山の頂上にて
風が吹きすさぶ山の頂で、僕らは生まれ育った町を見下ろした。
「あれ、お前の家だな」
友人が指さすあたりには、確かに小さくなった僕の家の赤い屋根が見えた。
「あっほんとだ」
僕はここに来る前に買ったポカリスエットをグビリと飲んだ。
「あっちに、お前の家もあるよ」
「ほんとだ。ミニチュアみたいだな」
「……こうやって見ると、僕たちの住む世界ってほんとにちっぽけだなぁ」
僕は何となく物憂げの気持ちになって、そう呟くと、友人も"そうだなぁ"と呟いた。
その後、僕らはただ黙ってその場に佇んでいた……
「いや、違う違う違う」
僕は自分と、この状況に対してツッコんだ。
「エロ本を探しに来たんだよ、僕たち」
「あっ」
友人は口を大きく開けて、"確かに"と、拳をもう片方の手の平にパチリと打ち付けた。
「そうだそうだ。エロ本を探さないと」
「いや、まあ僕らはずっと探してたんだけどね」
道中、友人が言う物置小屋を探しながら登ってきたが、それらしい小屋は結局、見当たらなかった。
「そもそも入り口はあそこでよかったのか?」
僕は友人に尋ねた。
「いやぁ、そんなこと聞かれてもなぁ」
「えっ」
僕はこの男の適当さに、目を見張った。
「なんで、そんな重要なこと聞いとかないんだよ。そもそも、正確な場所を聞いておけよ」
「まあまあ、過ぎたことを言っても仕方ないやろ」
友人は屈伸をして、体をほぐしていた。
「よぉし、次はあっちや」
友人が指さしたのは北側の登山口に出る登山路だった。
僕らが歩いてきた南側の登山路とは逆方向だ。
僕はその場に座り込んだ。
友人が、そんな僕を見て驚いた様子を見せる。
「えっ、なんで座ってるん?」
「ごめん、"ガス欠"」
僕は空を見上げた。
「エロという名の"ガソリン"が、切れてしまった……今は"面倒くさい"が強い」
「おいおい、ここまで来て辞めるっていうんか」
「うん。ここまで来たが、辞めようと思う。今までありがとう」
僕は友人に別れを告げると、その場に寝転がった。
雲って色んな形があって面白い。
あれは竜みたいに見えるなぁ。ああ、羽がもう片方あったらいい感じなんだけど……
「タカザキサンは……」
そんな僕に向けて、友人は語り掛ける。
いいや、構うものか。おっ、あっちにある雲は"おっぱい"に見えるぞ。
「巨乳好きなんだ……」
僕は"がばっ"と勢いよく起き上がった。
余りに勢いよく起き上がりすぎて、頭の後ろの方にじわぁっと鈍痛が広がった。
「なんて言ったんだ、今」
友人は僕に背を向けて、今にも出発しようとしていた。
「いや、何てことはないさ。今から道を違えて進む人間のただの戯言さ……忘れてくれ」
友人が、とぼとぼと歩きだした。
僕は立ち上がった。
「いや、今の言葉は聞き捨てならない。頼む。もう一回言って」
友人が立ち止まり、こちらを振り返る。
「……タカザキサンはスレンダー巨乳好きで、そのエロ本だけを100冊以上所持していた様だ。まあしかし、これはもうお前には必要のない情報だったな。だって、お前はここで諦めて帰るんだから」
友人はわざとらしく項垂れた首を横に振ると、とぼとぼと歩みを進める。
そして、右手をだらしなく上げて、小さな声でこう言った。
「あばよ」
友人が、北の登山路に向けて去っていく。
僕は走って、友人の前に躍り出た。
「ふっ……そんな大事な情報を隠していたとはね」
僕はそう言って笑みをこぼす。
友人もそんな僕を見て、ニヤリと笑った。
「おい、ガソリン……切れたんじゃなかったんか?」
「さっきまではね。だけど今は"満タン"だぜ!」
あんまり”だぜ”とか言わないんだけど、テンションが上がり過ぎて言ってしまった。
僕らは互いの片腕を前に出すと、交差させてぶつけた。
これは意見が合致したときに、僕らがよくやる行いの一つだ。
こうして僕らは、山の北側の捜索に歩を進めることとなった。




