずの鎧は、自己修復が追い付かず、ひび割れ、大きな穴が開いている。


 金髪碧眼、逞しい長身の勇者は、両手で聖剣エルグレイザの柄を強く握りしめた。


 これまで数多の魔族を切り伏せてきたその聖剣の切っ先は、彼より遥かに巨漢で、邪悪な姿をした魔王に向けられている。


 この魔王の間に突入した時、勇者には数人の仲間がいた。


 死者すら蘇らせることができる大僧侶。


 城壁よりも固い守りを誇るタンク。


 誰よりも正義を愛し、勇者に勝るとも劣らない剣技の持ち主である女騎士。


 山をも一撃で吹き飛ばす攻撃魔法が使える女魔術師。


 そして、身軽なシーフにして長寿の女性のエルフ。


 しかし、今、魔王の前に立っているのは勇者だけだ。


 大僧侶は真っ先に魔族たちの集中攻撃を受けてしまった。


 彼の蘇生魔術は、ライナスがまだ未熟な若造だった頃、魔族によって命を奪われた彼を何度も蘇らせ、そのおかげで貴重な経験を積み、彼を人類最強の勇者に育て上げた。


 言い方を変えれば、彼さえ生きていれば、勇者パーティーはいくらでもやり直しができた。


 当然、そのことは魔王たちも知っていたため、一番最初に狙われたのだ。


 当然、ライナスたちは必死になって大僧侶を守ろうとしたが、力及ばず、今は原形を留めない肉塊になっている。


 頑丈な盾と鎧、そしてそれ以上に固い筋肉によって勇者たちの盾になっていたタンクは、魔王軍最強の暗黒龍のブレスをまともに浴びて、盾も鎧も筋肉も溶けてしまった。


 女騎士と魔術師は、まだ辛うじて生きてはいるが、意識不明の重体だ。


 勇者も高度な治癒魔法が使えるため、どのような状態であれ、生きてさえいてくれれば助けることができる。


 一刻も早く二人を助けたかったが、さすがに今は無理だ。


 ほんのわずかでも隙を見せれば、魔王の容赦ない一撃でライナスの命が失われてしまうからだ。


 女シーフのエルフは姿が見えない。


 彼女は、敵の罠や奇襲を防ぐために、いつも周囲に目を配っていてくれた。


 おそらく今も、見えないところで魔王の配下と戦っているのだろう。


 魔王ゼルザ・ネクロヴァルも、勇者パーティーと同じような状態だ。


 最強の配下である暗黒龍は、勇者の聖剣エルグレイザによって首を切り落とされている。


 それ以外の配下も、ことごとく切り伏せられていた。


 魔王軍で一番厄介だったのは、死霊使いネクロマンサーだ。


 奴はその能力で、死霊や死体を自在に操ることができた。


 つまり、現在のこの状況は、ネクロマンサーにとって、手駒がゴロゴロ転がっている状態なのだ。


 その死霊使いの姿は、先ほどから見えなくなっている。


 もしかしたら、エルフがどこかで足止めしているのかもしれなかったが、確認のしようがなかった。


「ライナスよ、おそらく次の一撃で、我か貴様の命が尽きることになるだろう」


 魔王ゼルザ・ネクロヴァルが、低い声で呻くようにそう言った。


「安心しろ、魔王。苦しまないように仕留めてやる」


 勇者ライナスも、口元に笑みを浮かべつつそう答える。


「ぬかしよるわ。いいだろう、さあ来るがよい」


 そう言うと、魔王が漆黒の巨大な鎌を構えた。


「行くぞ」


 ライナスがそう言うと、腰を下げ、聖剣を振りかぶった。


 魔を切るために、ドワーフが地底の奥底で百年かけて鍛え上げた聖剣エルグレイザ。


 この剣には意志があり、自ら使い手を選ぶ。


『勇者よ、次の一振りに全てを賭けよ』


「ああ、もちろんだ」


 聖剣の思念が、直接頭に語り掛けてくる。


「ハァ!!」


 気合一閃、勇者の姿が消えた。


 いや、あまりに速すぎて、そう感じただけだ。


 勇者ライナスはまず頭上に飛び、天井を蹴って魔王に向けて必殺の一撃を放った。


 しかし、さすがは魔族を統べる者、ゼルザ・ネクロヴァルである。


 その閃光のような勇者の攻撃を、漆黒の鎌で受け止めた。


 いや、受け止めたように見えたが、その瞬間、両者の武器が砕け散る。


 聖剣と漆黒の鎌が折れた。


 この世界で、魔王を唯一倒せる武具、聖剣エルグレイザが砕けた時点で、魔王は勝利を確信した。


 しかし、その時、折れたはずの聖剣の刀身が光を放つ。


 それこそが、聖剣の真なる姿だった。


「ウギャアアアアアア!!」


 常人であれば、聞くだけで精神が崩壊するような絶叫を上げる魔王。


 そして、その体を一刀両断にした勇者。


 聖剣の光の刃が消えると、勇者がガクッと膝をついた。


 そして、目の前に倒れている魔王を睨みつける。


 これが普通の剣や魔法による攻撃であれば、魔王の身体はたちどころに治癒し、疲労が限界に達した勇者に止めを刺したことだろう。


 そう、魔王は首を刎ねられても死なないのだ。


 しかし、今はその傷が塞がらない。


 それこそが、聖剣エルグレイザの能力だった。


「見事だ、勇者……」


 人間であれば即死する傷を負っても、魔王はまだ辛うじて生きていた。


 それだけではなく、しゃべっている。


「フフ……確かに我は破れた。だがな、勇者よ、我はこの程度では滅びぬぞ」


 苦しそうにそう呻く魔王の紫色の血が、床に広がっていく。


「往生際が悪いぞ」


「……ゴフッ……その通り、我は往生際が悪いのだ……」


 その時、ライナスは何か嫌な予感がして立ち上がった。


 そして驚く。


 床に広がった魔王の血が、魔法陣を描いていたのだ。


 そして、彼には、それが何なのか分かった。


「て、転生の魔法陣だと?!」


 ライナスが目を見開いてそう叫んだ。


 そう、魔王ゼルザ・ネクロヴァルは、自分が倒された時に備え、玉座の間の床に転生の魔法陣を準備していたのだ。


 それは、いつの時代、どこの世界になるか分からない。


 ただ、勇者がいない世界を支配するなど、彼にとってはたやすいことだろう。


「さらばだ、勇者よ」


 そう言うと、魔王がガクッと首を垂れた。


「させるか!!」


 ライナスはそう叫ぶと、刀身の折れた聖剣を逆手に構え、魔法陣に切りかかった。


 その瞬間、視界が白く弾ける。


 空間がねじれ、肉体が引き裂かれるような激痛とともに、勇者ライナスの意識は暗い闇の中へと落ちていったのだった。




【再 誕】


「おぎゃああああ!!」


 叫び声を上げながら闇へ落ちていった勇者ライナスだったが、直後に自身の叫び声を聞いて驚いた。


 妙に甲高い。


 何だと? いや、そもそも体が自由に動かない。しゃべることもできず、視界もぼやけている。


 確かに意識はある。記憶も、それは同じだ。


 俺は、ライナス。勇者にして、魔王を倒した者。


 体は横になっているため、視界が限られている。


 屋内だというのに、妙に明るい白い天井と、感極まった表情の大人たちが見えた。


「ああ~っ、可愛い、元気な赤ちゃん。男の子ですよ」


 何を言っているんだ? 赤ちゃん? 男の子?


 体を起こそうとするが、まともに手足を動かせない。


「ええ、この子の名前は決めていたの」


 すぐ側で、若い女性の声が聞こえる。


「龍太、茂野・龍太よ」


 何を言っている、俺の名前はライナス……勇者ライナスだ……って、ああっ!!


 そして彼は思い出した。


 俺は、魔王の転生の魔法陣の発動に巻き込まれたのか?!


 その通り、彼は時と世界線を越えて、現代の日本に赤ん坊として転生してしまったのだ。


 もちろん、記憶はある。


 剣の技も、魔法の知識も、そして何より、異世界における魔王との命がけの戦いも。


 だが、今の彼はただの無力な赤ん坊だ。


 しゃべれず、歩けず、ただ泣くことしかできない。


 とんでもないことになってしまったな。


 ここがどこの世界かは知らないが、魔王も転生している可能性がある。


 奴も転生をしたはずだから、すぐには動けないだろうが……ああっ、何ということだ。


 勇者ライナス改め、茂野家の赤ちゃん、龍太の新たな人生が、ここから始まったのだった。




【この世界の勇者】


 勇者ライナスが転生をして半年が過ぎた。


 異世界では、生身の身体で空を飛び、聖剣の一振りでドラゴンの首を切り落としていた彼だったが、茂野・龍太は、ようやくハイハイと寝返りをマスターしたレベルだ。


 この世界の赤ん坊は、本当に無力だ。


 ベビーベッドに寝かされ、天井を見上げつつ、彼はそう考えていた。


 もっとも、異世界でも赤ん坊は無力だったが。


 とりあえず、そのような状態でも龍太は諦めなかった。


 目を閉じ、意識を集中すると、身体の中を少しずつ魔力が流れるのを感じる。


 体は思うように動かせないが、日々の訓練は欠かさなかった。


 元々、あの転生の魔法陣は、魔王を異世界に転生させるためのものだった。


 それを発動直前に、折れた聖剣エルグレイザで傷つけたために、自分も巻き込まれてしまったのだろう。


 つまり、魔王ゼルザ・ネクロヴァルも、この世界に転生している可能性は高い。


 同時期に転生をしていたなら、まだいいが、もしかしてその時期がずれているかもしれない。


 もし十年単位で魔王が先にこの世界で誕生していたら大変だ。


 今の自分では、言葉の通り、赤子の手をひねるがごとくやられてしまうだろう。


 焦っても仕方がない。今は鍛錬だ。


 龍太は精一杯体を捻り、手足を動かして寝返りを打つ。


 そして、ベビーベッドの端まで移動すると、反対側へ。


「あらあら、龍太は、本当に元気ねぇ~」


 この世界における母親がそう言うと、手を伸ばして抱き上げてくれた。


 ああっ、何と言うか、とても心安らぐ……。


 魂は異世界の勇者だが、身体は赤ん坊でしかない。


 そして、この日、彼はこの世界における啓示を受けるのだった。


「龍太は男の子だから、こういうの好きかな?」


 そう言うと、龍太を抱っこしたまま、母親がテレビのリモコンを操作した。


 すると、画面に派手な爆発が映り、魔族っぽい外見の敵を、派手なスーツ姿のヒーローが蹴り飛ばしている。


 な、なんだこれは? 戦っている?


『正義の守護者! 雷轟戦士サンダーヴァルカン参上!!』


 画面の中で、名乗りを上げたヒーローがビシッとポーズを決めて叫ぶ。


 初めてこのテレビを観た時は、思わず泣いてしまうほど驚いた。


 異世界にも、水晶や鏡に遠くにいる人間の姿を映す魔道具はあった。


 しかし、この長方形の黒い板は、一切魔力を流さなくても、画面いっぱいに映像を映すことができるのだ。


 初めて見た時こそ驚いたが、すぐに慣れて、素直にその技術の結晶を楽しむようになった。


 ただ、昨日まで母親が見せてくれたのは、幼い子供や、やたらと見た目は可愛いが、サイズは大きな動くぬいぐるみが映る子供向けの映像ばかりだった。


 しかし、今日は違う。


 こ、これは?! まさか、この世界の勇者か?!


 やはり、この世界にも魔王、もしくはそれに類する存在がいて、日夜戦い続けていたのか……。


 口惜しい。俺の身体がもっと自由に動けば、今すぐに駆け付けてパーティーを組むのに。


 それにしても、何でいちいちあんな派手なポーズを取るんだ?


『悪の帝国ネガトロンめ、この地球をお前たちの好きにはさせないぞ!! このサンダーヴァルカンが相手だ!!』


 画面の中で、サンダーヴァルカンが叫ぶ。


 なるほど、この世界では魔族のことをネガトロンと呼んでいるのだな。


 確かに、その方がより邪悪な気がする。


 さすがと言うべきか、この世界の勇者サンダーヴァルカンは、手から光線を出したり、刀身が光る剣で戦い続けている。


 凄い。


 聖剣エルグレイザですら、一瞬しか出せなかった光の刃を、あんな長時間も。


 この世界の勇者は、並外れた魔力の持ち主のようだ。


 是非、弟子入りして教えを請いたい。


 そのようなことを考えている間に、戦いは佳境に入る。


『行くぞ、必殺、グレートヴァルカン!!』


 そう叫ぶと、サンダーヴァルカンの目の前に、多銃身のチェーンガンのようなものが出現する。


 それを両手で掴むと、魔族っぽい敵に向けて引き金を引いた。


 雨粒のようなレーザーの奔流が敵に次々と命中し、爆発した。


 な、なんという威力だ……。


 自らの未熟さを痛感した龍太だった。


 こうして毎週日曜日の朝七時半になると、龍太は姿勢を正し、真剣な表情で特撮ヒーローものを観るのが日課となった。

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